第11話「グラディエーター・フィリス」

「こちらが依頼報酬です」


 なんとか帰りついた俺とフィリスは、冒険者ギルドにて報酬を受け取っていた。俺に関しては初クエストクリアである。

 報酬分けのために、俺らは近くの椅子に座った。

 そして、机の上には四日分くらい食べていけそうな量のゴールド。


「イツキのと私のクエスト分を山分けにしよう」

「いや、俺のクエストは報酬量が少ないから、お互い受けたクエスト分でどうだ?」

「私はイツキに助けられた。本来なら全て渡したいくらいだ」

「それを言うなら、俺もフィリスに助けられた」

「「……」」


 気まずい空気に沈黙が続いた後、お互い息ピッタリのタイミングで結論を出した。


「「山分けにしよう」」


 まあこれが妥当だろう。そう思いつつ、全体のうちの半分の金貨をバッグに入れた。フィリスは騎士道とか貫き通してそうだし、この方が気持ちもスッキリするのだろう。知らんけど。

 事が済んだ俺は立ち上がり、フィリスに別れを告げる。


「今日は助かったよ、また機会があればよろしくな」

「イツキ、一緒に飯でも食べないか?」

「……あー、いいな」


 そしてまた座った。

 フィリスはテーブルに置いてあるベルを鳴らす。すると、メイド服を着た女性がこちらに向かって歩いてきた。


「お食事ですね、こちらメニューです」

「ありがとう」

「ご注文がお決まりになりましたら、再びベルをお鳴らしください」


 メイドさんはお辞儀をして、その場を後にした。……にしても、可愛かったなぁ。おっと、注文をしなきゃ。

 可愛いメイドさんに気を取られていた俺は、慌ててメニューに目線を移す。そこで、気になる料理を見つけた。


「俺はこれにする」

「ん、『水スライムのグラタン』……チャレンジャーだな」

「そういうフィリスは?」

「なら、私は『ワイズバードパスタ』だ」

「いや、わからないけどさ、水スライムとそんなに変わらない気がする」


 俺はベルを鳴らし、二人分の注文をした。

 というか、この店は生き物の名前を出してないとやっていけないのかな。一応、冒険者ギルド内だから雰囲気作りか?

 そして、メイドさんが置いていったコップの水を飲み干し、フィリスが話を始める。ちなみに、早飲み選手権にでも戦えるレベルの速さで飲み干した。というか水が瞬く間に消えていた。ところで、早飲み選手権とは……?


「では、私たちの今後について話し合おう」

「パートナーみたいな言い方止めて? てか、今後も何も……」

「……パーティ、組むだろう?」

「えぇ……」

「なんだ、その反応は」


 もちろんパーティは組みたい。だが、コイツは勝手に暴れるし、無茶して怪我するしで世話がかかりそうなんだよな。強いけど。


「イツ……キ?」


 捨てられた子犬みたいな目でこっちを見るなよ。断りづらいだろ。だが、ここはバシッと言ってやらねば。


「わかった。しゃーねーから、パーティを組んでやる。その代わり、俺は弱いからな」

「本当か……! よろしく頼むっ!」

「……こ、こちらこそ」


 どうやら、イツキさんは捨てられた子犬に弱いみたいだ。

 もしこれがヤンキーだと、ギャップ萌えで人気が上がるやつ。ちなみに、陰キャは吠えられ、それにビビりながら帰宅するのだ。子犬のくせに……かわいいけどさ。

 そしてフィリスは冒険者カードを出てきた。


「では……」

「どうしたんだ?」

「パーティの作成や加入は冒険者カードを重ねて、互いの認証マークに触れるんだ」

「そういえば、そんなことを聞いたな……」


 俺は言われるがままに認証マークを触った。すると冒険者カードが光りだし、パーティの枠に『フィリス』という名前が追加された。こういうのには憧れがある。

 しかし、現実同様、ソロで冒険者をやっていくつもりだったから、パーティの存在をすっかり忘れていた。

 そこで、先程と違うメイドさんが二品分の料理を運んできた。


「こちら、『水スライムのグラタン』と『ワイズバードパスタ』になります」

「ほへぇ……」


 メイドさんは料理を置いた後、「ごゆっくり」と頭を下げて厨房へ戻っていった。

 さて、いざ『水スライムのグラタン』実食!


「見た目は……青いな、食欲が失せた」

「では、頂こう」


 水スライムをスプーンでツンツンしてる間に、フィリスがパスタを口へ運ぶ。あっちは美味そうだな。

 フィリスがパスタを美味しそうに食べているのを横目に、こちらも一口。


「むしゃむしゃ」

「大丈夫か?」


 俺は、食べたものを飲み込み、オノマトペ的なのことを言葉にした後、フィリスに心配された。いやあのね、この料理……水だ。


「冒険者ギルドも大変だな……」

「あぁ、いつも忙しそうだな……一口だけならあげるぞ?」

「本当か! ぜひっ!」


 フィリスの優しさで、俺は一口でけパスタを頂いた。こんなに頑張った後に水はないでしょう。ささ、『大きな一口』でパスタを迎え入れよう!

 そんな『クズ』に天罰が下るのであった。


「こ、これは……苦い」

「ワイズバードの栄養価は高いぞ」


 このギルドにまともな飯はあるのだろうか。そんなこんなで、なんとかグラタン(水)を食べ……飲み干した。

 もう、ギルドで飯を食うのはやめよう。そう誓った俺はゴールドを払い、フィリスとギルドを出た。


「ふぅ、美味かったな!」

「ははっ……、なんでも美味しく食べれそうでいいな」


 どうやら、フィリスはご満腹の様子だ。俺は食べた気がしないけど。


「まあ、通常メニューの方が味は好みだが」

「通常メニュー?」

「とりあえずはまた明日、ギルドに集合だぞ!」

「お、おう。とりあえず七時な、寝坊すんなよー」

「私の朝は早いから安心しろ!」

「じゃ、解散」


  そして俺らは互いに背を向け、それぞれの道を歩んだ。

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