第16.5話「美食家?」
「貴方、スライムの扱いが上手なのね」
「スライムマスターだからな」
受けたクエストを片付け、スライムを呼んだ俺は、瞬く間に従わせ、俺らを街まで運んでもらった。
それからはギルドまで歩き、扉を開けて、今に至る。
そしてひとつ、判ったことがある。
なんと、『スノースライム』はひんやりしていて、『ヒートスライム』は暖かいのだ。夏と冬で使い分けたらきっと快適だろう。
そうだ、暇な時にでも、特定の種類のスライムを呼べるように練習でもするか!
そんなくだらないことを考えていると、後ろから肩を叩かれた様な感触がした。俺は感触に従って、感じた方へ体を向ける。
「よ、イツキくんじゃーん! おっすー」
「よ、よよ、よっすー」
「あはっ! 陰キャ丸出しじゃーん」
「は、ははっ……」
ギルドに着いたはいいものの、今朝のギャル受付嬢さんが仕事を放棄して、ギルド内の居酒屋席で飲み食いしている。いや、よく見たら受付は違う人がしていた。仕事終わりなのだろうか。
そしてフィリスは……というと、お腹が空いていて何も話さない。実のところ、コイツが一番めんどくさいと思う。ちなみにリノエはうざい。
「リノエ、クエスト報告はやっとくから、フィリスになんか食わせてやれ」
「こっそり報酬分けに不正なんてしたら、ただじゃおかないわよ」
「へいへい」
ぎゅるぎゅると腹を鳴らすフィリスを見送った俺は、受付へ足を進める。
「クエストを終わらせて来ました」
「はい、では依頼書と冒険者カードをお願いします」
「どうぞ」
「確認しますね」
受付嬢さんは冒険者カードを認証装置にかざし、依頼リストをペラペラとめくった後、依頼書に印を押す。
「確認しました。こちら、依頼報酬です。冒険者カードの更新もしておきましたので」
「ありがとうございます」
俺は報酬と冒険者カードを受け取って、仲間の居る席へと向かった。
「受け取って来たぞー」
「いふひぃ! ふぉれふふぁいふぉ!」
「口に食べ物を入れながら喋るな」
「全くよ……」
ギルド内の居酒屋スペースにちょっとした階段があり、そこを上がった所にあるテーブルのイスに座っていたリノエは、頬杖をついてフィリスの食事を見守っていた。
だが、俺が来た途端こちらを……報酬を見ている。そんなにお金が好きなのかよ。
「イツキ! これ美味いぞ!」
「ん、おお、まともな飯。そんなのメニューにあったか?」
「貴方が見たのは裏メニューでなくて?」
リノエはメニュー表を裏返しにした。そこに書かれてあるのは、昨日俺が見たメニューだ。
なるほど、裏表で通常メニューと裏メニューを分けてあるのか。なんか微妙にズレてないか? 裏メニューってそういう意味じゃないだろ。昨日の水代返せ。
すると、テーブルのベルを押したリノエは、俺に向かって話しを始めた。
「イツキくんは何にするの? 早く注文をして、そしてさっさと報酬をよこしなさい」
「お前なぁ……」
「何よ、わたくしが居なければ何も出来なかったくせに、とても偉そうね」
「うっ……、返す言葉が見当たらない」
俺の目の前でドヤ顔を見せたリノエは、メニューを見ながら人差し指で小刻みにテーブルを叩いている。迷惑客のソレだ。やめてくれ、恥ずかしい。
すると、注文を訪ねに来たであろうメイドさんが登場。そういや、メニューを見てなかった。いや、リノエのやつ、俺への嫌がらせなのか、わざと困らせたに違いない。
「ご注文をお伺いします」
「わたくしは冒険者ステーキのミディアムで」
「俺も同じのを頼む」
「冒険者ステーキのミディアムがお二つですね、他にご注文はございませんか?」
「フライドポテトとサラダを追加してくれ!」
「お前、まだ食うの?」
「当たり前だぞ‼」
コイツ、今食べている分の皿からすると、俺が食べる一食の八倍あるぞ。ル◯ィや孫◯空と張り合うつもりなの。それとも何、ジャ◯プ作品に出たいの?
「フライドポテトにサラダっと……他にご注文は?」
「あと、このビーフ……」
「……以上で」
「おい、イツキ!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってメイドさんは厨房へと向かった。
そして、フィリスはジト目でこちらを睨みつけている。お腹を膨らませながら。なに、妊娠した? マジで漫画みたいな現象が起きてるのだが。本当にジャ◯プ主人公を目指してるのかよ。
「じゃ、報酬を渡すな。ほいっ」
「ん」
「すまないな、イツキ」
俺はあらかじめ報酬の袋を三つに分けておき、今回の功労者であるリノエには、何もしてない俺らの方から報酬を少し多く入れておいた。正確にはフィリスの分を少しと俺の分の半分だが。
さて、お嬢様は満足してくれたかな……?
「ふん、まあまあね。明日は報酬の良いクエストを受けるわよ」
「へいへい」
ムカつくが、戦力面を考えると否めない。てか、俺とフィリスの分を分けても満足しないのかよ。どこのお嬢様なんだ、全く。
そうこう考えているうちに、メイドさんが料理を運んできた。早い安い美味い! ……味は分からないが、通常メニューの品はきっと美味しいのだろう。ということで実食。
「お待たせしました。冒険者ステーキのミディアムとフライドポテトです。こちら、鉄板が熱いのでお気をつけてください」
「どうも」
メイドさんが離れたのを確認した俺は、テーブルに設置されてある置物から、フォークとナイフを取ろうと手を伸ばした。しかし、リノエも取ろうとしたのか、俺とリノエの手が触れた。
俺の手が少し早かったため、リノエは少し手を離す。流れでフォークとナイフを握り、リノエに渡した。
「ほい」
「あ、ありがと……」
なんだよ、照れてるのか? 可愛いやつめ、と思いながらリノエの顔を覗くと、嫌いな虫でも触ったのかってほどに嫌悪の表情をしていた。そんなに俺のこと嫌いなのかよ。いや、昔にもされたことあるから耐性持ちだけどさ。
あれはそう、遠い冬の思い出…………おっと、今は闇に浸る時間じゃないぞ、イツキ。料理を堪能するんだ。
「いただきます……!」
皿の上に君臨するお肉をフォークで抑え、ナイフを入れると、スっと切れて脂がジュワッと出てきた。切った肉にソースを反面つけて口へ運ぶ。
「――ッ!」
こ、これは……! 口に入った瞬間に感じる肉本体の旨みに加え、あらかじめ肉と混ぜておいたスパイスが紙一重レベルで絶妙に絡む。
そして、歯と顎に馴染む食感、謎のとろみが……もしやコイツは卵⁉ 一見シンプルな食材だが、そのポテンシャルは凄まじい。何より、添えられたにんにくで風味も増し、後味はどこか爽やかである。
「その爽やかさの正体は……レモンね」
俺の対面に座る一人の少女が、その秘密を暴く。
「レモン……だと?」
「えぇ、少し離れた所に、フルーツが盛んな街があるのだけれど、そこには『ゴールデンユーレカ』や『フレッシュリスボン』など、多種多様なレモンが育てられているの。その中からいくつか混ぜて調味料として使ってるのよ。まぁ、使ってるのはレモンだけでは無いでしょうけどね」
「さすがの知識量だな……」
しかし、なんだこの品は。こ、こんなのっ……おかしくなるぅ――ッ‼
「なんで服が破れているのよ……」
「『おはだけ』だ」
「は?」
「なんでもない」
機嫌が悪いのか、リノエは無表情で切った肉をフォークで刺し、口へと運んだ。いつも基本無表情だけど。なんか悪いことしたかな、美味いもん食ったら『おばだけ』くらいするだろ。なんなら『おはじけ』する時もある。きっと、料理人の名前はソーマに違いない。
そして、各々食事を終えた俺らは、お開きにしようと明日の予定について話し合う流れになった。
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