第22話「リノエVSパウロス」
「二戦目、始めッ!」
二戦目の対戦カードは、俺らのパーティからリノエが、勇者パーティからはパウロスが選出。
リノエはうちの最高戦力並の力を有している。負けることはないと思うけど……彼女に全くやる気を感じない。
ちなみに、対戦を終えた俺は、スタジアムのベンチではなく、観客席で試合を見守ることにした。なんてったって、相手ベンチのヒソウは俯いてるし、ノエルは無表情だし、フィリスはなんか食べてるしで居づらいのだ。おい最後、緊張感無さすぎだろ。
「い、イツキ……」
「気にすんな。アホみたいなお姉さんのおかげでほら、貫通した手も元通りだ!」
「あ、アホ……? 今、アホって言った?」
申し訳なさそうにイヴが俺を見つめる。何度見ても可愛らしい女の子にしか見えない。もしこれがリノエだったら弁償させるが、子供相手に見返りを求めるつもりはないし、俺がやりたくてやったことだから、責任を負われる道理も無い。
「こ、こほん。イヴちゃん、イツキくんはあんな顔でも、やる時はやるっしょ⁉ まじかっこよかったよね‼」
「うん……!」
「ん、あんな顔……?」
ミリナさんにアホなんて言ったら仕返しされた。で、俺の顔のどこが『あんな顔』だって? 自分ではそこそこイケてると思っている。……思っている。
浮かない感情が顔に出ていたのか、慰める様なミリナさんの優しい声が耳元で響いた。
「ごめんじゃん、冗談だから気にすんなって~」
そう言ってワシワシと俺の頭を撫でる。
ミリナさんの手を払った俺は、スタジアムを覗いた。しかし、試合開始の合図から三分ほど経っているはずだが、二人に動きは見られない。一体、どうしたのだろう。
「あ、あの、始まってますよ……?」
審判のお姉さんが二人の顔を覗き込む。
「おーっと! 両者共に一歩も動かない! 何が起きているのか⁉」
そして本日二度目、アテスの実況がうるさい。ていうか、要らないと思う。……いや、アテスの大きな声によって、二人とも肩をビクつかせた。おいおい、もしかして……。
「うるさいわね……」
「全くだぜ」
リノエは目を擦り、パウロスは腕を伸ばす。そう、コイツらは寝ていたのだ。立ったまま寝るとか少年漫画かよ。
「この状況で寝るなんてアイツら、緊張感がまるで無いな……」
「ふふ、元気そうに見えるパウロス、実はね……」
思ったことを口にしていると、隣から悪魔の囁きが聞こえ始めた。怖いので耳を塞いでスタジアムを見ることに集中する。イヴしば、恐るべし。
「では、早く終わらせたいから、手短にやらせてもらうわよ」
「おいおい、吾輩に勝利するつもりか?」
「もちろん」
「ふっ、面白い。受けて立つぞ」
「今の、そんなに面白かったかしら。なら、いいこと教えてあげるわ。うちのゴブリンの方が何倍も面白いのよ、ふふっ」
思ったよりもリノエがやる気である。俺としても、自信に満ち溢れたアイツの表情を見ると、どこか負ける気がしない。……一言か二言くらい余計だけど。
「忠告、わたくしを見逃したら貴方の負けよ。《ドッペル》」
リノエの影が三つに割れ、そのうち二つはリノエから少し離れる。それぞれ二つの影の中心から、黒い何かが飛び出して、人型へと変形していった。
やがてそれは、リノエそっくりの分身へと変化していく。
「そんな小細工が吾輩に通用するとでも思ったか?」
「《フランマ》、《フルメン》」
「分身にそれぞれ、炎魔法と雷魔法か……面白い」
二つ存在する分身のうち、片方は手に雷を生み出して、パウロスの元へと走った。
しかし、パウロスも余裕の笑みで大剣を地面に突き刺す。
次第に地面は割れ、中から大きな岩が飛び出してきた。俺の記憶じゃ、土や岩に雷は無効だったはず。まあ、俺より遥かに知識が豊富なリノエなら、今頃とっくに策の一つや二つ、考えているのではないだろうか。
「《ウンブラ・リプレイス》」
気力の無い目で分身を見つめると、次の瞬間には雷を扱っていたはずの分身が、風を放っていた。なんだろう、あのスキル。
すると、俺の脳裏に欲した情報が流れていく。
《リプレイス》・対象と対象の位置を入れ替えるスキル。
《ウンブラ・リプレイス》・自身または分身と分身の位置を入れ替えるスキル。
つまりはシャンブルズみたいなものか。この世界ではオペオペしなくても使えてしまうというのだ。で、なんで情報が脳裏に侵入してんの。
「《ヴェントゥス》ッ」
力強く込められたリノエの魔法は、軽々しく岩を砕き、巨体のパウロスをも動かした。
「くっ、一瞬のうちに雷魔法から風魔法に変化だと……?」
「後ろ、ガラ空きよ」
パウロスがなんとか体勢を立て直した隙に、もう一体の分身が炎魔法をパウロスにぶつける。その威力は凄まじく、衝撃で魔法を放った分身は黒い塵となって消えた。
「熱いなァ……!」
「チッ……」
「次は吾輩の番だぞ、小娘!」
なんとパウロスは、高威力の炎を食らっても無傷どころか、笑顔だ。なんとも強靭な身体。
すると、隣に座ってるミリナさんが、スタジアムからは目を離さずにそっと呟く。
「あの娘、リノエちゃんだっけ? かなり凄腕の魔法使いだねぇ……」
「確かに凄いとは思います。けどあのレベル、上級者になれば、うじゃうじゃ居るのでは?」
「そういないって! あの子、まだ本気じゃない……! それに、頭の使い方がマジで天才。もう少しレベルが高ければ、勇者にだって引けを取らない強さだよ」
「ま、まじかよ……」
とんでもなく凄いやつなのは、その戦いぶりや今日の出来事でなんとなく理解しているつもりだったが、世界レベルに到達できるほどだったなんて、思ってもいなかった。
見た目とは反対に努力をしてきたんだろうな。これに勝ったらご褒美でもあげよう。
だがしかし、分かりきったことだが、パウロスも強者である。
「《獅子の鬣》」
パウロスの体全体が金色に輝いた後、ガラスみたいに割れた。まるで脱皮したかの様に。
そして、割れた謎の光は、パウロスの周りを浮遊している。
「あ、あれは……?」
「パウロスのスキル――《獅子の鬣》はね、受けた攻撃を自身の力に変化させる能力なんだよ!」
「それ、最強じゃね」
「いや、まじそれなすぎ!」
どんなに高威力でも、ほとんどの攻撃以は跳ね返されてしまう。これが勇者パーティ……。その止まることを知らないパウロスのオーラは、次第にリノエの顔に焦りを与えた。ペースまで崩されている。どうにかしなければ……。
「リノエ! お前の魔法は勇者の下っ端に劣るほどの力だったのかー? 俺でも勝てたレベルだぞ?」
辿り着いた結果は、煽りだ。プライドの高そうなリノエにとって、俺に負けるのは屈辱以外のなにものでもないだろう。そんなリノエの瞳はパウロスを睨んだままだが、頬は微かに緩んだ様な気がした。
「あら、貴方には見えていなかったのかしら? 私の勝利が」
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