月とうさぎと迦具夜比売
「アフロ、行ったぞ!」
バルフィンド機の横を抜けた敵性リーゼ、ゾカがアフロ某のハンカノン1へ迫る。
「ふっ、バルフィンドさんばかりにいい恰好は・・・グワァー!」
すれ違いざまにゾカ二連バースト三射をコクピット周辺へ全弾を被弾、一部貫通した120ミリ粒子砲弾が機体内を跳ねまわり全システムを完全に破壊、脱出と自爆シーケンスが作動し二秒でポッドが排出され爆発・・・アフロ某は撃墜された。
「アフロ―!くそっ、顔はいいのになんですぐやられるんだ」
ユウがコンソールを叩きながら罵倒する。
「あらーん?顔で戦えるならあたしがサイキョーでしょ。みていらして~んwww」
カイリーのハンビオンが優雅に宇宙を駆け、ゾカを追ってゆく。
「ユウ、カイリーが引き込まれている。アンブッシュの予想位置を送るから全てに大砲を撃ち込んでやれ。タマはケチるなよ」
バルフィンドの報告を耳にして、ユウは笑う。
前方のどこまでも広く深い暗黒の宇宙空間(外宇宙方面)に描き出された砲のロングレンジグリッドに予想標的位置が黄色で配置されてゆく
「7機・・・バルフィンドさんステキ!きっと全部当りだよコレ・・・フォイア!」
爆発的な重粒子加速の閃光が秒間16発、連続して炸裂を続ける。
ハンパンツァの巨体は発砲の衝撃で激しく跳ね踊るが、射撃終了まで砲身はまるで宇宙に固定されたよう微動だにしなかった。
光学、電磁気的にシールされた何もないハズの空間を数多のピンクの弾幕が蹂躙し、そこかしこで撃墜の花が咲いてゆく。
「おいおい全キルかよ・・・すげえな、星間チャンピオンシップ10位以内の腕だろこりゃあ」
「そう?スゴイの?」
「ああ・・・超能力者レベルだぞ。・・・お、カイリーが当てた」
ハンビオンの追っていたゾカが被弾、白煙が上がり漂流を始める。
「えい」
カイリーの気の抜けた気合が映像に遅れること半秒で全機へ届く。
「ふふふ・・・気づけばあたしが近づいただけで敵は悉く全滅じゃな~い!ひょっとして軍人で食べていける?!」
「いや、その周りの奴バルフィンドさんの戦術指示とあたしの射撃だから」
ユウとカイリーの漫談を聞き流しながら、バルフィンドがソクブランへ報告する。
「こちら迎撃アルファ、バルフィンドだ。敵リーゼ全機撃破。救難ポッドを回収し帰投する」
「こちらソクブラン。敵リーゼの自爆を十分に警戒せよ。敵の救護は別の隊に任せる。オーバー」
別の隊・・・放置か。
「オーバー、っと・・・おい聞こえたかおまえら、帰るぞ!」
バルフィンドの声掛けにユウが問いかける。
「アフロはぁ~?」
「ヤツのは自律機動できる新型だからな、もうソクブランへ着いてるんじゃないのか」
「いいなー。次からあたしも自爆しよっかな」
「したら帰る
カイリーに突っ込まれユウは笑った。
宇宙都市ナンバーセブンを脱出してより、緒戦に迎撃宇宙戦闘機と手練れのパイロットを全機喪失するなどの致命的損失はあったが、以後ソクブランは順調に航海を続けていた。
逃げるモノがいれ・・・追いすがる度に・・・ともかく、ソクブランに向けて振られた女にしつこく付きまとうがごときの執着を見せる船があった。
「
「ああ、先程の襲撃でも進路を変えて無い。間違いなかろう」
・・・
「少佐のゾカIIは8時間後に届くそうです」
「そうか。私の機体は兎も角、こうも機体とパイロットを失っては・・・な」
「奴原目共と戦い生き残ったのは少佐殿だけです。・・・献策いたします!次の作戦は」
「よし!有視界に月を確認した。もう航路は動くまい・・・中将閣下へ報告に戻るぞ!ディアナへ転進せよ!!」
「補給部隊とのランデブーはいかがいたしますか」
「・・・そうだな。恋人への不義理は後に尾を引く、か」
飽きられかけていれば猶更ではある・・・
ギルベルトの脳裏に三回の補給で得たゾカ24機を全て失った散々たる損害がバルバドス中将の蕩けるような笑みと共に稲妻のように走った。
「よし、サミュエル大尉。今日からキミがこの艦隊の司令だ、私は女達の始末をせねばならん。・・・あとは任せる」
「は・・・しかし、その。早まった真似は・・・」
ギルベルトは振り返ることなくブジッジ奥の昇降通路へ消えて行った。
サミュエルはため息をつきながらキャプテンシートへと戻る。
「キャプテン、その・・・司令・・・コマンダーシートに」
重粒子観測員のベクトルがいぶかし気に発言した。
サミュエルは両手で顔を撫でると、言う。
「ベクトル、観測器から目を離すな」
「はっ!」
「・・・ふん、こうなってみるとナンバーセブンの防衛艦隊・・・いや、防衛艦の最後は、見事であったな」
サミュエルの言葉に、五人のクルーは夫々の反応を見せる。
瞑目する者、落ち着きなく視線を動かす者、うなだれる者、あきらめた様にシートに身を預ける者。
最後の一人、戦術オペレータが席を回し、半身をサミュエルへ向ける。
ブリッジが緊張に凍り付いた。
「あの、自分は前回の戦闘以後の補給で入りましたので、その件は知りません。・・・その、気にかかったままでは要らぬ憂いが末期の邪魔にな」
若いクルーを遮るように、サミュエルが被せる。
「まぁそんな気負うな。どうせ切羽詰まったら他の奴らが俺を撃つから、その時は死んだフリして静かになってから退避退艦すりゃいい・・・おい、サイトン」
サミュエルの促し様は、全くの自然体であった。
サイトンは熱くなる双眸を抑えきれず、滂沱をそのままに素早く立ち姿勢よくサミュエルに最敬礼する。
「艦長、サミュエル大尉殿・・・いや、司令閣下!自分もすぐに後を追います!」
敬礼された本人は眉を顰め、僅かに口を開くのみでった。
「・・・ん?」
発砲音。
燃焼ガスの爆発的膨張により作動する拳銃のものだ。
ゼロG下では射線を維持できずフレンドリーファイア祭りになるので、主にザイオン軍の曹以上の階級へ自決用に支給されるのみである。
排莢されたガスカートリッジが床に澄んだ音を立てた。
「は?」
「え?」
誰も、何が起こったかは脳が理解していた。
だが、なぜこのようなことになったのか、という条件分岐がそんな馬鹿な、というエラーでスタックし、しばらく誰も動くことができなかった。
「・・・ダメだ、俺には自分で死を選ぶことなど・・・ベクトル、頼む」
サイトンに呼びかけられ、ベクトルは、はっ、と気を取り戻した。
返事をする間もなくサイトンに拳銃を向け発砲。
倒れたサイトンとサミュエルを機動担架に乗せ、医務室へと送り出す。
「・・・で、結局その・・・ナンバーセブンの防衛艦というのは?」
「よくおまえ今の直後でソレ聞けるね」
「あ、すみません」
「いや、いいよ。漂流物になってた防衛艦から不審な音がするって近づいた僚艦ジムがいつの間にか機動砲台に囲まれて撃沈されたのさ」
「それちょっと小狡く・・・なんというか、汚いですね」
新兵・・・新人の評価にベクトルは片眉を上げるが、すぐに興味なさそうにコンソールへ視線を下ろす。
「まあな」
「その、なんで艦長は見事などと評価を」
ベクトルは笑いながら答えた。
「・・・まあ、偉い人にゃいろいろあんのさ!考えすぎるな」
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