名も無きひと



「・・・すごい!ナニいまの!!ユウ、エアコムは?!録画した??」


「ばっちり。謎の美少女ギタリスト発掘さる、てつべにうp済」


「でかしたwwwwww」


「はーい返しまーす」


おじさんが硬直している。


「おじ・・・おに・・・おやっさ~ん??」


もー仲間ウチの年上の方々てなんていえばいーのよ・・・めんどくっさ!


「・・・あ、おい!弾けるじゃあないか!持ってってくれ!」


「イヤイヤイヤ弾けない弾けない弾けないから、しかもレフティだし」


おっさんはビシ!と両手であたしを指す。


「弾いたろ」


「いまのは降ろしただけ!この楽器を体の一部になるくらい・・・愛した?人の一瞬を実演しただけだっつーの!ユウ!」


愛した?んとこで赤面しちゃったよも~~~。


「はい」


ユウがエアコムの画像を三次元投射する。




そこには黄人白人に挟まれて濃い緑の瞳の黒人少女が、カントリーなリフを激しく繰り奏でながら絹のように細く、しかし煌びやかに膨らんでゆく溶けるような歌声で美しくメロディーを紡ぎあげていた。




「うわーかわいい~~・・・ポリコレ抜きでいいじゃん、コレダレかわかる?」


「ちょっとそこの白人!デスワード挟むのやめなさいよ!命BANされるよ!」


「オヤジさん判るぅ?」


「うーん、リフは地味平の霧風呂Aじゃが、こんなメロディックな歌では・・・声は細く高く、裏声は更に高くで精緻精妙、それでいて大洋を泳ぐ魚のように闊達・・・このように歌い上げる黒人歌手はいたが、目も顔も違うの」


「つまり一言で ”知らない”、でしょ・・・ハナシながっ!」


「めんどくさいしもっかい降ろして語ってもらえば?」


「えー・・・大地の時代でしょ?野蛮だったらどーする??宇宙世紀の人間なんて三人くらいあっつーまに殺しちゃうんじゃないの?」


「あ、ソレはマズイです主にポリコレ的に」


「やめろっつーの!」


「てゆーかはやくギター受け取ってください手が震えてきた」


おっさんは受け取ると、なんか四角いケースに詰め、カウンターへドン置きした。


「もってってくれ」




「重い・・・」


「あんた重機持ち上げるくらい力あんじゃん。重いの?」


「あのさ・・・あんたらだって尻拭くときカメぽんスクラッチ削る勢いでやんないでしょ~~~」


「え?お金持ちなのにオートじゃないの?」


「ウチ和便とハンディだから(キリッ」


「ひょっとして拭く紙も植物紙なの?」


「さすがにチガウけど、ほんとのトコはわかんないわね・・・」


「まぁ、バレてもナミエの家って捕まえる方だからね・・・ニュースは出ても逮捕とかされないしね」


「ウエッヘッヘ」


「つーかおやっさんもなんで金取んないかな~~~もう」


「あ。あのお店とおじさんの名前、家の好き好きリストに入れといたからもう死ぬまでお金には困らないよ」


「なんじゃそりゃ」


「詐欺じゃない大金当選メールが沢山くる、・・・のかな、わかんないけどそんな感じ」


「ふーん・・・立ち退けとかヤクザに詰められてるって聞くけど、そういうのは?」


「あー、そっちはもう一生遭遇することはないんじゃない?」


「こわ!そっちのがこわいわ!」


「あ、あたしココ。じゃあね」



二人と別れ、リニアを降りる。


ワフーという歴史的建築様式で築かれた城。平屋だけど。


城門は常時解放されている。

もう門扉はサビて動かないんじゃないかな・・・


「これはおかえりなさいませ、ナミエお嬢様」


あ、ジオテラーズの人だ。


「こんにちは。松永さん、雷電さん」


「ギターですかな。・・・と、御引止めしてもうしわけない、では」


互い礼で別れる。


めたくそ目がケースに釘付けだったし、聞きたかったんだろーな・・・いいひとじゃん。


振り返ると、松永さんも振り返った。


お辞儀して、言う。


「いまなら地味平、女子高生で検索すれば見つかるとおもいますよ」


向き直り、家に向かう。


・・・いや、見つかんのか?ナニが??



クソでかい玄関(どーしても友人の部屋でダベる時間が長くなると実家の異状さが身に沁みてくる)から長い廊下を歩く。


「おやじー!地味平の焼きギターあたらしいのきたよ!」


「すぐに見せなさい」


「うわ!」


突然出やがって・・・


「ああ、そうだナミエ、喜びなさい。ここをザイオンに襲わせる仕込みがおわったそうだ。リーゼと戦えるぞよかったな」


「え?」


ギターケースを私から奪うと、親父はそのままそそくさと消えて行った。


急いでカイリーとユウにメールする。

なに考えてんのよ~~~クソ親父!


返信と着信は無視!あたしだってどーしたらなんてわかんないんだから・・・


あっ、カレシには・・・なんか飽きてきたし、いいか。

アフロはステキなんだけど、最近全然・・・あれ?あたしが飽きられてんの??


それどころじゃない。

あたしは玄関へもどり靴を履き地下駐機所へ駆けこむと、自転車で飛び出した。



出撃!!





「艦長、エンフェ筋よりですが、聞きますか?」


エンフェ?商人の互助会だっけ・・・


「ん。まわせ」


「・・・繋ぎました、どうぞ」


あたしはユニオン第176宇宙艦隊司令旗艦エンリケ型宇宙戦艦エンリケの艦長、ナミ・ナオミ・ヤムード少佐である。


宇宙植民都市ナンバーセブンの防衛艦隊旗艦として哨戒任務にあたっている。


僚艦は無し。


「こちらユニオン第百七十・・・わたしだ」


「ナミお姉さま?!なんかザイオン攻めてくるんだって!がんばって!!」


カイリー?切れた・・・なんだったのだ。


つーかなんで連邦宇宙軍の艦隊司令・・・つかまあ司令だよなうへへへ・・・に直電できんだよあいつ。

只の女子高生チューバーだろ。


くっ、ちょっと騒がれてるからっていい気になりおってからに・・・若いだけの若いだけの若いだけの若いだけの若いだけの若いだけの若いだけの若いだけの・・・


「おい!レーダーは・・・」


衝撃。艦内警報が鳴り響く。


「エンジン直撃!被害甚大、機関パージ不能・・・切り離せません!沈みます!」


え。

なんで初報が撃沈なのよ・・・


「総員退避!退艦せよ!敵は?!」


「退艦発令しました!敵は小さい・・・宇宙戦闘機、リーゼと思われます、三機!」


空母も無しで?

警戒空域に掛かりもせず??

おいおいおいおいおいおい、ニンジャ過ぎんだろ・・・


「おまえも退艦急げよ。火器管制を寄越せ」


「艦長、お供させてください」


見ると、オペレーター四人が全て、覚悟の極まった強い視線で見つめていた。


う~ん、男。

正直暑苦しいだけなんだが・・・


ため息。


「・・・配置に付け。機動砲台とAiデコイにて脱出を援護する、やれ」


「はっ」


クルーと私の配置は対面だ。


夫々の顔を見下ろし、思わずつぶやく。


「お前たちに、死に際を足掻く無様は見せたくなかった」



「艦長は美人であらせられますので」


「私は、いつかは今日のような状況に巡り合えると信じておりました」



まあ・・・男とは言え、愛い奴らよの。



「・・・フン、今際の際には、期待するがよい」



最後に女を見せるのもやぶさかではない。

わたしは脚を組んだ。

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