ウサギと迦具夜比売
「なあ、どうしても降りるのか」
「うん。・・・ルフィ、ありがとう、ね」
バルフィンドはナミエの肩に手を伸ばす。
ナミエはバルフィンドが伸ばした分、退く。
空ぶった手を握り、戻してバルフィンドは告げた。
「じゃあな」
艦内へ踵を返した瞬間、バルフィンドの背中を蹴ろうと上げた脚を下ろし、ナミエは倒れるように彼へしがみ付く。
「バカ」
背中のぬくもりが離れると、バルフィンドはそのまま艦内へ戻っていった。
ナミエはその背中を、無表情でエアコムで録画していた。
月の基地、ソクブランが入港したドッグを全球裏から覗う宇宙巡洋艦があった。
ザイオン公国主力宇宙艦ザム型を、メインエンジンの追加他多数のボルトオン増設てんこもりでスープアップした地雷仕様のフネだ。
当然、公的な施設には入港できず、軍港は入港の可否どころか自陣の港からも警告なしの先制攻撃を受ける有様で一般には違法改造とカテゴライズされる宇宙に浮かぶ粗大ゴミであった。
その粗大ゴミの中で、ギルベルトは脱力の極致にあった。
罷免、左遷や暗殺を覚悟し、囲っていた10に届か・・・ハタチ前の少女達を士官用特別脱出艇で送り出した。
それなりの金と、忠誠心を器質的に脳に施された侍従を一人に対し三人ずつ就けて。
そして自決用拳銃を咥えたところでブリッジから呼び出され、僅かな苛立ちと極大の安堵を噛みしめながら上がってみると、艦隊を移管したばかりのサミュエルは戦死し、オペレータの一人が謀反の末自決と告げられた。
「何者だ?・・・ああ、サイトンか」
居ない者は、サミュエルの他は彼だけだった。
「少佐、補給終わりました。補給のリーゼは少佐の専用機の他はゾカが五機です」
「そうか。ゾカはいつでも出れる様にしておけ」
「はっ!・・・少佐の機体はいかがしますか」
「D整備へ出せ。むろん、他機の出撃前整備を優先だ・・・私の機体はチューニングに100時間は必要だからな・・・」
あの敵は異常だ。
今回も兵だけで、いや。
このまま中将閣下の沙汰を待ってお茶を濁すか。
いやいや、最低でもあの動きに精細の無い白いやつだけでもキルしなければ。
、
、
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アフロの男が白人美少女をレモン色に光る壁に押し付けていた。
「なあ、たのむ!次回の出撃・・・俺にハンビオンを譲ってくれ!」
「ウフフ、よろしくってよ?」
美少女は笑みながら承諾する。
「ありがてえ、次こそは獅子奮迅の活躍で、、、」
アフロ某は自分以外にはどうでもよい決意に燃えながらその場を離れていった。
不本意なのか、頬を膨らませてその姿を見送った少女はため息をつく。
「・・・ま、いっか」
壁のインターコムを取り、ふとエアコムを表示しかけ・・・閉じ、カールコードで繋がれた送受話デバイスを握る。
「あ、ボランティアのカイリーです。生理きちゃったんで次の出撃休みまーすw」
『わかっ・・・ん?出撃を??』
言い捨ててデバイスを壁にかけ戻すと、何事か呟いて何処かへ去った。
(まぁまぁだけど、ナミエのおさがりだし・・・ね)
受けた少尉はエアコムでカイリーを呼び出しかけ、止める。
「たしか一人、機を壊してあぶれていたはずだ。たしか、アフロ某・・・」
「マクレガーさーん!」
若い男の声が少尉を呼んだ。
「ああ。アフロ某くん、だったね」
「はい!次の出撃ですが、俺にハンビオンを配機してください!」
「いや、さすがに申告による変更は・・・」
「カイリーはいいよ!つってました!」
少年・・・の得意絶頂満面の笑顔に、マクレガーは(おもちゃの貸し借りかよ!)と続けようとしたのかは彼のみぞ知るところではあるが、思いとどまったのか別のコトバを継ぐ。
「そうか。心強いぞ、よろしく頼む」
「ヒャッハー!」
めたくそハシャいで去ってゆく少年の背中に、マクレガーはそっと息を吐いたのであった。
「これも時代、か」
・
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宇宙に浮かぶ違法建築物・・・もとい、ツノとかついてる巡洋艦の中。
「少佐、準備完了しました」
目の前に並ぶザイオン軍正式パイロットスーツの者らを前に、赤い指揮官礼服を着た男・・・ギルベルトが鷹揚に頷く。
「うむ、いけ。功をあせるなよ」
一斉に敬礼。
「はっ!・・・え?その、少佐は出撃ないのでありますか?」
五人の内四人が駆けだしてゆく中、残った男が疑問を掛ける。
「私のゾカの準備が終わり次第出る」
「は・・・その、すでに重力機関の始動を終えアイドリング中でしたが・・・」
苛立たし気に手を払おうとしてか、ギルベルトは組んだウデを解きかける。
「そうか。わかっ」
「少佐!ブリッジはお任せください!」
突然ギルベルトの背後より数人が立ち上がる音と共に、謎の申告が上がる。
「我々、誰一人として生きて帰ろうとは思っておりません」
四人のコクピットクルーのしかと定まった目が注がれていた。
妙だぞ・・・ええい、なんだこのプレッシャーは。
「お前たち・・・死に急ぐなよ」
ギルベルトはいぶかしむが、ブツブツと文句を言いつつも視線に押されるようブリッジを出るしかなかった。
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「ん?出撃要請だと?・・・ここの防衛隊はどうなってる」
マクレガーはいぶかし気にオペレータへと問いを返した。
「全機撃墜されました。赤いリーゼ・・・ニャアです!」
「にゃっ?!ニャアだと?!?!?!奴はルフィに撃墜された筈では」
マクレガーは思い返す。
ソクブラン歴戦の熟練パイロット四人を、一瞬にして葬り去った赤いリーゼを。
そしてほぼ同時にルフィの
「ルフィは出したくはない、が・・・」
ソクブランに唯一残った制圧力の高い発進可能な戦力である。
「え?出撃ですか?出ますけど・・・」
誰だ、この気の抜けたような声は・・・とマクレガーが振り向くと、そこには全ての表情が抜けきっているのかとおもうほどのっぺりとした顔の男が立っていた。
「・・・バルフィンドか?!どうしたんだ、おま・・・」
「え?なんかヘンです??」
自らの顔をぺたぺたを触りながら訝しむ姿に、マクレガーは考えたくない可能性にハタと思い至った。
「メディックを呼ぶ。お前は戦闘虚脱症だ」
「はぁ、命令なら従いますが・・・」
救急をコールしようとエアコムを展開したマクレガーの横をアフロが駆け抜けていった。
「ルフィさんは休んでてくださいよ!今回の敵は全部俺がもらいますから!」
ハンビオンに飛び込み、あっという間にデッキへ上がってゆくのを見送るしかない二人。
「・・・ああ、あいつ死にますね」
よいしょ、と老け込んだ掛け声と共にハンカノンに乗り込むルフィを、マクレガーはとどめようと声を掛ける。
「おまえ、そのまま
「いや、でも診察室で死ぬより・・・ああ、あの、行かせてください」
ルフィのやる気ないお辞儀は既に彼岸に居るように儚く、遠かったが、それゆえマクレガーはただその姿を見送ることしか出来なかったのであった。
血気にはやる初心者と虚脱した星間チャンピオンシップランク外、内惑星キャンペーン四百番台のゲーマー、射撃・・・射的だけは超能力者レベルとルフィの評価が入る女子高生の三人に、ソクブランと月の基地・・・まだ名前は無い・・・の運命が掛る。
ガチャは、月二千円まで。
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