第23.5話「何気ない朝」

「おはよー」

「おぉ、早いな」


 勇者様御一行と対戦した翌日。

 何かあったのか、朝早くに珍しくエマが受付の席に座っていた。

 俺も近くの椅子に座る。


「今日はね、お母さんが早朝から隣街へ出掛けてるから、店番なんだよ。偉いでしょ?」

「そうだな、偉い偉い」

「思ってないでしょ」

「ははっ」


 エマは頬をムッと膨らませて俺をジト目で睨みつける。そんなに俺のことが好きなのかな。全く、しゃーねぇなぁ。かわいいヤツめ、こんにゃろ! ……うわ、俺キモ。

 頭の中でエマを撫でたところで、昨日の事をふと思い出した。


「そういや、リノエは?」

「リノエ? あぁ、昨日の女の子……。今日はまだ見てないよ」

「そっか、ありがと。じゃあ朝食を先に……」


 俺は立ち上がり、三百ゴールドをエマに渡す。


「日替わりね、まいど~」


 俺はテーブルのある席に腰掛けると、冒険者カードを取り出して、認証マークに指で触れる。

 更新されたカードを見てみると、レベルが9になっていた。

 レベルはゲームみたいに、上がれば上がるほど伸びづらくなっていくらしい。

 ここまで早くレベルが9まで上がったのは、リーフドラゴンやヒソウとの戦いが大きいのではないだろうか。この調子で、マックスのレベル100を目指す。

 お、スキルポイントも貯まってるな。新しいスキルを獲得したいところだ。剣技ならフィリスに、魔法ならリノエに習った方がスキルを上手く扱えそうだな。というのも、例えスキルを獲得できても、使えるかどうかはその人の腕次第なのだ。つまり、どんなにチートスキルを取得しても、使いこなせなければスキルポイントの無駄遣いである。

 ……ん、パーティの項目にリノエが追加されてる。いつの間に登録したのだろう。まあ、手間が省けたから良しとしようか。

 そうだ、パーティと言えば、イヴの件もあった。時間に余裕はあるが、支度を終えたらすぐに冒険者ギルドへ向かうとしよう。


「ん……?」


 俺のスキル一覧に、見慣れないものがあったため、気になって文字を指でなぞる。すると、スキルの詳細が映し出された。最近覚えた冒険者カードの豆知識である。

 なになに……、ギフトスキル《全知》。なんだろう、これ。


《全知》・『チトセ・イツキ』のギフトスキル。目に映る物を分析し、情報を知識として記憶する。

《ギフトスキル》・世界の境地を越えようとする者に与えられる固有のスキル。一体につき、二つ獲得することが可能。


 昨日の脳裏に侵入してきた情報は、この《全知》というスキルの仕業か。他世界人からしたら、かなり便利な能力だな。


「お、冒険者カードだ! 私も見たいなー」

「初心者のを見たってつまらないだろ」


 ボーッとしていたら、背後から覗く様に看板娘が飛び出してきた。気になっている様子なので、冒険者カードをエマの見やすい位置に置く。


「関係ないよ! ツキくんのだから気になるのだよ‼」

「ほーん、で、『ツキくん』ってのはなんだ?」

「私、あだ名考えるの得意なの! あ、嫌だったら止めるよ……?」


 なんか知らない間にあだ名が付いていた。カップルっぽくて良いな。……浮気ではない。


「むしろ大歓迎だ」

「ほんと! 決まりね!」


 置かれた水を一口だけ飲んだ俺は、裏のキッチンから香る朝食の匂いにお腹を空かせながら、もう一度水を口へ流した。

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