第4話「スライム」

 スライム。

 それは、ぷよぷよと柔らかく、丸っこい姿をした生き物だ。知名度は、異世界の魔物といえばスライム、というほど定番なモンスターである。

 そのスライムさんが今、目の前で……跳ねている! それも十匹くらい居る‼ おやおやー? コイ〇ングの様に跳ねることしかできないカナ?

 俺が心の中で煽っていると、こちらに向かって飛び跳ねてきた。

 そういえば、アーススライムとか言ってたな。確かに体が岩のようにゴツゴツと……。


「いだっ! おい待て、俺の左腕から血が出たぞ? 危なすぎるだろ⁉」


 俺も反撃しようと、剣を構える。

 とりあえずは適当に振るしかない! そして当たるのを願う!


「おりゃぁぁぁっ‼」


 しかし堅いだけでなく、しっかりとスライムとしての弾力でぴょんぴょん跳ねている。そのため、攻撃が当たらない。スライムの体当たりを食らう一方だ。

 そして、遂にイライラした俺は……剣を投げた。


「クソがっ!」


 すると、なんということでしょう。一匹のスライムに直撃したではありませんか。

 剣を食らったスライムは弾けて、消えた。倒したということだろうか。

 その余りに予想外な行動に、他のスライムたちも若干引き気味だ。というかドン引きだ。なんで俺はこんなに引かれやすいのだろう。もっと惹かれてくれないものかね。なんつって…………ハイ、ごめんなさい。

 そんな心の中で読まれた漢字ネタを聞いてもいないスライムたちは、何故か凍っていた。


「なんでだよ⁉ 何凍ってんの⁉ スベったみたいじゃん! 氷だけに……」


 いよいよ室内まで凍り始めた。

 いや、本当に氷魔法を使えるようになったのか……? 待てよ、これは確か地球でも使えたな。

 あれはそう、中学二年の春――



 クラス替えで心機一転! 二年生からでも友達作るぞー!

 そんな気でいた俺は、最初のホームルームにて、クラスで自己紹介をすることになり、俺の番はあっという間に来た。


千歳ちとせいつきです。特技もないので、スポーツの話でもします。最近はスキーが人気ですよね、俺もスキー選手を見るのが好きなんですよ。『スキー』選手が『好き』なんつって!」


 すると、その場は凍りついた。みんなの青ざめた顔は今でも忘れない。


「あれ、スべりました? スキーだけに……」


 今度は吹雪が窓から降ってきた。いや、窓を閉めても吹雪は止まなかった。


「あの、忘れて欲しいです。追伸、友達ください」



 その後、お察しの通りに友達ができることはなかった。

 戦闘中に何を思い出しているんだ、俺は。

 その隙にスライムたちの氷は溶けていき、再び襲いかかってくる。

 俺も戦闘態勢に……あ、投げた剣を取りに行くの、すっかり忘れていた。てへっ☆

 もう、取りに行っても間に合わないか。ならば……。


「素手でも戦ってやらぁっ‼」


 スライムが衝突する瞬間に俺は拳を作り、アーススライムに渾身のパンチを食らわせた。

 すると岩は割れ、スライムは弾けた。そして先程と同じく、消えたと同時にオーブの様な物が出てくる。行ける、行けるぞ……!

 今度は投げた剣の方向に突進だ。これなら敵に攻撃しつつ、剣を取りに行ける。


「どけどけ、どけぇっ!」


 スライムたちの可愛いお顔は必死な顔へ変わっており、俺を避けるように左右へ移動した。そんなに俺のことが嫌いなのかよ。

 ただ、剣は俺の手元だ。これで残りのスライムにも……投げつける‼

 俺は落ちた剣を拾い、スライムたちの方へと振り向いた。


「どうだ、は、ははっ……は?」


 するとスライムたちは、集合し始め、一体の大型スライムへと変身した。

 俺より大きいであろう特大アーススライムの体には、更に磨きが掛かっている。

 だが、逆に剣は当たる。こんなに大きいんだ、外す方がおかしい。

 俺は勢い良く剣を振った。


「残念だったな、ふんっ! ……あれ、ふんっ! くそ、やるなぁ……」


 さすがの俺でも剣を当てることはできたが、なんと半分しか切れなく、スライムの顔の中心辺りで剣が止まった。実にグロい。

 スライムも俺をライバルと認めたのか、その顔は「やるな……」と笑っている様に見えた。知らんけど。

 なんだかアホらしく感じてきた俺は、剣から手を離し、渾身の拳でスライムを殴った。


「えいっ」


 スライムは破裂し、大きなオーブが体の中に入っていく。このオーブ、スライムの恨みとかだったらどうしよ。寄生されたのだが。

 明日、俺は目覚めることができるのだろうか。

そんな心配をしながら、バイスさんに報告するため、屋根裏を後にした。

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