三分以内にゲームを終わらせないと、遅刻
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
三分以内にセーブしないと、修学旅行に行けない
わたしには三分以内にやらなければならないことがあった。
よりによって、セーブ不可のエリアでレアを拾うなんて。
このアイテムは、ずっと欲しかった。
ここでセーブしておかないと、徹夜でゲームした意味がなくなる。
「アイナ~。遅刻するわよ~」
友人のリオが、朝食を持って部屋に入ってきた。
「こっちで食べる?」
「うん。ありがとリオ」
リオはかいがいしく、わたしの口にトーストを食わえさせてくれた。
「着替えは済んでるのね? でも、はやく出ないとバスが出ちゃうわよ」
今日は、中二の修学旅行だ。
わたしたちは、リュックと制服を用意しつつ、ゲームに励んでいた。
「うん。わかってるんだけどさあ。チョイ待って」
リオが、わたしの腰からパジャマの下をおろす。
バタバタしながら、わたしはされるがままに。
「まさか、ここに来て道に迷うとはーっ!」
このダンジョンの構造、わかりづらい。
左右対称過ぎて、どこがどこだかわからなくなる。
攻略ガチ勢からも嫌われているダンジョンだ。
その分、レアアイテム掘りには最適だというが、ちょっと帰り道が複雑すぎる。
「こういうことになるから、携帯機版を買えって言ったのに」
「据え置きじゃないと、このゲームは臨場感が出ないんだって」
「あんたの腕じゃなくて、ゲームの構造に問題ありなのよね~。カメラがキャラに寄りすぎなのよ~」
以前はリオも、このゲームをやっていた。
3D酔いがえげつなくなって、やめてしまったが。
「この辺だったような、気がするんだよなあ」
「まだ先じゃない?」
ダンジョンRPGには明るくないリオだが、空間把握だけは一日の長がある。
酔いやすいため、瞬間的に記憶してパパッと移動する手段を覚えたらしいが。
「よし、脱出!」
このダンジョンは、地上にさえ出たらセーブができる。
「ありがと! セーブできた!」
「いえーい。ほら、あと一分」
わたしの手を繋いで、リオがダッシュで玄関へ。
学校前に止まっているバスに乗り込んで、ギリギリセーフである。
「でさアイナ、携帯機持ってきた?」
リオが、隣の席から尋ねてきた。
「うわー! 忘れてた!」
着替えを入れる際に、出してしまったんだっけ。
「こんなこともあろうかと~。持ってきているのよ~」
携帯ゲーム機も、さっき遊んでいたゲームの携帯版も、リオのカバンには入っている。
リオが、画面を起動させる。
「最近ね。遊び直してるんだよね」
リオのプレイ画面を見て、わたしは蒼白になった。
「あーっ! もおーっ! マウント取ろうと思っていたのにーっ!」
まさかのリオが、わたしがさっき拾ったアイテムを持っているではないか。
三分以内にゲームを終わらせないと、遅刻 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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