第2話
「おい」
ボソボソとした声らしきものが、欠伸の後で聞こえた。
自分の近くにいる連中が喋っているのだろうと思った。
「おい、無視すんな」
今度は背中に感触があった。まさか自分に話しかけているなんて思いたくもなかったが、反射的に振り返ってしまった。
「お前、この後顔貸せ」
「は…?」
振り返らなければ良かった。シラを切れば良かったんだ。そんなことをうだうだ考えてももう、遅かった。
チャイムと同時に逃げようとしたが、Tシャツの袖を掴まれて、下手に動けなくなった。
「な、なんだよ」
情けない声が出た。
「小島って奴、知ってるだろ」
コジマ…?誰だ。というか、こいつ誰だよ。
「し、知らないよ。その前に、お前誰だよ」
言ってしまってから、まずい、と思った。下手な口利くと殺されかねない、そんな風貌の男だった。
「ふふん…。俺はーーー」
ニンマリと歯を見せた男は、意外にも軽やかな足取りでスキップを決め、自己紹介を始めた。
無がない世界 天音 いのり @inori-amane
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