第24話 魔力なら情報で

 こうして依頼での試練型ダンジョン1日目は無事終了した。


 振り返ってみると、〈呪符〉は取得できなかったものの、茉莉さんは〈簡易鑑定〉を、君枝ちゃんは〈黒の剣士〉を取得できたので、順調と言っていいだろう。


〈黒の剣士〉がちょっとどころじゃないくらい変なスキルなのは、一旦忘れることにする。それに頭を悩ませるのは冒険者協会の人たちの役目だ。


 ダンジョンから出る際は、愛理ちゃんの〈水魔法〉で姿を消して、君枝ちゃんたちが囲まれている間に脱出した。残りの2日間もこっそり出入りしよう。


「迎えをありがとう、ミズチ」


「帰りはゆっくり飛ぶから、心配しないでちょうだい」


 明日香さんの龍タクシーで日帰り。茉莉さんのレベルが上がって、多少は余裕ができているはずだけど、安全運転でお願いします。



 依頼2日目。


 マヨヒガが来るということは知れ渡っていたため、君枝ちゃんたちを含めて全員を愛理ちゃんに隠してもらい、こっそりと試練型ダンジョンへ入った。


 初日と比較して、人の囲いが何倍にもなっていた。すごいマヨヒガ人気で、愛理ちゃんの口元がニヨニヨしている。誰の目もなければ、あのマヨヒガ鼻歌が出てきそうなくらいのニヨニヨ具合だ。


「今日はどんなお願いをするにゃ?」


「局長の〈呪符〉スキル習得に1回、あとは新たに得た〈物品鑑定〉と〈黒の剣士〉の訓練に2回ずつの予定です」


「無難なことろっスね。他のスキルの習得は狙わないんスか?」


「あまり増やすとその分仕事が……」


 あっ……。


「いまさらだにゃ」


「そうですよね」


 がっくりと肩を落とす茉莉さん。


「書類は全部、理恵の机に置いてきた」


 そう言って笑う君枝ちゃんだけど、それは問題の先送りにしかならないんじゃないかな。


「まあ良い。まずは課題を熟すとしよう」


「そうだね。良いかい茉莉。明日できることは明日やる。これが生き残るコツさ」


『呪符を100枚複写する』


 2回目の〈呪符〉を習得するための課題は、またしても呪符の複写だった。これはもう〈呪符〉を得るためにはお習字が必須ということで良いね。


 逆に言えば、ちゃんとしたお手本を見ながら練習をすれば、誰でも〈呪符〉スキルを得られるということ。事前に呪符を用意できる〈呪符(物理)〉があれば、ダンジョンの攻略が少し安全になるだろう。


 しかし、簡単に習得できて事前に用意できるということは良いことのように思えるが、問題もある。一番の問題は、『偽物の呪符』だ。


「日本ではウチが目を光らせてるから問題ないけど、他国ではひどい所もあるよ。偽物のポーションに偽物のマジックアイテム、偽物のDギアなんてのもあるくらいさ」


 偽物との戦いは、いたちごっこになりがちだ。


「〈物品鑑定〉スキルが広がれば、その状況にも一石を投じられそうです」


「そうしたら、今度は偽物の〈物品鑑定〉持ちが出てくるよ」


 誰が何のスキルを持っているかは自己申告によるので、君枝ちゃんが言うように〈物品鑑定〉を持っていると嘘をつく人はいるだろう。いたちごっことはこういうことだ。


 話をしながらも、君枝ちゃんの手は動き続け、ついでに〈黒の剣士〉で召喚した剣士にもお習字をさせたりしつつも複写は終了した。


「ダメだね。〈呪符〉はとれてないよ。もしかしたら、〈呪符〉は生産系スキルの扱いなのかもね。私は生産系スキルにはとんと縁がないようだから」


 それは考えたことなかったな。どうしても私の転生特典スキルとしての〈呪符〉のイメージが強かったので、魔法スキルの一種という考えしかなかった。


「それにゃら、君枝ちゃんよりも茉莉の方が良いにゃ?」


「そうですね。今回は予定通りに進めるとして、今後は生産職に〈呪符〉の習得を追加しましょう」


 またお仕事増えたね。


「関西局の方にも試練型ダンジョンがあっただろう。〈呪符〉はあっちにまかせたらどうだい?」


「それは良いですね。ついでに他局でも生産課の設立を提案してください。局長にしかできませんから」


 おっと。茉莉さんが躱して君枝ちゃんのお仕事が増えた。いらんこと言ってしまったという顔で、君枝ちゃんが後悔している。


「ま、まあ良いさ。明日できることは明日やろう」


 その後は〈物品鑑定〉と〈黒の剣士〉のスキルの練習を交互に2セットやって、お願いは終了。スキルレベルは上がらなかったけど、〈物品鑑定〉については新しい考えを得た。


「魔力を読み取って鑑定している、っスか」


「はい。ダンジョン産のアイテムを鑑定できる〈物品鑑定〉ですが、ダンジョン産のものとそうでないものとの一番の違いは、魔力の有無です」


 生産系スキルの取得のときも課題になった点だ。


 ちなみに愛理ちゃんの転生特典スキルである〈鑑定〉は、そんなものなんて関係なく、目に見えるものなら何の情報でも見れる。


「魔力が具体的にどういうものなのかは分かっていませんが、〈ステータス〉のことを考えると何らかの情報を保持していてもおかしくありません」


「ふむ。なるほどの。生物でいう遺伝情報のようなものか」


「はい。〈物品鑑定〉はアイテムの魔力、遺伝情報を読み取って表示しているのではないでしょうか」


「面白い考察っスね。それならダンジョン産のアイテムだけしか鑑定できない理由になるっス」


「もう1つ、人の鑑定ができない点は、遺伝情報を読み取るコード、それがアイテムと人では違うのではないでしょうか」



――――――――――――――――――――

【あとがき】

 マヨヒガ鼻歌(愛理ちゃん作)


 マヨヒガ~♪ マヨヒガ~♪ マヨっ、マヨっ、マっヨヒガ~♪

 不っ思議なケモミミ、マヨヒガ~♪ 艶々毛並みの、マヨヒガ~♪

 ふんふんふふーん、マヨヒガ~♪

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