古い血の巫女

プリオケ爺

歌とギター

「とりあえず、ナミエは歌とギターね」


青髪の白人美少女がのたまう。

マジで肌白い。牛乳みたい。まさにミルキーフレッシュ!

んで視線を自分のウデへと落とす。


・・・黄坦でてんのか?


「え、マジで・・・」


人種差別談義は兎も角。


学園祭で地上の時代の定番出し物だったクレープ屋さんをやろうと集まったハズなんだけど・・・屋台借りるのにお金かかる、カネ使いたくない、あんたの家にはタカれない、とハナシはゴロゴロ貧乏の力学法則に従って転がってゆき、結局楽器だけで済むコピバンに落ち着いたのだった。


つむっていた目を開き、自分のウデを見る。

・・・うん、十分白いよ!


「あたしベース。弦四本しかないしすごく楽そう」


カイリーは調子のいいことを言っているが、あたしはベースの重さは遠慮したい派なので文句は言わなかった。


つーか、また目が白さに眩んでまう・・・


青髪の長身。

顔もそばかすが似合うテキサス系美少女つって何度もゲリラ配信されてるしデカくて長くて重いベースも似合うんじゃないかな。


テキサス、てのは植民宇宙都市8番の名前で、そこは馬や燃焼ガス兵器なんかが使われているファンタジーワールドになっている。


「じゃーあたしドラムかぁ。右足がバス、右手がハット、左手がスネア・・・だっけ?」


同類イエロー種族のユウ。

茶髪でちっさい。


「左足は?」


「クラッチ?」


くらっち・・・プロレスワザか?!


ユウはドラムやベースの存在を知っている数少ない人間だ。

フツーの人間に低音は聞こえないのだ。


バスドラなんてプツ・・・プツ・・・て聞こえるだけで、どこにバス的要素があんのかと・・・ベースはもう音自体わかんないし。


無くなれば「あ、なんか寂しい!」てなるけど。雰囲気楽器だよね。



・・・あ、ユウの頭はベリーショート・・・なんだけど自分で切ってるから野人ショートと言ったほうがしっくりくる。あたしと同じ黄人。


家のスタイリストのハヤシさんに気に入られてて(うらやましい)、いつもお茶を餌にアトリエに攫われてゆく度にめたくそ印象が変わってマジ美少女になるんだけど・・・部活が柔道部だからいつもタタミに擦り付けてゴワグシャに崩れてしまう。


柔道は凄い!

あたしは握力千二百キロ以上はあるし意味ないんじゃない?

て思ったんだけど、たぶん柔道の術理があればリーゼなんていう人型宇宙戦闘機だってコケさせることが出来る気がする。


やらないけど・・・やってみたい。


あーもーこの植民都市にテキのリーゼとか殴り込んでこないかなあ!


まー戦争中だしいくらでもその機会はある筈。


「じゃーあんたのギター買いに行くよ」


「あーい」「うーい」


カイリーに連れられ、学校のリニアカートで商店街へ向かう。


「えー、アレサタワーじゃないの?」


なぜ斜陽に黄昏れてゆくばかりの古臭いとこにいくのよ。


「あー、別に安モンじゃなくていーんだろ?」


「ナニ?親戚でも儲けさせたいの?」


「ま、そんなトコ」


レトロなペンキ塗りの大看板が掲げられた民家を改装した商店の駐機所で降りる。


「おっちゃーん!高いギター売って」


カイリーが古風な引き戸()を引き入ってく。

うーん、お金はどうでもいーんだけどさぁ・・・


「沢島楽器?アレサに入ってるトコのパクリ屋号か?」


ユウは微妙に失礼なことを言いながらカイリーに続いていく。

あたしも続き、引き戸を閉める。


うーん、楽器屋さんだ。

めたくそ楽器が並んでる。

弦が六本がギターで・・・ん?ベースコーナーにあんの6・・・8弦??ハープ?????


悩むあたしの背後からカイリーと店のオヤジの声が聞こえてくる。


「んー?エレ?アコ?」


「エレキ。こっちのオレンジの髪の女」


おっさんがあたしに向く。


「嬢ちゃん、弾けるのか?」


「え、ローコードじゃかじゃかするくらい」


「じゃあ、特に希望が無けりゃそこの100ドルのストラトから気に入った色選びな」


「ちょっとじーちゃん!」


「ありがとうー」


ズラ~~~って並んでるテンダー(筆者のプレベ)社のギターを視姦・・・え~見て味わいを想像すんのってなんてゆーの?語彙不能!


とにかく、淡色のバリエーションで分けられた中にから真っ白のモノを選び、片ヒザに乗せ構えて見る。


後ろでカイリーが高いのを売れといろいろまくし立てている。


「すいませんこの白いヤツください、あとそこの白いストラップ。ピックは・・・そこか。あとAの音叉」


Aじゃない音叉てあるのだろうか。


赤い小さめのピックを五枚取る。


「50万ドルのやつ買えよ!なあジジイあんだろ?!地味平が燃やしたとかつってるギターが!」


「おまえギターの神様みたいのが触った奴だぞ、そこらの女の子なんぞにベタベタ触らせて汚したくないわ!それに真偽だって全然たしかじゃねえ」


ペなぺなしたナイロンのケースに全部入れてもらい、背負う。


「あの、家で引き取ってもいいですよ?鑑定書なんかあります?」


まぁ、50万ドルじゃ偽物だよ。

でも鑑定書次第でパチモンの一つ、てレアリティが付くからモノによっては百倍程度にはなる。


「炭素分子とかそんな機械で測定した資料があるだけじゃ。貴族家族博物館他権威系統のモンは一枚も無いわい・・・残念じゃったの」


「あー・・・だとホンモノかもですね・・・できれば触らずに帰りたい・・・」


こんなとこで本物見つかったら戦争になるょ・・・対ザイオンで曲がりなりにも結束し危うく保っているユニオンて体面が一瞬で瓦解しかねない。


「じーちゃん、売らなくていいからこいつに触らしてよ。一分でいいからぁ」


「・・・まあ、ギターの信徒として神の御利益に与りたいという乙女心は無為には出来ぬか・・・ホレ」


めたくそテキトーに椅子の後ろの敷居に立てかけてあった、コゲたストラトを手渡してくる。



それかよ!


嫌だつってんのに~~~。


買ったギターを背負いつつ、ストラップを首に回し、下げる。


腰の骨の高さに合わせ、あ!レフティじゃん・・・まぁカンケー無いか。


右手()をネックに滑らせる。


濃いグリーンの目の黒人美少女が脳に滑り込んでくる。

胃の下から頭の天辺まで私の語彙力では神の息吹、としか形容できない細い風が通り抜けていった。


両手が楽器を奏でるように・・・て楽器じゃわなコレ。


精緻精妙な動作を終えると、まるで全てが幻だったかのように消えた。




いや、幻なんだけどさ~~~~・・・


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