第15話「魔力の代償」
「リノエ、魔法でもう一つお願いをしたいことがある……」
「無理よ」
「かの『大魔法使い様』でもできないのか?」
「わたくしは先程、二つ言い忘れたことがあると言ったわよね」
「確かにそんなこと言ってたな……で、なんだよ?」
一息置いたリノエは、指を使って説明を始めた。
「わたくしの魔素は睡眠の質と時間に比例するの。より多くの魔素を使えば、すぐに眠気に襲われてしまうわ」
「一生寝とけ。永眠しろ」
「それで、先程の魔法はかなり魔素を消費するものなの。つまり、残りの魔素では大した魔法が使えないわ。使っても倒れてしまうわね」
「ぶっ倒れろ」
「あの、さっきからなにかしら、人様が説明しているのに失礼だと思わないの? わたくしが今、貴方を討伐してもいいのよ?」
「今のお前に負ける気はしない」
「わたくしには秘策があるの。貴方は死ぬわ」
気付けば、リノエと口喧嘩していた。常にしている様な気もするが。
「あと一撃……いや、あとひと風吹かせればいい」
「陸側に持ってきて欲しいの?」
「おおよそはそんなとこだ」
「眠った後は任せても?」
「仕事をしたなら、サラリーマンも大喜びの安らかな睡眠を提供するぜ」
「よくわからないけれど、変なことしたら許さないから」
「わーってるよ。ほら、早くしねぇと、プラスクちゃんが起きちまう」
リノエは右手を突き出し、手のひらを広げた。前回の様な詠唱は無く、慣れた様子だ。その証拠に、右側の口角が上がっている。
「貴方も魔法スキルを使うのでしょう? よく見ておきなさい……《ヴェントゥス》」
リノエが魔法を放つと、プラズマスクァルスのすぐ後ろの空気が一箇所に集まり、やがて風が渦巻く玉となっていた。そして、それは勢いよく破裂する。
距離があるにも関わらず、ここまで強風が届いている。
「こんなものね」
「あぁ、お見事だ」
「これでも初級魔法なのよ。貴方にも使え……る…………」
「さすがだな、大魔法使い様は」
寝ているリノエを抱え、俺は小さな声で呟いた。
俺の身に付けていたマントを地面に敷いて、リノエを横に寝かせる。
さてと――
「――フィリス…………気絶してる⁉」
大人しいと思えば、フィリスは泡を吹いて倒れていた。魚かよ。
フィリスにはリノエを守って欲しかったが、仕方ない。ここからは俺一人で頑張ってみるしかないみたいだ。
陸に近い所へ飛ばされていたプラズマスクァルスは、意識が回復したのか、再び目をギロつかせている。
「相手が悪かったな。守らなきゃならないものの前では容赦無いんだよ、俺はさ。《グラキエス》ッ」
……キマった。厨二で何が悪い。それに、プラズマスクァルスは無事に凍りついた訳だし、無問題だ。
そう、よく考えてみれば、このサメモドキは全身が水で濡れている。そこに氷魔法で凍らせれば身動き一つ取れないし、もちろん襲われることもない。あとは持ち上げればいい。
俺とプラズマスクァルスの間にできた氷の道を、滑ることなく進む。またしても滑ると期待していた諸君、残念だったな! ……っと、あぶねぇ。滑るとこだった。
プラズマスクァルスの側まで来た俺は、凍っている頭と尻尾を掴み、全力で持ち上げる。それはもちろん重たいし、何より非常に冷たい。
そんな中、俺は手のひらに魔力を込めた。
「《ヴェントゥス》ッ!」
リノエの魔法を見て、こっそりと獲得していた初級風魔法を、宙に向かって手のひらから放つ。それは見事に成功し、上向きの風の勢いで、プラズマスクァルスは空中へ浮いた。リノエほどではないが、風力は十分なものだ。
さて、空中に浮いたサメモドキに向かって、キメるぜ……!
俺は宙へ向かって高く飛び、足に力を込めながら叫んだ。
「《スペシャル・イツキ・オーバーヘッド》ォォッ‼」
俺の可憐な動きは、超次元サッカーでも通用するレベルのオーバーヘッドを繰り出した。
その脚力は凄まじく、蹴られたサメは地上で意識を失い、倒れている。
もちろん、空中でバランスの取れない俺は、泉へ落ちたが。
あなたが落としたのはこの銀のイツキですか? それとも金のイツキですか?
A・薄汚くて陰湿なイツキです。
貴方は正直者ですね! では、そんな汚らわしい物を落とさないでください。さようなら。
……こんな時に何考えてんだろ。つか、早く誰か助けて。俺さ――
――泳げないんだよ。
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