第14話「自然を従えし少女」

「改めて、今回のクエスト内容は『泉の浄化』と『ゴーストケルウスの駆除』だ」

「うむ、了解した」


 クエスト内容を再確認をした俺たちは、目的地までの道のりをお喋りでもしながら歩いていた。


 そういえば、この星三クエストの『ゴーストケルウス』に関しては適当に取ったからよく分かってないんだよな……。まあ、フィリスが居るからなんとかなるだろう。

 そんな甘い気持ちで目の前の看板を左に曲がった。


 リノエは、というと……何故か俺がおんぶしてやっている。なんか寝てるし。

 まあ、女の子と接触すること自体少ないし、これは良い機会ではないか。まるでバックハグされてるみたい。……俺、キモくね。


「リノエはぐっすりだな」

「あぁ、全くだ。お荷物になってくれるなよ」

「だが、イツキのことを信頼しているみたいだぞ」

「いや、コイツはどこでも眠れるんじゃないか?」


 耳元からは、すーすーと綺麗な寝息が聞こえる。服も軽装で軽いし、黙ってれば可愛いのにな。

 俺とフィリスは、リノエが起きないくらいの小さな声で任務の作戦と対策を練りつつ、進路を道なりに進んだ。


       ◆◇◆◇


「おーい、起きろー。目的の泉に着いたぞー」

「んー、あとごふん、ねかせなしゃい……」

「はいはい」


 前回の『スイヒの森』へ行く道を反対の左へ曲がり、数十分歩いた先にある『ハアムの森』に来ていた。周りの木々から生えている紫色の葉は歪な形をしており、少し不気味さを感じさせるが、日中はそんなに怖くない。

 しかし、毒が混ざっていると言われても違和感のないほど汚い泉だな……。少し大きいので、早く取り組みたい。

 そしてリノエは、相変わらずのワガママである。どうせ無理やり起こしたら機嫌が悪くなりそうなので、黙っておく。ただ、両手が使えないので邪魔。


「フィリス、例のブツを」

「あぁ、任せろ」


 泉の浄化には、『美水の女神』という高価なポーションが必要らしい。ただ、神聖魔法が使えるならそれに越したことはないという。

 ちなみに、ポーションは何故かフィリスが持っていた。美容効果もあるらしいが、あのフィリスが使うとは考えられない。いや、偏見はよそう。フィリスだって乙女なのだから。


「どうだ?」

「あぁ、順調だぞ。少しずつ綺麗になっている」

「そっか、よかった」

「……よかった、だと?」


 怒りの混ざった様な声と睨みつける視線を俺にぶつけるフィリス。美容ポーションを使わせた件について怒ってるのかな。フィリスには、俺の方から報酬を増やしておこう。


「怒るなって、報酬は多くしとくからさ……」

「私は報酬なんてものに興味は無い! 戦わせろ‼」

「なんだ、そっちか」

「なんだとはなんだ! 私にとっては大事な……」

「……そんなに倒したいなら、背中のコイツを討伐してくれ」


 俺は半回転し、背中のリノエをフィリスに差し出した。

 しかし、平和な会話も長くは続かない。

 突然にも、泉の中央辺りから大きな魚が飛び出してきた。……いや、サメだ。


「出番だぞ、フィリス!」

「い、イツキ……私」

「おい、どうしたんだ?」


 俺は弱気なフィリスに問いかけた。ほんの少しの焦りと不安を隠して。


「私、生の魚はダメなんだ……」


 どうしていつも嫌な予感は的中するんだ……。まあ、苦手なものは仕方ないか。

 そもそも、相手が泉の中に居る以上、近距離攻撃主体の俺とフィリスじゃ敵わない。となれば……。


「リノエ、いけるか?」

「……誰に言っているのかしら。あの程度、指を振るだけで勝てちゃうわよ」

「お、おぉ、遠距離の敵は頼んだ!」

「その反応、信じてないわね。いいわ、見せてあげる」


 俺が声をかけた時には、顔も声もキレッキレだった。

俺はそっと自慢気なお姫様を背中から降ろす。

 地面に足をつけたお姫様は大きく右手を開き、小指、薬指、中指を内側へ曲げ、人差し指に魔力を込める。

 すると、リノエの足元には紫色の大きな魔法陣が出現し、昼間の晴れていた空は雷雲で覆われた。


「あ、あれ、思ったよりコイツ、凄いのでは……?」

「ふん、魔法は見せ物じゃないわ」


 言っていることも一流魔法使いって感じがする。知らんけど。

 そして、リノエが持つ唐紅色の瞳が闇の中で輝く。


「見なさい、これがわたくしのとっておき魔法! 今回は特別よ、感謝しなさい」

「「……」」

「ふふん。轟け、荒れろ、潤沢な自然の恩恵よ、反逆の時来たれり。わたくしの才力と魔の力に蝕まれて、随順なさい! 《ファルガー・レゾナンス・フルクトゥス》」


 リノエが詠唱と技名を叫んだ後、泉の水は大波となり、次第に渦となってサメを捕らえる。俺もフィリスも驚きで言葉が出ない。


「あら、そこに居たのね。……閃光、穿ちなさい」


 リノエは余裕の笑みでサメを視界に捉えると、立てた人差し指を振り降ろした。

 すると、雷雲から一筋の雷がサメに直撃する。その雷は渦に触れ、感電を引き起こす。

 正直、あまり期待はしていなかったが、これは大戦力だ。少し見直したぞ、リノエ!

 魔法が収まると雷雲は消え、陽の光が差し込む。魔法陣も消滅しており、泉の水も落ち着いて、サメはプカプカと水面に浮いている。や、やったのか……!


「イツキくん、二つ言い忘れていたことがあるわ。一つ、あのサメの名前は『プラズマスクァルス』。雷攻撃は効かないの」

「……何してんの」

「貴方がどうにかしろと言ったのじゃない。記憶喪失?」

「一瞬でもお前を凄いと思った俺がバカだったよ」

「やっと馬鹿だと自覚できたのね、偉いわ」


 リノエは勝ち誇った顔で俺を蔑んでくる。コイツ、絶対友達居ないタイプだろ。俺も言えたものじゃないが。

 とにかく今は、このプラズマナントカってのをどうにかしなければ。……策はあるにはあるが、リノエの力を頼ることになるのは癪に障る。


「……けれど、わたくしの実力を甘く見ては困るわ」

「何が言いたい?」

「プラズマスクァルスは雷を吸収して、自分の力に変えるの。ただ、あれほどの雷を吸収したら身体が持たないでしょう。しばらくはボーッとしているはずよ、誰かさんみたいに」

「一言余計なんだよ」


 攻撃するなら今がチャンス……か。けど、問題は泉の中央に居るため、こちら側に連れてこなければならないという点だ。なんとかして陸側に持ってきたい。


「リノエ、魔法でもう一つお願いをしたいことがある……」

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