迎撃戦闘機達の活躍

『遅れてすまない!・・・ヒュウッ☆二機も撃墜してやがる、あとは一機だけか!』


『その一機は恐らく我らベテランへの礼儀よ、なかなかわかっておるではないか』


『戻って酒でも飲んでてくれ。ありがとうよ!』


『フッ、悪いが炊事班へ風呂は熱めに・・・と伝えおいてくれ』


歴戦を経た勇士たちが悉く着陣する。

その余裕溢れる戦士達からの激励は、初陣の緊張が続くバルフィンドの心を熱く揺さぶった。


「ああ、助かったぜ。あとはまかせ・・・おい!」



次々と宇宙に明るい花を咲かせてゆく迎撃戦闘機達。


ユウの驚愕の声がバルフィンドの耳を打つ。


「ええ?ナニ?!何が起きたの?!?!?」


ユウのその疑問に、バルフィンドは叫びかった。

俺が訊きたい、と。


「デコイも欺瞞軌道も無しでそのまま突っ込んでいきやがった・・・俺はナニを見ているんだ?」


説明をしながらも、やはり疑問を続けずにはおれなかった。


「何言ってるかわかんないけど、バルフィンドさんがんばってね・・・」


「いや、もう帰れるぞ」


迎撃機が迎撃()された直後のことである。


重力粒子砲弾を四度連続で放ったギルベルト機は大質量となったリコイルを殺しきれず、僅かに後退していた。


リーゼ対戦宇宙ネットゲームで常に四百位台に名を連ねるバルフィンドには、その姿はネギを背負ったカモどころか只の通りがかりの疲れたおっさんが側溝へ足を滑らした程度のイベントにしか見えず、見て損をした・・・とばかりの溜息と共に引き金を引いていたのだ。


射撃慣性からの立ち直り様にカノンとライフルのバースト連射を悉く被弾したギルベルト機は、高速で回転しながら宇宙の果てへと消えて行った。


「お・・・ウソだろ?!この口径、高初速のバースト三連粒子砲弾を全六発悉くバイティングアングル装甲侵徹角度切りやがった・・・ああ、今のテクを見せつけたかったのか!やるじゃねえか」


「バルフィンドさーん!大丈夫なの?!」


「あ?!ああ、撃退した・・・ぜ。いや、恐ろしい奴だった・・・こっちは命がけだっつーのによ」


お陰で助かったんだがな・・・怖いぜ、戦争は。

スロットから離し、自分の手を見る。

戦場で稚気を披露するその心底寒からしめる狂気に、バルフィンドは震えを隠せなかった。




そのギルベルト機では・・・


「ザム!聞こえるか!!回転エネルギーが強すぎてコントロールできない!自爆するからあとでシェルだけ回収してくれ!」


『自爆?!落ち着いてください少佐!すぐにかいしゅ・・・』


ギルベルトは即座に薄い高分子シールで閉じられたカップを割り、その奥のスイッチを叩くように押下。

自爆シーケンスが開始される。


「・・・ん?なぜコクピットシェルが射出されない」


たおやかな女性の声で、搭乗者への勧告が行われる。


『回転慣性が強力すぎるため、射出は危険です。慣性が弱まるのを待ち、脱出してください』


ギルベルトは既に起動中のシーケンスの作動レイヤーを確認する。

既に重力エンジンは反応プラグを落とされ、消失状態になっていた。


切羽詰まった女性を模した自動音声で、要請が入る。


『シーケンス3,自爆炸薬への点火5秒前です、大至急脱出してください』


シート下の強制脱出レバーを引く。


「作動しない?!」


たおやかで落ち着いた女性の声で、搭乗者への勧告が行われる。


『回転慣性が納まり次第、シェルの射出を行います。作動までの予測時間、二億六千九百二万十四日と四時間三十二分6秒…4、3、2……』


「(空白)」


緊急性を強力に警告する大音量ブザーがシェル内の全ての物体を振動させ鳴り響く。


『二秒前、緊急警報!直ちに脱出しなさい!シート下のレバーが作動しない、もしくは肉体、頭脳の損失により手段を実行できない場合は・・・』


「あああああ!!!!!!!引いたよ!できねーんだよ!回転止めろよ!!!!!」


切羽詰まった女性の声が何かを続けてわめきたてていたが、その声の抑揚がスッ、と消失し、ギルベルトの脳が内容を理解しはじめた。


『・・・の最終脱出確認に未回答のため、強制脱出はおこなわれませんでした』


「は?」


『・・・カウントゼロ、自爆を行います』





その頃、ソクブランでは。


「何、赤いリーゼだと?」


艦長のバリドロムは目を見開いた。

左右に坐すオペレーターが答える。


「はい、バルフィンド機から機影が届きました」

「モニタ、出します」


迫る赤いリーゼが映し出された。


「・・・奴が・・・・」


バリドロムは思わず、漏らす。


「迎撃戦闘機部隊、接敵まで3,2,1,エンゲージ・・・撃破されました!全機被撃墜ッ!!!!!」


「な、化け物か?!」


電子戦オペレータおよび重力子観測部隊から悲鳴のような報告が上がる。

バリドロムは喉を鳴らし、ぬめり付く顔に流れた汗を拭いながら言う。


「ヤツだ・・・奴だよ、ザイオン独立宣言後の大海戦で8隻の宇宙巡洋艦と3隻の・・・」


「バルフィンド他演習部隊、帰艦してきます。敵驚異の排除に成功、二機撃墜、一機は不明ながらも撃退の模様・・・とのことです」


・・・


「そうか。宙域にはサルベージ及び救援捜索部隊を回せ。どうせ通り道だ、回収は通りがかりに行う」


「ハッ」


戦況ナビゲーションのオペレータ席に坐すセリア、ボランティアで参加した少女は人知れず呟いた。


兄さん・・・と。






「ねえおじさん、もう、みんな死んじゃうかもしれないんでしょ・・・だったら、あたしと・・・」


「え?・・・いや、もちろんウェルカムだけどよ。でも今ぁ忙しいんだよな、悪い」



チッ、結局あの三人だけかよ!

なんで?ひょっとしてあたし臭いのかな・・・うーん、頭の匂い嗅ぎたい!


髪の毛嗅ぐ限りはリンゴの匂いちゃんとしてるよね・・・モモのがいいの?


「よぉ、迎えに来てくれたのか?」


「あら警官のヒト、お疲れさまでした!」


敬礼する。


「ああ、バルフィンドだ。めたくそおっかねえヤツにあっちまったぜ、あー出来りゃあもう出たくないもんだ」


「ナミエです。蹴っ飛ばしてあげたんですか?」


「ん?ハハッ!そうだな、粒子砲弾六連射で宇宙の彼方まで、な!」


むちゃくそ手を握って振りながら叫ぶ。


「スッゴ―――――イ!今夜お祝いしません?出来ればフタリだけで・・・」


「えっ・・・二人、だけ?」


「あっ・・・」


うおおおお顔面!全身の筋肉で肺を絞り上げ呼気もろとも血液を上昇させよ!!


「嫌、でした?やっぱり・・・あたし・・・でも、そんなコト・・・」


男の手があたしのアゴに添えられる。


「嫌じゃねえさ」


低い声に男を向くと、やさしいキス。


「部屋ぁとってくるぜ。またな」


ぽーっと、酔い心地でカレの後ろ姿を見送る。


ステキ・・・今夜抱かれよう・・・



ヤケクソで誘ったのに、スゴイ当りを引いちゃったみたい!



「うわ!ナミエ!・・・」


「ん?アフロか・・・なーに”うわ!”とか、シツレーじゃなくって?」


「ああ、じゃあな。カイリーさんいきましょう」


「今度はカイリーかよ」


「今度は!てなんやねんおまえいい加減なコトギャアッ!」


「うるさいよ・・・」


鼻パンしてしまった。


「ウフ。死に損ねてしまいましたわ・・・」


「お嬢キャラでいくの?・・・ああ、まだアの日だもんね」


「辛くないの?あ、ナミエただいまー」


「ユウおかおかー。カイリーだいぶキてるだろ、辛くなると丁寧な話し方になるし」


「なんだよ言えって・・・ハイ」


たすき掛けしたポーチから何かを渡す。

制服(学)のまま宇宙戦闘機乗ってたの??え????動かせなくない?


「あら、たすかりますわあ」


「ユウ頼りになりすぎる・・・」


「ウフフ・・・バルフィンドさんかっこよかったよ☆」


「マジで?今夜食うんだけどマジで活躍してたの?」


「ええええ!!!!!!なに言ってんだよおま、コロ・・・ヤんじゃねーよあんなイイ男・・・」


「あ、食うて下の口のハナシだから!やめてよそんな快楽殺人者みたいに言うの!!」


「ああ、そう。下なら・・・えええ!!!あたしもコナかけてんだよやめてくれる?!」


「やめなーい」


「そう・・・なら今からは敵同士ね・・・」


「ユウ・・あなたとは、いつかこうなる日がくるとおもってたわ」


「あたしもよ、ナミエ・・・家の力は使わないでね」


「うふふ・・・使わない、と言えばあなたは信じるのかしらぁ?」


「クフフ・・・どうやらココで殺すしかないようじゃないかお嬢ちゃん」





仁義なき戦いはおやつの時間まで続いた・・・


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