第20話 カツ丼
画面が切り替わり、現れたのはガタイのいい強そうなおじさんだった。
顔には大きな傷があり、歴戦の猛者って感じがする。
「強そうなの」
『ああ、画面越しでも覇気が伝わってくる』
「ゴホン。話は聞いた。今すぐに近くにいるA級を派遣するよう手配する」
「ありがとうございます」
「事は重大だ。S級冒険者の派遣も視野に入れている」
「確かにA級だけだと厳しいかもしれません。只今、うちのA級冒険者が町から遠くに誘導していますが、それもどれほど保つか……」
「分かった早急に遅らせる。明日の朝一番に合流し、連携をとりガーディアンを撃退もしくはダンジョンへ戻すんだ」
「了解です!」
プツン
「はぁ、緊張した」
「あの人がグランドマスター。 強そうな人だったの」
「あぁ、あの方は元S級だ。衰えてもなお、その強さは健在だ」
『あの人がS級冒険者なのか。まぁ確かに納得できる』
「あぁそうだ、これを飲むといい」
「これは何なの?」
「ポーションだ。魔力とHPを回復できる」
「なるほどなの。これ美味しいなの?」
「味はただの水だ」
「グビグビぷっはー 体に染み渡るなの〜」
『まるでビールを飲んでるおっさんだな』
「アレキサンダーさん、魔物が来ました!」
「今行く」
「シロナも行くなの!」
『休んどけって言われただろ』
「でもマスター、サリアさんたち冒険者は今も戦っているなの。私たちだけ休むなんてできないなの」
「君は休むべきだ。体が大丈夫でも精神は疲れているはずだ。連戦だったんだろう?」
「え〜〜」
「私たちだけじゃ不安か?」
「そうじゃないけど……」
「君は確かに強い。だが、君は子供だ。少しは大人を頼るのもいいんじゃないのか? 子供は大人に甘えるものだ」
「でも……」
「私が君の先輩であり年長者だ。先輩の言うことは聞くものだぞ。本当は子供を戦わせたくないのだが、今のこの町には君の力が不可欠だ。今休んで、次の戦いに備えるんだ」
「分かったなの」
「集合はここだ明日の早朝に来てくれ」
「分かったなの!」
シロナは優しい子だ。自分のことより周りの方を優先にするほどに。
アレキサンダーはシロナを心配し、止めてくれる数少ない大人だ。今後も仲良くしていきたい。
『今日のところは宿に戻って、飯でも食うか』
「うん」
『明日に備えて、しっかり休むぞ!』
「お〜!」
***
そんなこんなで俺たちは宿のキッチンにいる。
『いいか、明日は勝負どころだ』
「うん!」
『俺たちが負けたら、この町どころかこの大陸にも甚大な被害が出るだろう』
「うん!」
『それを防ぐために俺たちは万全の状態で挑む必要がある』
「うん!」
『ということで、今日は勝負飯を作ろうと思う』
「しょうぶめし?」
『大事な時の前日やここぞ! といった時に食べるご飯のことだ』
「なるほどなの」
『じゃあ作って行くぞ!』
「おー!」
ご飯というのは、体のパフォーマンスと深く関わっている。そして、集中力を高めたいなら、ブドウ糖をとるべし。糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素を摂取することでブドウ糖は摂取することができる。
三大栄養素を取れる、料理それは……カツ丼だ。おいまたこいつトンカツ作ってるよって思ったやつ出てこい。今回はいつもと違うんだぞ!
なんでカツ丼かというと肉にはタンパク質が、お米は分解されるとブドウ糖が出るし、最強食材卵もある。それに勝負飯と言ったらカツ丼だろ!
『さあシロナさん、変身だ!』
「へーんしん!」
仮面を被ったライダーの某ポーズをすると、シロナが輝き一瞬でエプロン姿に!
まぁ清浄魔術を発動して、光らせてその間に収納していたエプロンをシロナの体にフィットするような位置に出しただけなんだけど。でもこれを完成させるためにはなかなか大変だった。収納したものを指定の位置に出すのが意外と難しいのだ。シロナが寝ている時もずっと練習してた。え? 無駄な努力だって? いやこれ意外と実用的なんだよ。だって清浄魔術で綺麗にできるし、早着替えにも応用できるんだ。
『ごほん。本日はカツ丼を作りたいと思います』
「カツ丼とは一体なんでしょう?」
『お米の上にカツを卵で包んだものをのせて、甘辛いタレで味付けしたそれはもう本当にうまい食べ物のことです』
「なるほど。それは期待できますね」
『ではまず、分裂思考を使いましょう。すると、一人で二人分の仕事ができます』
「分裂思考を持っていない人はどうすればいいですか?」
『地道に頑張りましょう』
『ではシロナさんにはタレを作ってもらいます。水、醤油、みりん、酒、砂糖、あと入れたら美味しくなる謎の粉を混ぜてください』
「謎の粉って大丈夫なんでしょうか?」
『いまのところは、大丈夫です』
「とても心配です」
では、シロナさんがタレを作っている間にカツとお米をつくりたいと思います。まずカツをいつもの手順で揚げていのですが今回はオークの肉ではなく、ロック鳥の肉を使っていこうと思います。普通に市場に売っていました。改めて思いますが、この世界の人々は魔物でも普通に食べます。とてもたくましいですね。
いつもの手順で揚げているうちに、お米を炊きます。炊飯器を使いたいのですがこの世界にはそんな便利なものはありません。なので鍋を使います。
お米を炊いている間に玉ねぎ的な何かの球根を薄くスライスします。先ほど登場したロック鳥なる魔物の卵を割り軽く混ぜます。さらにフライパンで玉ねぎを炒めます。
「タレができました」
『では、フライパンの中に入れてください』
「とてもいい匂いがします」
『味見をしてください』
「少し濃いですね」
『少し濃いぐらいがちょうどいいので大丈夫です』
「カツが揚げ終わったようですね」
『フライパンの中に入れ、卵を少しずつかけましょう』
「食べてもよろしいでしょうか?」
『ダメです。ではちょうどいい感じになったところで火を止め、皿にお米を盛り付け、フライパンを揺すりながら、そっと入れたら完成です』
「食べていいなの?」
『いいぞ』
シロナがスプーンで一口とり、ゆっくりと口の中に入れる。
「美味いなの! カツとタレの相性をバッチリだし、お米も初めて食べたけどとてもお肉と合うの。フワッフワの卵も絡んでいい仕事してるなの」
『お米食べたことなかったのか』
「結構珍しい食べ物なの」
『俺の故郷ではこれが主食だったんだ』
「マスターの故郷の主食!」
『っておい、そんな書き込んで食べたら』
「ゴホッゴホッ」
『ほら言わんこっちゃない』
「マスター! おかわりなの!」
『はいよ』
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