第9話「魔法」
「グヤッ!」
「グヤッ?」
「グヤァ~」
三匹のゴブリンさんにいじめられている俺は、頭を抱えながらしゃがみ込むも、未だに踏み付けられてる。
「やめっ、ゴブリンさん! しゅびませんって‼ いやぁ、調子に乗りすぎやした。謝ったから、ね? ね⁉」
「「「グヤッ‼」」」
「ぎゃあぁぁっ!」
三匹一気に俺を踏みつけてくる。助けて欲しいとフィリスを見遣ると、そこには一匹のスライムがいた。赤色だが、確かに憎きスライムだ。
「……フィリス、魔法はどうやったら使える?」
「おお、抜け出したか。だが今は、魔法の話をしている場合じゃ……」
「いいから! 魔法さえあれば戦える」
「わ、分かった。ではまず――」
◆◇◆◇
「《グラキエス》ッ!」
俺は初級魔法のうち、氷魔法の《グラキエス》を取得し、赤色のスライムにぶつけた。
「初魔法、爽快だ!」
相手がスライムだってんだから、倒した時の破裂する感じがたまらない。
そもそも魔法というものは、『スキル』と呼ばれる外付け能力の一種みたいで、冒険者カードや住民カードを使用して取得することが可能という。
スキルには、魔法はもちろん、力や素早さを一時的に強化させるバフや、剣や弓などの専用技を使えたり、料理を美味しくするスキルや、相手の嘘を見抜くものまで様々。
そんなスキルを獲得するためには『スキルポイント』という物が必要になってくる。スキルポイントの消費量はそのスキル毎に異なり、スキルポイントはモンスターを倒すか、レベルを上げるか、スキルポーションなどのアイテムを使うことで獲得することができる。
更に、スキルを発動するためには、体内にある魔素というものを消費する必要がある。魔素は睡眠や食事などで回復するみたいだ。そして、獲得したスキルの名前を叫ぶか、念じることでスキルを使用することが可能。ちなみに、叫んだ方が消費する魔素量は少ないとか。
というのが、スキルもとい魔法という概念についてのざっくりとした概要である。とりあえず、ファンタジーっぽいのでワクワクが止まらない。
「よしっ」
「ヒートスライムは温厚だから攻撃してこないぞ。何故倒したんだ?」
「種族への連帯責任だ」
「なんでもいい、早くしてくれ」
「お前が訊いたんだろ……。《フリグス・グラディウス》」
そのスキルを使用すると、俺の剣の周りに薄い霧がぐるぐると渦巻きだす。
そう、俺はもう一つスキルを取得していたのだ。このスキルは、冷気を剣に集めて氷の斬撃を放つというものである。やっとジョブ向きの戦闘が繰り広げられる。
ゴブリン共よ、これでもくらえ!
「これでも……っ! くらえっ……! はっ!」
俺が攻撃する度にゴブリンは安易に躱す。全く攻撃が当たらないのだ。
「……あぁ、もう私がやるぞ!」
「お、俺の出番……」
「たぁっ‼」
フィリスは瞬く間にその場のモンスターを殲滅していった。次第に自分が惨めに思えてくる。冒険者辞めようかな。
「す、すごいですね、フィリスさん……」
「全く、情けないな。怪我は無いか?」
「あ、あぁ、おかげさまで」
「それはよかっ……むむっ、アレは『アイスギガントシュー』か⁉」
「あいすぎがんとしゅー?」
フィリスは巨大な岩に向かって走り始めた。頭でも打ったのかな。やはり、俺がしっかりしておかねば。
すると、その岩は動き出し、半回転……というか、岩に顔が現れた。地味に可愛いな、おい。
そんな岩の魔物にフィリスは剣を構える。いや、ちょっと待て、あれは岩じゃなくて、シュークリームか……?
自分でも何を言っているか分からなくなってきた。
「《静寂の牙》ッ!」
フィリスがスキル名を叫ぶと、そのシュークリームは真っ二つに割れ、中から大量のクリームが飛び出してきた。俺の体もクリーム塗れである。
「……何してんだよ」
「すまん、モンスターが居たから倒したくてな」
「あんなに可愛いシュークリームを?」
「あのモンスターは怒ると、辺りの地形を変えるほどの危険性があるぞ。ほら、たくさん食え。ん~! うひゃいひょ!」
「シュークリームは見かけによらぬ、と言ったとこか。……胃もたれするわ、つか食べながら喋るなよ。そんなドヤ顔でこっち見んな」
フィリスはやりきった顔でクリームを手に取り、口へ運んでいる。案外マヌケなのか?
俺も一口頂こう、ペロリ。
「……これは案外、美味いな」
「あぁ、だがこの辺で食べるのは止めよう。半分くらいは残しておかないとな」
「俺、一口しか食ってないからな。てか、いつの間にあの大きさの半分も食べたのかよ……」
「コホン。リーフドラゴンは甘い食べ物を好むからな、餌用にとも考えていたんだ。私の分のクエストも手伝ってくれるよな?」
フィリスは笑顔で俺に訊いてきた。ほっぺにクリームを付けながら。というか、リーフドラゴンって甘党なの。草とか食べてるんじゃないの。
「まあ、俺のクエストも手伝ってもらったし、力になるかは分からないが」
「大丈夫、イツキは囮だからなっ!」
「ふざけんな」
「すまん、冗談だ」
そんな感じで俺たちは、森にたくさん生えてる木の茂みに身を潜めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます