優兎

訓練のスケジュールなどをエアコムで確認しつつあてがわれた部屋へ向かっていると、前からどっかで見たような、しかし見たことのない淑やかに歩く小柄な女性が歩いてきた。


「・・・ん?ええぇ?!あんたユウ?!」


「?。あ・・・ナミエおかえり」



なに、この全身から立ち上る色気・・・いますぐ押し倒したい!


「ちょっ・・・やめてよ、せめて部屋でして」


「はっ?!」


気づいたらスデに全身で壁にドンしてました!!!!!!!


「どうしたの?!」


いや、もうほんとそれしかアタマに浮かばない。


・・・てゆうか部屋で?

シテ?!?!?!

ナニを?!?!?!?!能楽用語のほうだよね?!?!


「どうした、って・・・あ、ルフィ」


いまだ壁に押し付け続けてるユウの視線が、あたしから後ろの何かへ向かう。


「・・・いくぞ、ユウ」


「うん、・・・ナミエ、ごめん」


ひとみをわずかに潤ませ目を伏せる。

勝ち誇るでなく、その謝罪のことばも男の奪取を・・・というより、全世界へむけまるで自分の存在をはばかっているように感じる。


ルフィの後ろに続き、去っていくユウ。


三歩離れて影ふまず・・・だっけ、何歩か忘れたけどすごい!ユウが・・・あの野生児全開ナカミはマジ男なんじゃないかってユウが!嫌がるお前の顔が興奮する悪いといってあたしの胸への淫靡なる陵虐に嗜虐の笑みを浮かべていたあの(定冠詞)酷薄なユウが!!!!!!!!!!



家の構成員男たちのスケみたいな女になってしまっている。



・・・構成員て行政側が便宜的につけるあたしらへの言いがかりツールのはずだけどフツーに家ン中でも使ってんのよね・・・不思議。


なぜ?


同じルフィを食っときながら、なぜユウだけがあんなレベルアップしてんの?!?!?


『あれは自身の”女”に縋っているだけだ。精神や肉体の階層的な成長などとはまるで関係ないよ』


「女に・・・すがる」


あたしに足りないのはソレか!


役に立つじゃんナントカチャンピヨンもw



スカート二指ほど引きあ・・・ワンピじゃったわい、ええ・・・あ、パッド外してちくびを・・・


『やめろ。痴女』


『そうそう、ソソる女になりたけりゃ内またでケツ振りながら歩いて男に迫られるたびに上げたヒジでそのつまらんパイオツガードしながら”きゃっ”とでも言ってりゃいーんだよ』


アフロか?!


「あんた以外と使えるじゃん!行くぞ!」


あたしはサンダルを脱ぎ捨てると返した手首を胸の前に構え、爪先立つ。


スキーのボーゲンのように内股で前傾へ荷重し、すり足で通路を進む。


隘路より大柄な男性が現れた。


今だ!



「キィヤァアアアア――――ッ!」


全身をムチのようにしならせたハイキックが男の側頭へ・・・届かん。


「うわなんだおまえ・・・ああ、よう。戻ってたのか」


あ、あのときのおじさんだ。


「ごっ、ごめんなさい」


てゆうかなんでキックなんて・・・アフロォオオオ!!!!!!!


『ギャハハ、おまえ、なに俺のせいに・・・うぉわあああ・・・・』


意識の底、アフロの若い男が大好きなおじさんたちの魂の集う部屋へ送り込んだ。


「ん?今日はなんか一段と・・・デートの帰りかい?」


うおぉおお!”~かい?”が!

イケ男に使ってほしいランキング年間三位の語尾をナチュラルに熟している!


「えっ、そんな・・・相手なんて、もういないんです」


うっ、”もう”いない”とかはじめっからいねーだろ的なバレ見栄ワードをチョイスしてしまった・・・


「そうか。夕食は?奢らせてもらえるかな」



すごい、この船・・・ソクブラン、レディコミの男食い倒れ横丁のように中トロ的な男が次々と現れ・・・









あたしはスライム、となりのあなたが消えて既に三時間経つの。

今ようやく電子や量子が煌めきながら因果の渦を描き出しているの光の川から現世に戻りかけているところ。


頭の中の某チャンピヨンは感覚のない器官からの脳の薬理作用に怯えてアフロをネジ入れた魂の部屋へと飛び込んでイってしまった。


脳の再起動は果たしたけど、腰から下が砕けまくって、結局部屋を出れたのは五時間後だった。


なんつーオジだ・・・


おまけに、不器用なりに畳まれたワンピの横に、あたらしいサンダルと食堂の小物屋で売ってたウサギのアクセが。


”そんな風にしときゃあ、あっしらのタメに尽くしまくりっすよ。小銭程度の出費で・・・オンナてのはバカですから。・・・あ、お嬢はちがいやす!”


家人の得意満面の横面を思い出す。


いや~、あらんかぎりの痴態をさらけ出して軟体生物と化してしまった後で、カワイイ系のこの小物は・・・バカと言われても”ですよね~”と肯定してしまうくらい効くわ・・・


ガニ股でなんとかレクルームへとたどり着き、ジュースを買って長椅子へ座る。


指でつまみ上げた白うさぎのイヤリング・・・なんで一個なん?・・・が、赤い目をキラキラさせながら揺らいでいる。


でもそのうち「あんだよこのゴミアクセ・・・バカにしてんの?w」て鼻で笑って投げつけるような女にレベルアップしちゃうんだろな・・・


自分のことながら悲しい。


はぁ、とため息をつくと、同時に上がった同じため息を向いてしまう。


「あ、ユウ」


「ナミエ・・・さっきぶりだね」


軽く笑いあい、どうしたの、と聞きあう。

食った男の感想などをほどほどに交換したあと、ユウがつぶやいた。



「あたしも死んだら、あたしが殺した人たちのところに行くのかな」





・・・んんん??????

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