第3話「冒険者ギルド」
あれから二日ほど事情聴取され、裁判になるギリギリで釈明することに成功した。
決め手は魔法が使えないことと、何も持っていないことだろう。チートを貰わなかったのが吉と出たか。これは実質メルのお陰になるのか、いや異世界に飛ばしたのはメル……止めよう。ランダムだから仕方ない。
そして、一番の救いは刑務所の飯が以外に美味しかったことだ。
しかし、まさか異世界に来て一番最初に食べるのが刑務所ご飯になるとは、世の中何が起きるか分からないな。
……さて、クリストを絞めに行こう。その前に準備が必要だ。
そう考えた俺が居る現在地は、憧れの冒険者ギルド前である。頑張って人とお話して、ようやく辿り着いたのである。ごくり。
この扉を開けると、夢にまで見た魔法が使える。厨二ごっこともおさらばだ。
そんな期待を胸に、俺は冒険者ギルドの扉を押した。
その広い建物の中には、受付カウンターはもちろん、様々な大きさの机とそのサイズに合わせた椅子が配置されており、隣にはバースペースのような施設も設備されていた。まるで居酒屋だ。
掲示板にずらっと並べられた依頼の張り紙と、謎の銅像が冒険者感を引き立たせる。
早速俺は、受付カウンターへ歩き出した。
すると、一人の冒険者らしき男に話しかけられる。
「オイ、兄ちゃん。見ねぇ顔に……なんだその服。新入りか?」
こ、怖ぇ。その強面な顔とゴツい体で俺の足はプルプルだ。小鹿かな。
「え、えぇ、今日から冒険者業に就こうと……」
「ははっ、そうかそうか。だがな、おすすめはしないぜ。なんせ、ここの連中はヤベェ奴らばかりだからな‼」
その男は、いかにもな『ヤベェオーラ』を放っている。来る所を間違えたかもしれない。少なくともこの街じゃねえ!
「おーいバイス、その辺にしとけー」
「おお、わりぃわりぃ! ここの連中は普通に良い奴ばっかだぜ! まあ、頑張りな」
「は、はい……」
バイスと呼ばれた男は、俺の背中をバンバンと叩き、仲間たちの所へと帰って行った。
なんだかんだ良い人なのか……? そんなことを思いつつ、カウンターのお姉さんに話しかけた。
「あの、冒険者になりたくて、申請をしに来ました」
「申請ですね。一万ゴールドになります」
「ごーるど?
「? どうされたのですか?」
「えっと、ゴールドってなんですか?」
「この世界の通貨ですけど……。あれ、使えない国もあるのかな。すみません、知識不足なもので……」
あはは……日本じゃ使ったことないね、そんなの。
しかし、冒険者になるためには金が要るのかよ。
「そうですか、出直してきます……」
「冒険者払いもできますよ? 利息が付きますが」
「か、考えてみます……」
冒険者払いで申請したって、その分の金を初心者が払うには利息が厄介すぎる。宿や食費もあるのだ、一気に払った方が賢いと選択した。
落ち込んだ俺がため息をしていると、さっきの強面男が話しかけてきた。
「金が足りねぇのか」
「は、はい」
「なら、うちでバイトしねぇか?」
「え……?」
てっきり闇金かと思った。いや、ブラックな可能性もある。
「オレは鍛冶屋のバイス。オレの店は、この街一番の信頼を得てる鍛冶屋なんだぜ!」
鍛冶屋かよ⁉ 冒険者かと思ったわ、発言がややこしい。
「自分で言うなよ……。まあ、彼の言うことは正しいよ。俺の防具や剣も、彼が打った物だ」
そんな鍛冶屋さんと一緒に飲んでいたであろう冒険者さんがこちらに来て、剣を見せつけてきた。この人、弱そうだな。
しかし、剣のことはよく分からないが、この人が持っている剣や防具はピカピカだ。それでいて、何か力というか冒険者オーラを放っている。
恐らく腕は確かなのだろう。ここで剣について学べば、冒険者になった時、役に立つこと間違いないと思うし……。
「あの、是非ともバイトをさせてください!」
「ヨシキタッ‼ 早速明日から入れるか?」
「はい……! ですが、宿が……」
「おう、店の屋根裏にでも泊まれや!」
「えぇ、なんか嫌っすよ……」
「じゃあ、馬小屋か草むらか路地裏のゴミ箱しかないなぁ。布団は貸してやれるぜ」
バイスさんに悪気は無いんだろうけど、意地悪く聞こえる。いや悪気は無いんだろうけどね。野宿だろうと布団を貸してくれる辺り、そんな気がした。
「屋根裏にお邪魔させて頂きます」
「おう! ……あー、アーススライムが居たんだっけか、駆除しなきゃだな」
なんの話だろう、とぼんやり考えていた俺は、この後に戦闘が始まるなんて、イチミリも思っていなかった。
◆◇◆◇
「さあ、ここがオレの店だ!」
「おぉ、すげぇ……!」
バイスさんが営んでいるその鍛冶屋は、剣でも槍でも鎧でも、武器や防具がなんでも揃うくらいの品揃えで、その種類もたくさんある。
「我ながら立派な店だ! がーっはっはーっ!」
「あ、はは……」
「じゃあ、この中から武器を選べ」
「え?」
「いいから!」
「は、はい」
俺は、壁にかけられた剣を横目に、さすがにあれを使う訳にはいかない、とその下にある樽の中から剣を漁った。そして、バイスさんはその様子を見ている。選びづれぇよ。
その大きい樽の中には、灰色のゴツい剣や青色の大剣、紫色の軽そうな剣など、様々な剣が入っていた。
どれもかっこいいなー、なんて思いながら直感で厨二心をくすぐる黒色の細い剣を抜いた。
「ほう、ソイツを選んだか……やるなぁ」
「え、もしかして、この剣ってそんなに凄いんですか……?」
「ふっ、ソイツは――」
俺はごくりと唾を飲み込む。
その剣が俺の冒険者ライフを大きく変える鍵――いわゆるチートになるのか……⁉
そして、バイスさんは真面目な瞳で口を開いた。
「――ただの剣だ。オレの三番弟子が打った」
「なんだよ! ちょっと期待したじゃないですか‼ 全く……」
「まあ、店に並べる武器や防具は全て、オレが認めてる物だ。悪いもんは一つとして置いてねぇ! それに……似合ってんぜ、その武器よぉ」
「あ、ありがとうございます!」
俺は握った剣を見つめ、少しニヤついた。褒め言葉かどうかは知らないけど。
心の中では、剣というだけでワクワクしてるのだ。早く剣を振りたくてうずうずしている。
「じゃあ、早速で悪いが、屋根裏に居るスライムを除去してくれ!」
「は……?」
「いやぁ、知り合いに頼んで、『アーススライム』っていう鉱石を落としてくれるスライムを増殖させる装置を屋根裏で起動しっぱなしだったんだ。定期的に狩りに行くんだけどな! あははっ!」
こんな早くに剣を振る機会が来るなんて思ってもいなかった。というか、そのために剣を選んだのか。
今日の寝床を確保するために、早速俺は屋根裏へと向かった。
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