第6話「魔剣?」
「どうも、冒険者のイツキです」
「おお、申請して来たか!」
「あ、はい、色々ありましたけど……」
バイスさんは店の片付けをしていた。俺も店を出る前に手伝おうとしたが、「片付けはしとくから、さっさと申請してこい。終わったら少し付き合えよ」と言われた。見かけによらず優しいよなぁ。俺の方が優しいけど。
「そうだ、要件ってなんですか?」
「ん、あぁ、冒険者になったんなら、『武器』が必要だろ?」
「はっ……! もしかして!」
「あぁ、持ってけ」
「本当ですか⁉」
俺は喜んでいる。なんせ、ちょっと心配していたことが消えたのだから。
食費と宿代を引くとして、残りの持ち金で冒険者になれたとする。しかし雑魚装備じゃ、モンスターの相手にならないだろう。するとお金も入らないし、生きていくことすら危うい。
つまり、これでやっとスタートラインに立てるのだ。ありがとう、アーススライム。
何故かアーススライムに感謝した俺は、お目当ての剣を探した。
「がははっ! あの高いとこにある高級な剣でもなんでも、好きなの持ってけ!」
「よっ! 旦那、太っ腹!」
「いいから、早く選べや」
さすが旦那だ。じゃあ、遠慮なく……。俺は樽の中に入った黒色の細い剣――俺が初めて握った剣を持って、バイスさんの元へと歩いた。
「オイオイ、そんな安っぽいのでいいのか?」
「俺、気付いたんです。武器は人を選ぶ、俺にはこの剣が一番似合ってるんすよ」
「ふっ、鍛冶屋の目になってきたんじゃないかー?」
「やめてくださいよ……」
実際、ここに来たお客さんはみんな、自分に合った装備を選んでいった。なら俺に合う武器、つまり平凡な武器が使いやすいということだろう。
「よし、貸してみろ。その剣を強化してやる」
「え?」
「ジョブはなんだ」
「ルーンナイトですけど」
「まじか」
「まじです」
バイスさんは俺を憐れむ目で見つめている。俺も見つめ返した。外から見ればこの状況は『気持ち悪い』の一言に限るだろう。いや、内から見ても気持ち悪かった。
「わ、分かった、なら魔剣にしてやろう」
「魔剣……⁉ そんなことができたとは……」
「オレの本気、見せてやる……‼」
バイスさんは気合いの入った声で鍛造部屋へと入って行った。きっと素晴らしい剣になって返ってくるのだろう。そう期待して、俺は今後の生活を考えることにした。
◆◇◆◇
鍛造部屋の明かりが消え、足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。
そしてドアが開くと共に、バイスさんが例の剣を持って現れる。
「完成だ」
「ごくり……」
バイスさんは剣を俺に差し出し、俺はそれを受け取った。
黒色の鞘に渦巻く赤色の模様。綺麗な円柱の柄。そして、鞘の中から覗くのは、刃先辺りまで伸びた一線の紅色を囲む様に広がる漆黒の刃。
コイツが俺の相棒か……。早速、名前を付けたいところだ。
「コイツに名前を付けます!」
「おう、そうだな。この札に付けたい名前を唱え、剣に貼ったら名付けしたことになるぞ。今回は特別にこの札をやるよ」
そう言って、バイスさんは呪文の様なのが書かれた札を俺に手渡した。
「本当に感謝しかありません。しかし、なんて名前にしようか……」
「その札、結構値段が張るから慎重にな」
「え、そうだったんすか……」
ならば、中二の夏に置いてきた『厨二魂』を再び呼び戻そう。平凡でいて最高の剣にしてやるからな。
コイツの名は――
「――『魔剣・カラネ』」
名前を唱えた後、俺は相棒にお札を張った。
すると札は吸い込まれる様に消えていった。特に変わった様子は無い。
「成功だな、鞘を抜いてみろ」
「え、はい……」
言われるがままに鞘を抜いた。すると、刃から真紅のオーラが俺の体へ入っていき、冒険者カードが光っているのに気が付いた。いや、俺の体に色々入りすぎじゃね、気持ち悪いのだが……。
「ふっ、成功だな」
「え、何が⁉」
バイスさんは親指を立てて、目を輝かせた。いや、名付けに失敗とかあるの。
そうだ、冒険者カードを確認しなきゃ。俺は冒険者カードをポケットから取り出した。
「ん? 空白のスペースに武器の項目が追加されてる……!」
「そこに武器の説明が書かれてるだろ、これで冒険者の仲間入りだな!」
なになに……。
名称・『負けん・からねっ!』
解説・どこにでもありそうな剣。あ、あとは、その……初心者が使ってそう、かも?
なんだよ、このふざけた名前に効果。かも? じゃねぇよ。
「……」
「ん、どした?」
「いや、なんでもないっす……。あ、今日までお世話になりました。今後も機会があればこの店に来ますね!」
「あぁ、待ってるぜ! ……そうそう、忘れもんだ、受け取れ」
バイスさんは少し大きなポーチを俺に投げた。
それをキャッチした時には、バイスさんは背を向けて手をヒラヒラと振っているのが目に見えた。男の別れというやつだろう。
俺はその背中を目に焼き付け、この店を後にした。
◆◇◆◇
鍛冶屋を出た俺は、宿屋を目指すことにした。……というのも、ここ数日、ただバイトをしていた訳ではない。休みの合間や、バイト終わりにこの街を見て回っていたのだ。その中で、安くて人目につかなそうな宿屋を見つけた。今から向かうのはそこだ。
夜中は人が少なくて、風当たりが気持ちいい。
「良い夜だな……」
この世界の月の明かりに照らされながら、かわいい女神ちゃんのことを想い、俺は鼻歌交じりにこの夜道を歩いた。
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