ピロー漫談ガールズ

枕を共にしている男の横顔を見つめる。

枯れた汗の匂いに強い香水。


シトラスと何かのハーブ・・・おじさんの匂いなのに、お父さんとは違ってすごく大人っぽく感じる。


アフロは使ってなかったけど、弟の友達の男子はゆずたま豆腐の香のコロンを使ってたっけ。


おいしそうな匂いなのに結構やんちゃ坊主て感じの美しい白人だった。


いけない、他の男のこと考えてる。

松永さんは・・・名前、知らないやそういえば・・・あたしと同じ黄人なのに、白人より白い気がする。

薄い灰色、なのかな。

並ぶと黄味もわかるんだろうけど、あたしの二の腕の裏側と同じくらい白い。


奥さんと、あたしと同じくらいの娘がいるんだね。

抱かれてる時に様々なイメージが流れ込んできた。


涙が出てきてしまった。


会社にも、家族にも大事にされていないのに、子供の頃の娘さんの笑顔と涙を全ての力に変えて生きている。


「眠れないのですか。・・・悲しい夢でも?」


老眼で見えないだろうに、あたしの髪を梳き、目に焦点を合わせて微笑んでくれる。


「うれしくて・・・」


ルフィに言ったこと、レディコミとかのセリフそのまま言ってしまった・・・


自分が、はたして幾ばくかの慰めになれたのか。

聞きたいが答えは決まっているんだ、問うだけ無粋。


優しくて、世の中と家族・・・女に使い倒されるだけで消えてゆく弱く美しい男たち。


「私は、行きます」


身を整えて部屋を出てゆく。

松永さんは、振り返らなかった。



・・・男てセックスした後やたら淡泊になるけど、それなりに得ているもんあんのかな…。


アフロに聞いてみるかとエアコムを開く。


―――――ナミエ、お前はどこでナニやってんだよ!


え?ナニだけど・・・あw死んだのあんたwww


エアコムには何もない。


わらうwww


『ルフィさん、あのひとスゲー人だったんだな・・・死んでわかったよ』


『そうなんだ~~~成仏する?』


『おまえは・・・まあいいや。やってくれ』


『ん。・・・あ、ねえ男ってセックスの後、ちゃんと得るもんあんの?』


『・・・は?出した後は・・・邪魔だなこの肉塊、くらいの感想しか』


『はよ消えろ』


『ちょ、まっ!おまえは俺を・・・』


プチっ。


・・・あ、お母さんの魂と合流したみたい。


《ええ・・あなたアフロのまま死んだの?長髪ストレートに戻ってほしかった・・・ヨヨヨ》


《え?!母さん死んでたのかよ》


《どこまで親不孝なんだろねこの子わ!!!》


《痛てっ!なんだよココ霊界とかじゃねーのか!》




天国あたしん中でアットホームすな・・・







「あたしも、あんな風に死ぬんだ・・・」


パイロット専用の個室。

ユウはベッドで寝返りを打つ。


目を瞑ると浮かんでくる、庫内で青いシートを掛けられたハンビオンの背中。

シートの下よりかけ出てたまらずえづく者、淡々とピンク色の物体を掻き出し、バケツに詰めて運ぶもの。


「ルフィさん・・・」


『本官は・・・いや、前職で馴れておりますのでやらせてください。せめて』


すっかりと病変・・・曖昧な状態から回復し、精力的にアフロの亡骸を掻き集める姿は、いつも通りに見えた。


「あたし、あんな強くなれない」


いままで自分が引いてきたトリガー。


それは悉く、あの変わり果てたアフロを作り出してきていたのだ。


恐怖。悲しみ。そして恨みと怒り。


奪われた家族と生活、世界を取り戻そうと・・・新たな失いし・・・奪われし者を作り続ける。


「・・・こわい」


背骨に氷を詰め込まれたような冷たさに震え、思わず声に出す。


ドアブザーが来訪者を告げる。


おもわずに跳び付くユウ。

人の声が聞きたい。


『ルフィだ。入れてくれ』


アフロの肉片を集めていた血にまみれた姿を思い出し、一瞬躊躇した後、コックを開に上げる。


トラウザーと肩にジャケットを掛けただけの姿で入って来たルフィは、ユウを抱き上げると、そのままベッドへ倒れ込んだ。



「ちょ、ちょっとルフィさ・・・あっ」


色々と剥かれながら抵抗するも、ルフィは難なく全てを肌けて獣のようにしゃぶり付いてきた。


(こんな時に、こんな形で・・・)


ルフィに抱いていた憧れ、淡い思いが砕け涙となって流れ出てゆく。


「こんなの・・・こんなの嫌だ」


ユウの涙声に、凌辱が止む。


固く瞑っていたマブタを開くと、そこには怯え切った男の顔があった。


・・・ダレ?


「助けてくれ、ユウ。俺を助けてくれ!」


助ける・・・?



助けられたいのは・・・



目を閉じ、アゴを上げる。


激しい接吻を受け、ユウは涙を流していた。





自分の初めてのすべてを、哀れというつまらないモノに捧げるしかない自分を憐れんで。






「ああ・・・まぢで気拙い・・・」


死なれた挙句、貸した(カイリーの所有物ではない)ハンビオンまで血塗れにされた彼女は艦内のバーでお高い蒸留酒を飲んでいた。


水のように喉を鳴らして飲む彼女を、なにか言いたそうにバーテンが眺めているが、止める気はなさそうだ。


学生時代(つい一月前)、貸したバイクでカレシが事故って死んだあとその親にめたくそ怒られたことを思い出していた。


(あなたが・・・アナタがバイクさえ貸さなければッ!)


この人殺し!他散々ぶちまけてくれたが、知らねーよ以外の感想は無かった。

いや、バイク弁償してくれなそーだな・・・程度は考えていたかもしれない。


(やめろ、・・・すまなかったね。妻は興奮してしまって)


ふたりで一緒に、死を悼みに来てくれたことを感謝しようって話してたのに・・・そこまで耳にした後、しばらく意識が飛んで・・・気が付いたらそのダンナに振り上げた両手首を拘束され、めたくそに叫んでいた。


あんたは悔しくないのか、機械か、昆虫か、フリージストザーボンさん、ドドリアさん気取りやがって等々。


優しく抱きしめられ、しばらくの後に解放され、言われた。


(わたしもね、君のように罵倒して・・・こうして抱きしめられたのさ。今、彼の気持ちがわかったよ)


・・・そうか、あたしは怖かったんだ。


(・・・むろん私は、君のような清楚な美少女ではなかったが、ね)


嫌味か、と笑おうとして、そのまま泣き崩れた。



・・・その時の自分を思い出し、感動的なシーンだった、と涙を流しながら反芻する。


むろんその時の、自分の小ささ、力の無さを嘆く気持ちなど欠片もわいてこないし、喪失の寂寥と恐怖に泣きながら絶叫した筈の死んだカレシ(たけしか?)の名前も思い出せないが。


疲れたオヤジのようにラッパ飲みを繰り返した後、カウンターに置いた酒瓶を縋りつくように抱きしめ涙を流すカイリー。


バーテンは突然濃厚な色気を発しながら肩を震わせる白人美少女に恐れを隠し切れず、店内の客を全て掃きだし看板をしまう()と、今は誰も使わない滑らかで流れるような言語で歌う古いブルースを流し、自分は給仕マシンに徹したのだった・・・



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



・・・あれ?ひょっとしてカイリー最終回まで処女のままかもしれん。


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