第26話 どこへ行こうか?


『第一回! 行き先決定会議〜!』

「いぇ〜い!」


 資料室では大声を出さないでくれなんていうテンプレ台詞を聞くこともない。風魔術でしっかり防音処理を施しているからだ。


 それで本題に戻ると、この街に来た本来の目的は情報収集だ。色々あったけど……まぁ長い間滞在してたから割とこの世界についても分かってきた。それにとりあえず、ガーディアンも封印できたし。だから、そろそろこの街を旅立ち、他の場所に行こうということになったのだ。


 もちろん、俺たちの目的は全てのS級ダンジョンを攻略すること。だが俺たちはまだまだ力不足だ。このままS級ダンジョンに潜っても、やられてしまうだろう。今すぐにどうにかなることじゃない。それに急いでいるわけでもないしな。


『う〜ん、なんか大雑把な地図だな』

「大陸地図だとこんなものなの」


 確かに衛星とかないし、歩いて測量するにもこの大陸結構大きいもんな。


 この大陸を地方に大きく分けると、北側をノーザン、西がウェスタン、東がイースタン、南がサザン、そして中央のセントラルだ。


 俺たちがいるのはサザンの東よりの街フォルテ。


『シロナは行きたいところとかあるのか?』

「お米が食べたいなの!」

『結局食べ物か、シロナらしいな』


 え〜と、米が取れるところはどこだっけ?


『イースタンがこの大陸の主な穀物の原産地です』

『なるほど、イースタンね。ってこの脳内に直接語りかけてくる感じ! 前に助けてくれた人じゃないか! えーと名前は……聞いてなかったな』

『私に名称はありません。識別番号"017"とお呼びください』

『え、名前ないのか?』

『はい。私はそのようなものを必要としません』

『なんかちょっと寂しくないか? あ、じゃあ俺が考えてもいい?』

『それでは、お願いします』


 声的に女性だし……0ってレイとも読むよな。じゃあ語呂合わせでレイナとかいいんじゃないか。良さそうだな!


『レイナとかどうだ?』

『了解しました。私は今日から名称:レイナです。ありがとうございました。マスター』

『これで呼びやすくなったな』


 シロナの会話に戻る。


『シロナ、どうやらイースタンにお米がたくさんあるらしいぞ』

「マスター物知りなの!」

『ああ、これはなレイナに聞いたんだ』

「レイナ……誰なのその人?」

『そういえば、シロナに言ってなかったな。俺のサポートをしてくれるレイナだ。って聞こえないか』

『個体名:シロナ、初めまして。私がレイナです』

「ふぇ? どこにいるなの?」

『え、もしかしてシロナにも聞こえてるのか?』

「マスターと話してる時みたいに頭の中から声がするなの」

『スキル:念話を使用し、個体名:シロナとの意思疎通をはかりました』

『ああ、なるほどな。っていうことでこの声の人がレイナさんだ』

「はっはじめましてなの」

『はい。これからどうぞよろしくお願いします』

『それじゃあ行き先も決まったことだし準備するか』

「楽しみなの!」


 準備といってもやることは少ない。食料調達と挨拶回りだ。


『え〜と、野菜と肉、あと調味料もいるよな』

「どんどん買っていくなの!」


 幸い金には困っていない。むしろ使うものが食べ物と宿くらいしかないから余っているのだ。ちなみにこの世界の金の単位はGで、1Gが銅貨1枚分、100Gで銀貨一枚、1000Gで金貨一枚、10,000Gで大金貨1枚だ。


『なあレイナ、円だとどのくらいなんだ?』

『1Gがおよそ10円といったところでしょう』


 つまり、今俺たちの手持ちは大金貨が13枚と金貨が5枚、銀貨が20枚、銅貨が120枚だから合計で137,120G 。


 日本円に換算すると137,120×10=1,371,200円……


『俺もしかして計算ミスしたのかな?』

『いえ、137万1200円であっています』


 俺の頭の中で某鑑定団のいち、じゅうひゃく、せんまん、じゅうまん、ひゃくまんという特徴的な声が響き渡る。


 すぅぅぅぅはぁぁぁぁ


『落ち着け俺、深呼吸しろ。いやよく考えたら俺、アーティファクトだわ。呼吸できないじゃん』

「どうしたのマスター?」

『心配するな、今までこんな大金をもって外に出ていたということを初めて知って怖くなっているだけだ』


 そう考えるとなんだか全員から見られている気がする。いやだってさ、健全な元日本人の俺はこんな大金持ち歩いたことないし。


 おい! お前! なんでこっち見てるんだよ! 来るんじゃねぇ!


『俺のそばに近寄るなぁぁぁぁぁぁぁ』

『スキル:収納により、外界と隔絶されているため取られる心配はほぼありません』

「誰もマスターが大金もってるなんて思ってないなの」

『あそっか』


 ***


 そんなこんなで買い出しを済ませ、挨拶回りもあとは冒険者の人たちだけとなった。


『防具屋のウルドも服屋のおばちゃんもいい人たちだったな』

「お洋服もアーティファクトもたくさんもらっちゃったの」

『お! あれサリアじゃないか』

「本当なの! サリアさーん!」

「あら、シロナちゃんじゃない。どうしたのかしら?」

「そろそろ、この街を出て旅に戻るなの」

「え! ほっ本当に?」

「明日にはイースタンの方に行こうと思ってるなの」

「じゃあ今空いてるかしら」

「大丈夫なの。どこかいくなの?」

「ほら、作戦が終わったらお茶でも行こうって話してたじゃない」

「あ、そうだったの」

「それじゃあ行きましょ」


 大通りを進むこと5分。


「なんだか甘い香りがするなの」

「このお店のショートケーキがとっても美味しいのよ」

「ケーキ!」

「ご注文はお決まりですか?」

「紅茶とショートケーキを二つずつお願い」

「かしこまりました」

「マスターはケーキって食べたことあるなの?」

『しょっちゅう食べていたわけじゃないが、食べたことはあるぞ。そういえば、シロナはケーキ初めてか?』

「うん!」

「そっか、じゃあ今度他の種類のもつくってやろう」

「やったー!」


「シロナちゃんはどうしてまた旅に?」

「えっとね、S級ダンジョンをクリアするための修行とお米を食べるためなの」

「イースタンは穀物類が有名だからわかるんだけど。S級ダンジョンか、そりゃまたすごいわね。でもどうして、そんな危険なことを? そりゃああなたは強いけれど……」

「それはね……」


 そういうとシロナは両親のことを話し始めた。


「それは大変だったわね。私もできることなら一緒に行ってあげたいくらいなんだけど、残念ながら私はギルマスだから、この街を離れることができないし……あ! そうだ。ちょっと待ってね」


 店員に紙とペンを貰い、何かを書き始める。


「はいこれ。何か困ったことがあったらこれをその街のギルマスに渡すといいわ。きっと手伝ってくれると思う」

『へぇ〜便利だな。これはありがたい』

「ありがとうなの。サリアさん」

「いいのよ。私にできることはそれくらいしかないし、将来有望な冒険者を育てるのも私の仕事よ」


「こちらがショートケーキと紅茶のセットでございます」

「わぁ、美味しそうなの!」

「それじゃあいただこうかしら」

「イチゴが美味しいなの。紅茶もすっきりしていて飲みやすいなの〜〜」


 とても美味そうに食うシロナ。う〜ん可愛い! これはショートケーキを作るしかねえ。


『すでに解析を終えています』

『グッジョブだ! レイナ!』

『ありがたき幸せ』


 さすがレイナさん俺の行動の一歩先を読んで行動してくれている。こ、こいつできる! といつでも思わせてくれる。


『よし! レシピもわかったことだし、収穫ありだな』

「レシピを盗んだなの」

『違う違う、盗んだんじゃない、借りたんだ。それにこれでいつでも作れるぞ』

「ショートケーキが毎日……ゴクリ」

『流石に毎日は食わせないけどな』

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