第8話 とまどい

 午後六時、クラスメイトたちと学校を出てそれぞれが帰路に着く。ユエは虎二とらじろうの三人で歩いていた。さっきのことがあってか相当気まずい。三人とも喋らずにただ歩いていたが沈黙を虎二が破った。

『俺、聞いてないけど?』

 ユエが同じく頷くと狼は歯を見せて笑う。

『ごめん、あの場ではああしたほうがさっさと終わるって思ったんだよ。』

『はあ?嘘か?じょ、冗談ジョークかよ。』

『悪い。』

 虎二が心底ホッとした顔で笑うと狼は仕方ないという顔をして笑った。

『ごめんな、ユエちゃん。巻き込んじゃって。』

『そっか・・・ごめんね?私のほうこそ。うまくかわせなかったから。』

『ううん、本当ごめん。手を握っちゃって。』

『いいよ、中学生の頃は手を繋いだことあるでしょ?』

 ハハと狼は笑う。

『それにしてもああいうのはびっくりすんな。俺、凄いショックだった。』

 虎二は情けない顔をして腕を組む。

『お前ら二人が付き合うってなったら・・・そらあ・・・応援はするけどさ。でも・・・う、ああ、うん。』

 言葉を濁して虎二が俯いた。

『虎ちゃん?』

 ユエの顔を見て虎二は優しく笑う。

『あのさあ・・・ユエ。もしお前に好きな奴ができたらさ・・・俺、応援するから。だから・・・。』

『だから?』

 聞き返した声が少し震えている。自分でもどうして動揺しているのかわからなかった。

『だからそれまではさ、俺と狼がお前を守るよ。いいかな?』

『う、うん・・・。』

 小さく頷いて返事をする。なんだか頭が真っ白で俯いた。

『ユエちゃん?』

 狼に呼ばれて顔を上げる。狼と虎二の顔が驚いたように赤くなった。

 片手で頬に触れると濡れていた。視界がゆがむほどに涙が溢れて零れては落ちていく。

『あ、ご、ごめん。』

 両手で顔を押さえると余計に涙が止まらなくなった。

 だめだ、これじゃ虎ちゃんも狼君も困ってしまうよ・・・。

『ごめんなさい。変だな?おかしい、おかしいよ。』

 涙声でそう言うと虎二がそっとユエの頭を撫でる。

『おかしくない。俺こそごめん。』

『うん、おかしくなんかない。』

 狼もまたユエの肩に手を置くとユエの頭に額を寄せた。

 何故かホッとしてユエは抑えていた声を上げて泣いてしまった。

 小さい頃のように泣いて、それを二人がなだめてくれる。泣き止んでまた歩き出すと左手を虎二、右手を狼が繋いだ。

『ほら、ユエ、帰るぞ?』

『うん。』

『ユエちゃん、しっかりしな。でもその顔じゃ、小母さんになんか言われそうだ。』

『ああー、本当だ。まずいー。』

 三人は笑いあうと、いつもの三人に戻っていた。

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