腐肉汁より

「なにが童貞だっつーの・・・」


腐れ酢のように強烈な悪臭を発する黒い汚水が染み出すベッド・・・敷布団の上、自分にのしかかっている命を果たし尽くした肉塊の下より這い出る。


腐肉ともろもろの汁に塗れなが毒づいた後、剥かれゴミの上に捨てられた白いワンピースを拾い上げシャワーブースへ向かう。


防水シールドを払うとジャンル違いの更なる黄色系の激臭が立ち上がり、遠のく意識に膝が崩れた。


メタンとアンモニアの大気…ここは木星か!


目鼻口蓋の粘膜へ刺さる激臭への生理反射を巫女の権能を全開にして止める。

ひとたびクシャミでもすれば、次ぐ大呼吸による有毒ガスにより意識は完全に刈り取られるであろう。


倒れて汚物だまりにカオつっこむのは勘弁だから!


遠のく意識を必死につなぎとめようと頭を振る。


なんとか堪え切り目を閉じたまま、開ければ映るであろう床一面の汚物を遮るようにシールドを戻す。


『トイレ併設だからね・・・脚がああなってからは使ってなかったんだが、ひどいなコレは』


男にしては軽やかで明るい声が頭に響く。


「よく静電気で爆発・・・あ、エアコムか」


『うん。人体外の電磁気力は全て制御下に置かれるからね・・・シンクはまだマシなはずだ。シャワーヘッドもあるよ』


線の細い、女性のように嫋やかな美しい男のナビゲートに従いシンクへと向かう。

うーん。。。視覚に投影すっと、とても食ったヤツと同じ男には見えないよ。


「さっきも言ったけど、童貞詐欺でしょあんた。腐った脚とあんな突き出たおなかでよく・・・」


『ああ・・・大地の時代からボクら男は何故か童貞を強く恥じるからね。自分で言うヤツはヤリチンだけなのさ』


ほーん・・・まぁセンシティブなワードだろな、とはアフロで遊んで思ったけどカイリーみたいに初体験は絶対に童・・・新品の男と決めてる美女もいるのにな。


『おまえもったいつけて全然ヤらしてくんなかったじゃねーか!』


アフロ()から物言いが入る。

成仏できないのかこの凡愚凡俗め。


「あんたチューめたくそいい加減だったし、女なら誰だってヤりたくないって」


初めてのキスと同時に胸揉みやがって・・・ほんとサイテーのアフロだった。


『フン、残念だったな。おまえより胸のおっきな女と・・・』


「どーでもいいわはよ消えろ」


・・・アフロのクセに生意気な!

吹き消したろうそくの芯を摘まむように念入りに魂の残り火を捩じり消す。


『ろうそく・・・ああ、中世のランプとかいう照明だね。博識じゃないか』


「家はフツーに使ってるけど・・・まぁ、フツー使わないよね」


どこの家庭でも儀式用に常備されてるものだと思っていた苦い記憶が思い起こされる。


ゴミ溜めをまたぎかき分け進んでゆくと、申し訳程度に除けられた真ん中に、給湯機から伸びたシャワーヘッドが垂れ下がっていた。


汚物と汚水溜まりになっているシンクへと噴射しながら湯加減を見、浴びる。


「これ、下の階に流れちゃう?」


『キッチンは床排水だから気にしないでいいよ』


ゴミの隙間からカーペットらしき物も覗いてるしどうみても耐水床じゃないっしょ・・・でも刺すような激臭に耐え切れずシャワーを続ける。


ワンピとサンダルも汚れを流し着装すると、開け放たれて汚物が雪崩れ出ている窓から外へと飛ぶ。


『わっ!』


「ナニ?忘れ物??」


たすき掛けしたポーチを確認し、ホテルの支配人に渡されたスプレーカプセルを思い出す。


『いや、こんな・・・あんな高いトコから』


「月だからね、落ちるのびみょーに遅くてもどかしいくらいだよ」


『うーむ、さすが若さ・・・と置き捨てるには異常すぎる』


ポーチからカプセルを取り出し、手首にワンプッシュ。


「あ、水切らなきゃ」


猫のように(見たことないけど・・・ネズミはいるのに)全身を振動させて毛髪体表から水気を飛ばす。


「ちょっと薄いかな?」


水と一緒に香気も飛んで行ってしまったぽい。


『ならそれくらいが適量だろう』


うーん、どんなイイ香つけてたってカイリーが横に居たら全部あいつがもってくし、どうでもいいか。


あの子の青い静脈が透けるミステリアスな眼窩二重の下の青いひとみが頭に浮かぶ。


『・・・そんなに美しい人類が存在するのか?』


ん?


「いやいやいやいや、あんただって同じ人種じゃん。正直あんたよか落ちるって」


ヤったあの肉体は兎も角・・・


『ぼくは男だ、美しいのは当然だろう。しかしその者は女ながらも高い鼻梁、くっきりと鋭く下がってゆく輪郭・・・しかし嫋やかに頭頂部へと倒れてゆく前頭骨、男性的でありながらも小さく繊細な下顎、極めつけは・・・』


ハイハイハイハイ当然、あたりから聞き流しっすわもうなんなんこの男・・・


「男同士だと・・・やっぱり満足も違うの?」


やはりどちらかはあの波打つ満足と、裏腹の置いてゆかれるような寂寥を感じるのだろうか。


『いや、僕はノーマルだよ。なんでバイセクシャルに思えたのかな』


んー・・・自分を美しいっつー男みたことなかったから・・・?


『なんだいそれは・・・文化の違いってヤツか』


そういやスタイリストの林さんも言ってたっけ、最近は鏡を見る男が少ないって。


『とにかくカイリー?その女性を目にしたい、お願いだ』


ため息が出る。


「まーあたしも白人教徒だしカイリーのいいひと燃やしちゃった後ろめたさもあるしいいけど・・・」


とりあえずコレだけは念押ししとかんとな。


「あたし、カイリーとは寝ないからね」


当然だ、なんてしれっと言い捨ててるがコイツウソつきだからな・・・アフロが伝説の星間チャンピオンの誰々だっつーから鼻摘まんで食ってしまったんだけど。


つかなんのチャンピオンなのよ?まさかセックス??


ミーハーすぎんのもなんとかせんとな・・・



自らを戒めつつ、ソクブランへ戻ろうとチャンピオンに案内を求めるのであった。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



実況系(たぶん)で「初めてのキスで胸揉んでくる男に告げる」みたいなスレ見たんですよね~懐い

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る