第1話 生やすなら何耳で?
【まえがき】
7章開始です。よろしくお願いします。
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「うん、美味しいです」
寒さも厳しくなってきた12月。暖かいカフェの店内で大きなパフェを食べて笑みを浮かべるのは、着物と袴でハイカラさん風な小柄な美少女。
「こ、こっちも、美味しいですよ、悠ちゃん。た、食べてみてください」
「ありがとうございます茜さん。ひとつ貰いますね」
美少女ではなく男の娘の悠ちゃんだった。『世界冒険者月間』で私と一緒のパーティーを組んでいた悠ちゃんは、パッと見では美少女に見えなくもない。骨格も中性的で、良く見ないと男とは分からない。
「しおりさん、最近忙しいんですか?」
「そうなんですよ愛理ちゃん。ダンジョンに入る以外の雑務が結構多くって。冒険者協会の所属パーティーになれたのは良いんですけどね」
ちょっとお疲れ気味なのは、眼鏡っ娘のしおりちゃん。『世界冒険者月間』後も悠ちゃんたちとパーティーを組んでいる。
最近では、関東局が推し進める強化パーティーに選ばれて、試練型ダンジョンでの訓練に大忙しだ。その忙しい原因は、私たちマヨヒガの行動の結果なので、ちょっと責任を感じたり。
「理恵さんは、私たちよりもよほど忙しいみたいね。この前会ったときにケモミミを触らせてもらったんだけど、本物の手触りは違うわよ。明さんも会ったら触らせてもらうといいわ」
カフェに来ている最後の1人は、有希ちゃん。悠ちゃんと双子なのに長身ですらっとした美少女だ。
今日は、しおりちゃんたちパーティーと遊びにきている。
「強化パーティーってどんなことをするんですか?」
「そうですね。基本的には他の冒険者と変わりませんが、最新の情報を色々と共有してもらえますね」
「守秘義務もあるのよ。だから詳しくは話せないの」
「そうなんですねー」
その最新の情報とやらの出所がウチなので、愛理ちゃんがちょっと棒読みになってる。
「理恵さんは試練型ダンジョンでケモミミが生えたそうです。僕たちにもケモミミが生えるかもしれませんよ」
君枝ちゃんと理恵さんが試練型ダンジョンでケモミミを生やした、というのは、冒険者協会が公開したので、秘密の情報というわけではない。
ただ、どうやって?、の部分は検証中ということで秘密にしてある。実際、検証中というのも本当だし、いつ?どうやって?公開するかについて方針が定まっていないというのもある。
「3人にケモミミが生えるとしたら、何の耳が生えるとおもいますか!」
「ゆ、悠ちゃんには、可愛い耳が似合うと思う。ね、猫とかっ」
私も興味がある。
今のところ、君枝ちゃんがウサギ、理恵さんがタヌキだ。この2種類だけ、というのは考えづらいし、明日香さんのように角が生えるパターンがあるかもしれない。
「僕はやっぱり狐耳が良いですね」
「あら。玉藻さんとお揃いね」
「いやっ、そういうわけじゃ!」
ふっふっふ。悠ちゃんは玉藻の前の尻尾にもメロメロだったから、狐推しなんだろう。これは1ポイント先取してしまったかな。
「しおりさんは犬が似合うと思います! 犬はリーダーシップがありますからね!」
「犬は好きですよ。垂れ耳が可愛いですよね」
ほう、垂れ耳か。愛理ちゃんの犬耳はピンと立った三角形だから、系統が少し違う。これは1ポイントになるか微妙なところだね。
「私はトラがいいわ。力が強くてさらに可愛いの。縞々の長い尻尾も良いわね」
「トラ……、だいたい猫?」
こっちもポイントになるか微妙だ。やはり狐が優勢。狐の優位性を示してしまったかな。
「愛理ちゃんは犬っぽいから、犬耳が良いわね」
「え!? 私って犬っぽいですか?」
「元気なところなんて犬にそっくりよ」
「えへへ、そうですか?」
まさか自分を対象にポイントを稼ぐとは。なかなかやるね愛理ちゃん。
「わ、私は、何耳ですか、にゃ?」
あざとい。あざといよ茜ちゃん。猫語を使ってまでポイントを取りに行くとは。
「茜ちゃんは猫耳ですね」
「そ、そうですよね! 悠ちゃんっ!」
空気を読んだ悠ちゃんによって、茜ちゃんも1ポイント。これで全員が1ポイントでイーブンになった。
最後は私で決まる。私に似合う耳といったら狐しかないので、勝ったな風呂入ってくる状態だ。
「明さんは……」
「明さんはこれしかないわね」
「僕もそう思います」
皆の視線が私に集まって――、
「リスですね」「リスね」「リスです」
「ん? 聞き間違いかな?」
「リス!」
「あ、明さんに、リス……」
おかしいな。私と言ったら狐、狐と言ったら私、くらいにお似合いのはずなのに。
「ご飯を食べる仕草がリスみたいに見えるんですよね」
「そうね。あと大きな尻尾が似合いそうよね」
「戦闘中もすごい動き回るのでリスっぽいです」
なんてこった。最後にポイントを逃して、引き分けになってしまった。いやポイントとか意味わかんないことはどうでも良くって、私がリスと思われている方が問題だ。私は狐だ。
「でも、お稲荷さんが好きなところとか狐っぽいでしょ?」
「それはそうなんですけど、玉藻さんのイメージが強すぎて、明さんに狐耳が生えている様子が想像しにくいんですよね」
「明さんがもっと成長したら狐耳も似合うかもね」
まさか玉藻の前ロールプレイの弊害がこんなところにあったなんて。
「僕は狐耳も似合うと思いますよ?」
慰めはいらないよ悠ちゃん。目が泳ぎまくっているのが良く分かるよ。
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