血の色と匂い
この男は血の匂いが強い。
あたしと同じだ。
不思議・・・ただのヒトなのに。
焼けた濃い肌の熱い胸板に抱かれながら、胸毛で遊ぶ。
あ、カイリー剃毛カミソリ探してあげないとそろそろ肩毛やばいかも・・・
「ん?起きたのか」
「んーん。嬉しすぎて寝れないの」
「ふっ」
キス。
うーん、レディコミや女性週刊誌のようなことを素で言ってしまった・・・
「フフ、女も男もこーなればみんな同じこと言って同じようにサカっておなじように生まれるのね、命」
「同じじゃねえさ。お前は、オマエだけだ」
「あっ」
夜明け前の
「うう~~~~おはよお・・・」
「そのガニ股・・・ヤったな」
「うん・・・すっごい痛かった!うへへへ」
「チッ、隙がありゃ頂くぜ・・・カードは揃ってんだ」
「ウフ☆まぁ頑張ってみればいーんじゃない」
「はよーん。あ、ナミエ・・・終に女になってしまったのね」
「わかるぅ?イヒヒヒ・・・」
「処女バレした途端ズタズタにされなかった?」
「うひーズタズタとかやめて!」
「めたくそ優しくなったよ。耳元でなんか言ってくれたら痛みとかも全部消えちゃったし」
「なんつってたの?」
「わかんない」
「なんだろう・・・”おまえを犯す”とか?」
「犯罪予告じゃねーか・・・」
演習だ訓練だと楽しいイベントに向かってしまったみんなを見送り、あたしは艦内をぶらつく。
「あ、おーい昨日の・・・って、ああ、もう終わりか」
「ん?・・・ああ!うん、ごめんね誘っといて」
きのうの断って逃げたおじさんだった。
「でも終わり・・・って?なんでわかるの?」
「目だよ目!もう全然サカってないじゃんよ。あーあ、ザイオンがこなけりゃよぉ・・・じゃあな」
手を振り別れる。
あんなギラギラしつつもさっぱり爽やかなおっさんもいんのにな。
女なんて五人でも十人でも満足させられそうじゃん。
どーしても昨日頂いた三人と比較してしまう。
・・・そーいやこのフネって何処向かってんの?
「すいませーん」
ブリッジに上がってきてしまった。
「おや、君はレクルームに居た・・・志願かね?」
イヤイヤイヤ~~と艦長に首を振り、言う。
「このフネは何処に向かってんですか?」
「うむ、君たち民間人の受け入れ先を探してね、とりあえず月へ降ろそうと向かっているのだよ」
「へえー」
・・・
「どうかしたかね」
「いえ、なんか艦長に直答してもらってるのが恐れ多いというか・・・」
「あっはっはw戦闘や軍務でもない限り偉そうな態度なんてとれんよ!いまやどんな些細な弱みも三次元データで保存されてしまう時代だからね」
「やっぱりユニオンて足の引っ張り合いとかスゴイんです?」
「うーむ、・・・いや、学生のキミらより政治面はマイルドだよ。高度な取引材料も使えるしね」
「高度な・・・ああ、お金!」
「ははは、身も蓋も無いな!」
いいおじさんだなー。
子どもと話すときは子供に視線を調節できる大人のヒト。
「ありがとうございました、またきます」
「ああ、いつでもおいで」
下りる。
うーん、この後のブリッジを盗聴したい!
でも夕飯のハナシとかしててあたしの事なんて既に脳にないんだろーな・・・ってなんだこのかまってちゃんモードは?!
広域マスコミュの放送が見れる休憩室へ入ってゆく。
ザイオン公爵家のインタビューか・・・なんか軍服とかあっちのがカッコイイよなぁ。
『ハマミ、一人でいられるな』
『はい、お父様』
なんか傷らだらけのフランケンシュタインみたいなお父さんつわれてたのが退場した途端、カメラが変わる。
舞台袖(?)視点で、スタッフ同士が残された女の子を指しながらひそやかに喋っている。
忍び笑いを漏らした女が、ハマミという女の子へ近づく。
妙なカメラだな・・・パパラッチか?
『ハマミ公女殿下、カン家臣籍への降下、ご愁傷さまです』
あー、イジメか。
恥かかせて笑いもんにしよっつー・・・
つまんねーな・・・
『ふ、苦しゅうないぞ、ゲミン』
おっ。
『ゲミン・・・その、どういった意味の言葉なのでしょうか』
『知らぬのか?その程度の教養で勤まる仕事とは・・・楽でよいのう』
『は、寡聞にして存じ上げません。恥を忍んでお願い申し上げます、何卒ご教授ください』
早口、レポーターさんはやくちwwwなってるwwwwww
『うむ、無知にしても廉恥の心を持つとは殊勝である。されば教えて進ぜよう。ゲミンとは』
カップを持ち上げ、紅茶を優雅に口に含む。
下品な音とともに吹き出し、レポーターに掛かる。
微動だにしないレポーターのノドを、ハマミ公女の剣が刺し貫いていた。
『ゲミンとは、其方の如く下衆で愚劣な無知蒙昧の徒を指す。身の程を知らば最早生きれまい?・・・往生を許す、死ね』
公女が手首を捻ると、レポーターの首の後ろに抜けた刃の元より血しぶきが飛び散り、カメラにもかかる。
動かなくなった体が剣から垂れるしずくのように力無く床に落ち、重い音と共に頭がこちらを向く。
悲鳴が上がった。
騒めきが広がり、怒声が飛んだ。
公女の手が煌めき、何かが破裂したような鋭い音が鳴ると、再び鎮まる。
『だからそちらはゲミンというのよ、なぜ誰も立たぬ?なぜ誰も抗わぬ?』
そうそう、椅子でもなんでも投げればいいのよ。
見た感じ10歳にもなってないくらいじゃない、大人ならどうとでも殺れるでしょ?
『まあよいわ、来ぬならこちらから参るだけのこと・・・ふふふ、退屈かとおもうたが楽しい夜になったものよ』
再び悲鳴。
すごい、逃げてる。
あんなつまようじみたいな剣に・・・みんな逃げまくってんじゃん大人が!男が!ついでに女も。
・・・あー、わかった。
殺したくないのね、誰も・・・うんこが落ちてたら誰かが片す。
そしてそれは自分のシゴトじゃあない。
・・・そりゃうんこが動いて追ってきたら逃げるよね。
でもそのうんこにもう一人殺されてんだけど。
『なんだ騒がしい!ここは動物園か!?』
あ、さっき出てったとーちゃんじゃん。
『殿下!お助け下さい、どうか!』
『公女が、公女殿下が御乱心あそばされました!』
『どうかお諫めを!』
すげえな、ザイオン奴とはいえゲストだろこのとーちゃん・・・客にうんこ片づけさせるのか?家族なんだから自分らが出したクソでも片づける義務があるってか。
モラトリアムにありながらも全宇宙よりちやほやされてるこの女子高生という身から言わせてもらっても、なんという厚顔無恥・・・まさにユニオンの縮図!
とーちゃんが公女に視線を投げる。
公女は諦めたように笑う。
『父上・・いえ、殿下。我がおしりを拭いて頂きとう存じます』
はぁ、と、とーちゃんがテレビの外まで届きそうなため息を吐いた。
直後、世界が割れんばかりの怒号が迸り、気づくと会場は血飛沫く肉片の海と化していた。
鈴を鳴らしたような澄んだ音と共に、とーちゃんが身を返す。
『ハマミ、帰るぞ』
『散らかしすぎですわ・・・足の踏み場が・・・あら、そこのあなた』
悲鳴と共に映像が回転し、消えた。
・
・
・
「ねえ・・・ちょっと!いまの凄くない?!?!」
「映画?!最後のってどう見てもホラーの定番演出でしょ?!?!?!」
「鎮まれ!ゲミン共!!」
「言ったかそんなんw」
「往生を許す!死ね!」
「くるしゅうない、とか漫画以外で初めて聴いたわ」
この話題性。
あたしらユニオンなんて太陽系全域で大量に虐殺しまくって「全部ザイオンの所為!血の復讐を!」てグチグチやってるだけなのに、あいつらたった10人程殺っただけでもう太陽系中の話題全部もってきやがった!!
・・・つーかこの宇宙書き換えた犯人ぜったいあいつだろ・・・ハマミ。どうみてもフツーのガキじゃん、怖い!・・・ああ、バルフィンド!抱いて!助けて!!
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