第8話「初クエスト」
街の門を出て、草原をしばらく歩いた後、看板に書いてあるままに右に曲がる。すると、すぐに目的地であるスイヒの森が見えた。
「スイヒの森……スチールゴブリンの生息地はここだよな、よし」
俺は森の中へ入って行った。少しドキドキしている。ドキドキしすぎてハートが飛び出しそうだ。というか飛び出してる幻覚が見えたまである。相当緊張してんな、俺。
すると早速、森のモンスターに遭遇した。
「あれは、ゴブリ……スライムだ」
俺は直ちにその場を立ち去った。
◆◇◆◇
森の奥深くまで進むと、今度は小さなドラゴンの様なモンスターを見つけた。
その姿はとても愛らしいものだ。俺はそっと近寄る。
「よしよーし、怖くないぞ~?」
俺はドラゴンちゃんの顎に手を差し伸べた。よし、使い魔にしよう。
するとドラゴンちゃんは体を擦り付けてきた。すでに懐いている様だ。単純なヤツめ。
「……おりゃっ!」
俺は左腰に掛けてある剣を抜き、ちびドラゴンの首元を刺して倒した。テッテテー。
そうだ、冒険者カードは……。
俺は冒険者カードを覗いた。するとレベルが二つも上がっている。よって現在のレベルは3になる。ドラゴンってかなり経験値が貰えるんだな。しかも単純。
俺が小さいドラゴンを倒し、満足していると、空から似たような種類の大きなドラゴンが唸り声を上げて来た。
「グアアァァッ……‼」
「うわ、でかいドラゴン……」
まずったな。俺が倒したあの小さいドラゴン、アイツの子供だわ。うん、絶対そうに違いない。
「グアアッ!」
「うるせぇ! 俺も生きるのに必死なんだよ‼ ……ぎゃあぁぁぁ! 近寄るな! ……交渉したい、言葉解る? ワカンナイネ、どうしよ」
あぁ、死んだ。死亡フラグしか湧かない。いや待て、死んだらまたメルと会えるのか……? なら、喜んで!
「グシャアアアァァ‼」
「鳴き声、キショ……」
「シャアアァァァァ!」
「怒んなって、まあ落ち着い……」
「……グフッ」
ドラゴンは俺を噛み砕くわけでもなく、ただ飲み込んだ。
現在、胃の中。てかドラゴンさん、最後少し笑っただろ。なんだよ「グフッ」って。いや「グフフ」だったか? マジどうでもいいけど。そしてキモい。
そんな絶望の死に際、美しくも力強い声が微かに聞こえた。いや、俺じゃないよ? 俺も美しい声だけどさっ。
「吐き出せ! 《龍斬》ッ‼」
「グアアアァァ……」
ドラゴンから悲鳴が聞こえた後、俺を包んでいた肉体は消えた。そこから出たオーブのうち、半分が俺の体内に入っていく。
もう半分は……甲冑を身に付け、剣を構えた美しい紫髪女騎士さんの方に向かった。美しすぎて俺がオーブになりたいよ。というか、バイト中に知り合ったフィリスじゃん。
「大丈夫か……キミは鍛冶屋の不埒者⁉ 何故このような場所に?」
「あはは、色々あって冒険者やってるんだ……おい、不埒者じゃねぇよ」
「ふっ、すまないなイツキ」
「笑ってんじゃねぇぞ」
俺はフィリスに随分と笑われた。
しかし、フィリスから放たれたであろう斬撃の振動で、俺の体は未だにビリビリと痺れている。衝撃波だろうか、凄まじい。
「何はともあれ助かったよ、ありがとう」
「当然のことをしたまでだ」
「フィリスはどうしてこの森に?」
「私はリーフドラゴンを討伐しに来たんだ」
「騎士としてのの仕事か?」
「私は冒険者だぞ。それで、イツキは?」
見た目が完全に女騎士なのに冒険者だったのか。
「スチールゴブリンを討伐しに……」
「……スチールゴブリンはこんな深い所に居ないぞ。小さな子供でも知っていて当然の知識ではないか」
「……マジかよ」
え、なんか、めっちゃ恥ずかしいんですけど。なに、常識なのコレ。子供も知ってるのかよ。
するとフィリスは提案を話し始めた。
「見ていられないな……。イツキ、私と共に行動しないか? とても心配だ」
「いいのか?」
「あぁ、誰か居てくれる方が心も落ち着くしな」
「すごい助かる。よろしくな」
フィリスがなかまになりたそうにこちらをみている! なかまにしてあげますか?
はい。
フィリスがなかまにくわわった。
「では行こうか、イツキ」
「おう」
こうして、スライム感覚でフィリスを仲間にした。自分で言っといてなんだが、スライムを連想させるな。
「あれがスチールゴブリンだ」
「ざっと数えて七体と言ったとこか、隠密に動こう」
「え……あ、あぁ、分かった」
フィリスは何故かガッカリしていた。とてもつまらなさそうな瞳で、油断しているスチールゴブリンを見つめている。
フィリスは先程までの元気が無くなり、気力の無い声で解説を始めた。
「スチールゴブリンは、メタルスライムとゴブリンが融合し……」
「……あーっ! あぁぁぁぁぁっ‼」
「うわっ! どうした⁉ 戦闘禁解か⁉」
「あ、やべ、叫んじゃった……」
スライムに対する嫌悪で、衝動的に声が出てしまった。もう病気だろ。
ゴブリンさんの様子は……うん、気付かれた。
「こうなったら、カチコミじゃあぁぁ‼ 二人しか居ないけど……」
「わ、私も行くぞっ! はぁぁぁっ!」
俺は左腰から相棒の『カラネ』を抜き、スチールゴブリンに斬りかかった。決して『からねっ!』ではない。
「くらえっ……え? あれ、堅いな。こんこーん」
「グヤァ!」
スチールゴブリンは声を荒らげて、俺を棒で吹っ飛ばした。
「ぐへっ!」
「イツキっ‼」
「大丈夫だ、気にするなっ!」
「いや、本当に大丈夫か……?」
そして、俺は三匹のゴブリンにいじめられていた。
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