第12話「ギャル」
翌朝。
「ふわぁ~」
眠い……がしかし、早いうちに簡単なクエストを受けなければならない。理由は二つ。
一つ目は、他の冒険者が簡単なクエストを受けると、俺らは高難易度クエストしか受けることができないということ。報酬は多いが、生きて帰れるか危うい。ぶっちゃけると、長い戦闘は好きじゃない。
二つ目は、俺のパーティに居る、フィリスだ。アイツは戦闘狂だから高難易度クエストを受けて、強い敵と戦いたがるに違いない。バーサーカーは要らないっつーの! まあ戦力が高い点を考えれば、プラマイゼロな気はするが。
ここでフィリスの言葉が脳裏を過ぎった。
――確かアイツ、朝は早いとか言ってなかったか?
こうしてはいられない。とりあえず顔を洗おう。
そんな感じで、ドタバタな一日の幕開けである。
「なんとか、約束の時間よりも早くギルドに着いたな……」
フィリスが居ないことを望みながら、ギルドのドアを開ける。すると……。
「いや、誰も居ないのだが。受付嬢さんも居ねぇし。でもギルドは開いてるし、明かりも点いている。どうなってんだ?」
周りを見渡しても誰も居ない。室内の時計は七時になりかけている。そうだ、今日の依頼を確認しよう。更新されてるなら、ギルドの職員は居るはずだ。
俺は不安になりながらも、掲示板へ近づく。
えっと、新しいクエストは……。
「……更新されてるな」
どういうことだろうと考えていると、外から歓声と大きな拍手の音が聞こえてきた。
だが、その音は少し遠くから聞こえる。ここまで聞こえてきたのは、多くの人がその場で音を発していたからだろう。
俺が気になって外へ出ようとした時、一人の受付嬢さんが顔を出した。きっと足音で気が付いたのだろう。
「お、冒険者さんじゃん。いやー、みんなあっちに行ったのかと思って、サボっちった!」
「は、はぁ……」
その受付嬢さんは他と少し違い、金髪ピンクメッシュに白い肌、チャラチャラとしたアクセサリーを身に付け、制服も緩く着ている。俗に言うギャルだ。
「その、どうして今日は冒険者が少ない……というか、居ないんですか?」
「ん? え、紺色の冒険者さん、知らないの⁉」
紺色の冒険者さん……髪色のことかな。
「えーっとね、なんかー、今日は勇者さまが来る日みたいなんだってー」
「勇者?」
「そそ、ゆーしゃ。西の勇者さまは大人気だからねー!」
「西の?」
「……紺色の冒険者さん、何も知らなすぎでしょ!」
「すみません、小さな里に住んでたもので」
「あー、そなんだ。ボク、お名前は?」
「幼児扱いしないでください……。えと、イツキです」
「うんうん、イツキくんねー。覚えたよー」
完全に幼児扱いしているギャル受付嬢さんは、俺の頭をポンポンと撫でた。ギャルは子供が好きというのは本当だったのか。しかし、西の勇者が居るなら東の勇者も存在するのだろう。まあ、魔王を倒すのは俺だが。
「で、その勇者とやらはどうしてここへ?」
「うーん、ボクにはちょっと早い……」
「……子供扱いしないでください。ていうか、身長同じくらいじゃないっすか」
「あ、あー、ごめんねー」
子供扱いしないで、は余計に子供っぽく見えただろうか。だが、子供扱いされるなんて他の冒険者に聞かれたら、恥さらしなんてものじゃない。そして謝りながら頭を撫でるな!
その後もギャル受付嬢さんは勇者について説明をしてくれた。まとめると、こうだ。
勇者というのは、魔王と同じくらいの力を持っている四人の戦士のことを指す。
そして、その勇者はこの世界で、東西南北それぞれ一人ずついるらしい。
そのうちの西の大陸で活躍している勇者が、この東の大陸の小さな街へ来ているという。その勇者はみんなの憧れの存在だそうだ。
まあ誰も居ないなら、好きなクエストを受けられるのでどうでもいい。むしろ好都合だ。
しかしあの、戦うことにしか興味がなさそうなフィリスが西の勇者に会いに行くとは……決闘してなきゃいいけど。今のうちに知らない人のフリの練習をしておこう。シュミレーション・オン!
「おーい、イツキくーん?」
「はっ!」
「だいじょぶ?」
「アノヒトシラナイ」
「ん?」
ギャル受付嬢さんが話しかけてきたが、咄嗟にシュミレーション通りの返しをしてしまった。
ただ、脳内シュミレーターは有能な様子。
「えーっと、休憩室で休んだ方がよくない?」
「え、あぁ、だ、大丈夫です」
「キョドってんのかわいすぎなんだけどー!」
「あ、あの! クエストを選んできます!」
「お姉さんが一緒に選んであげよっか?」
「結構です」
再び頭を撫でられそうだったので、なんとか回避するべく、掲示板へと向かった。
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