第5話「ルーンナイト・イツキ」

「こんばんは、冒険者になりたくて申請をしに来ました!」


 最後のバイトを終えた後、俺は自信満々で冒険者ギルドの受付の人に話しかけた。


「申請ですね。一万ゴールドになります」


 スッと、一万ゴールドの入った袋を手渡した。


「はい、確認しました。こちらが冒険者カードになります。住民カードをお持ちでしたら、そちらを引き継ぐことも可能ですが、いかがなさいますか?」

「住民カード? ってなんですか?」


 この世界において常識的なことでも、俺は申し訳ないと思いつつ、訊いてみた。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』という言葉があるくらいだ。悪く思わないでくれ。


「え……あ、役所で作成できる身分証明証のことです」

「冒険者カードとの違いはなんですか?」

「基本的には同じです。身分証明やスキルなどはどちらにも記載されていますが、冒険者カードには、冒険者証明、レベル機能、パーティ機能、戦闘スキルのスキルポイント消費量減少、冒険者フォント、カードデザイン『冒険者』などなど……お得な特典が付いてきます。特に、冒険者証明は割引や信頼を得ることができます」


 後半のやつ、遊び心全開じゃねぇか。


「住民カードは持ってないので、引き継ぎは結構です」


 受付嬢さんは、「ですよね~」とでも言いたそうな表情である。


「では、このカードの認証マークに手をかざしてください」

「は、はい……!」


 楽しみだが、緊張する。これで俺も冒険者だ……!

 ホント、ここまで来るのに長かった。しかし、ここからはのんびりと冒険者をやってる訳にはいかない。遅れを取り戻さなきゃ。


「登録完了です」


 その冒険者カードと呼ばれた物には、俺の名前――『イツキ・チトセ』が浮かんできて、レベルやスキルといったお馴染みの表記が写し出された。

 カードの右下には、親指ひとつくらいの認証マークと呼ばれる枠があり、指で触れると記録更新やパーティ登録もできるらしい。


「クエストはあちらの掲示板から依頼書と呼ばれる紙を選んで、受付まで持ってきてください。また、こちらから指名でお願いする場合もあります」

「は、はは……俺に指名は来ますかね」


 そんなネガティブな俺に、受付嬢さんは優しく微笑みかけた。


「大丈夫ですよ。どんな人にも、適正はありますから!」

「受付嬢さんっ……! ありがとうございます!」

「次に、ジョブを選択を行いますが、ジョブは既にお決まりですか?」

「んー、おすすめとかあります?」

「そうですね、『ソードマン」や『アドベンチュラー』が一般的ですかね……こちらがジョブ一覧です」


 そう言って、少し分厚い本を手渡してきた。まあ、大体なりたいイメージは決まっているけど、念のために目を通しておこう。

 えっと、ソードマン、マジシャン、アーチャー……定番だな。……ん、フィリスだっけ、あのお姉さんが言ってたグラディエーターが載ってる。ジョブだったのか。

 だが、やはり俺はかっこよさそうな役職に就きたい! パッと見で剣を扱うジョブを見やった後、俺は本を閉じた。


「お決まりですか?」

「はい、ルーンナイトにします!」


 ルーンナイト。

 それは、剣と魔法を扱い、順応に戦う戦士だ。火や氷などの魔法を操りながら、同時に剣で戦う。


「……あまりおすすめはできませんが、可能ですよ」

「え、どうしておすすめできないんですか?」

「えっと、その……ルーンナイトになった人は、早くに死ぬと言われています。も、もちろん、生きている人もいますよ? ……極わずかですけど」

「不吉!」

「最短で一ヶ月……といったところでしょうか」

「一ヶ月⁉ 辞めます、他のジョブにしますっ‼」

「ひゃいっ! あっ……」


 俺の声にビックリしたのか、肩が跳ねた受付嬢さんの顔は青ざめていった。


「ど、どうしたんですか?」

「あ、あの……すみません、誤ってルーンナイトに選択してしまいました……」


 受付嬢さんは、ペコペコと何度も頭を下げて謝罪を繰り返す。その光景に、周りの冒険者たちから注目を浴びている。


「あの、頭を上げてください……! 注目集めちゃってますし、ね?」

「すみません……」

「大丈夫ですよ。いつ死ぬか生きるかの冒険で、魔王なんか倒したらかっこいいじゃないっすか」

「いや、でも……」

「ほら、笑ってください? 悲しい顔されたら、こっちまで損したみたいじゃないっすか。受付嬢さんのスマイルは一級品ですので!」

「えっ……あ、はい! 失礼しました」


 受付嬢さんは一瞬戸惑ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。その笑顔は非常に麗しいものである。

 きっと、こういう存在が冒険者の支えとなるのだろう。そんなことを考えながら冒険者カードを仕舞い、バイスさんに報告するため、鍛冶屋へと向かった。

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