第23話 現れたのは剣士で
「そうっスね。君枝ちゃんの中に魔力が溜まってる感じっス」
そうそう。さっきまではなかったのにね。
「たぶん新しいスキルの効果だね。ちょっと使ってみるかい」
「新しいスキルにゃ? 見てみたいにゃ!」
「ほう。どんなスキルなのじゃ?」
「スキル名は〈黒の剣士〉だね」
剣士? 剣じゃなくて剣士なの?
「こんな風に、剣士を呼び出せるスキルだよ」
現れたのは、姿形は君枝ちゃんにそっくりな、けれど全身が真っ黒な人型の剣士。
これってさっきまで戦ってたドッペルゲンガーじゃない?
「自由に操れるようだけど、自分の体を2つ動かす感じだから、慣れないと難しいね」
君枝ちゃん本人が袈裟切りしながら、黒の剣士には逆袈裟切りをさせる。確かに剣士の方の剣のキレが悪い。本人を10としたら、7か8くらい。
単純な素振りでこれなので、戦闘中に使うとなるともっと下がるだろう。
「あと消費が重たいね」
現れてから1分ほどで、剣士は消えていった。これで君枝ちゃんのMPの約半分を消費する。これだと実用面で問題がありすぎるね。
「使えるとしたら、こんな感じかい?」
もう一度袈裟切りを放った君枝ちゃんに重なるように剣士の腕が現れ、君枝ちゃんと同じように袈裟切りを放った後に消えていった。
「これならそれほど消費も気にならないね」
「これって手が4本あるのと同じってことっスよね。便利そうっス!」
「4刀流ができるにゃ!」
「同じ太刀筋を真似るのは簡単だけど、別の攻撃をさせるのはこれでも難しいね。この依頼中に練習しないとね」
試練型ダンジョンさんなら、良い感じの課題を出してくれるだろう。存分にレベル上げをしてください。
「スキルについては分かった。じゃが、君枝ちゃんの中の魔力は、まだ溜まったままの感があるのう」
「そうっスか? うーん、君枝ちゃんは何か違和感とかないんスか?」
「違和感かい? 少し調子が良い気がするけど、他に変わった感じはないねえ」
なんとなく変な感じがしてたんだけど、ちょっと神経質になり過ぎたかな?
魔力を感知する〈魔力感知〉スキルのレベルは愛理ちゃんの方が高いし、もし何か変化があったら〈鑑定〉を使う手も残っている。あまり気にし過ぎないようにしよう。
「ふむ。それならば良いか。さっ、次の課題に行こうかの」
次のお願いは、さすがにレベル3は低すぎるという理由から、茉莉さんのレベル上げになった。
〈呪符〉とエンチャントでバフをして、レベル上げに最も適したモンスターをひたすら殴り続ける。終わった頃にはレベルが10になり、代わりに茉莉さんの目に感情がなくなった。
レベルが上がったことでMPも増えて、これでいっぱい〈調合〉が使えるね。
最後のお願いは、最初から決めていて、ダンジョンキッチンでのバフ食材の調達だ。いまだに誰も〈料理〉スキルは取得できていないので、〈料理〉スキルは無いんじゃないかと思ってる。
「これがダンジョンキッチンですか。〈物品鑑定〉を使ってみます」
事前にスキルを取得できていたので、ここぞとばかりに茉莉さんがスキルを使いまくっている。ついでにレポートにまとめまくっている。
「へえ。いろいろな器具があるんだね。食材は冷蔵庫っぽい箱に入っていると。これは法律を作る側も頭が痛いだろうね」
君枝ちゃんが意地悪そうに笑っているが、その法律を作るが側にいる筆頭があなたじゃないの? 全部丸投げするつもりなの? これは山根ちゃんの仕事が増えるフラグか。
茉莉さんと、くっついていってる愛理ちゃんが鑑定祭りをしている間に、私と茜ちゃんでご飯を作る。バフ食材でバフ料理が作れるという実演だね。
君枝ちゃんは監視役。理由は言わずとも分かるね?
「いっぱい食材を使う方が、効果が高いにゃ」
「肉を焼くだけじゃダメってことかい。私には難しいねぇ……」
せめてそこに野菜も入れて、肉野菜炒めにできればマシになるんだけどね。
「一通り鑑定できました。お手伝いしますね」
料理をしているところへ茉莉さんが戻ってきた。茉莉さんは普段から料理をしているらしく、しっかりと戦力になった。
献立は、白米、豆腐とわかめのお味噌汁、サバの味噌煮、切り干し大根の煮物、そしてお稲荷さんだ。お稲荷さんは、切り干し大根の煮物に入れた油揚げが余ったので、急遽作製が決まった。他意はない。
「鑑定させてもらいますね。はい、確かにバフ効果のある料理になっています」
まだ安全性を確認できるまではスキルが育っていないので、バフ効果があるかどうかの確認だけだ。これでバフ素材があれば、バフ料理ができることが確かめられた。
「うん。どれも美味しいね。毎日でも食べたいよ」
それをバクバク食べる君枝ちゃん。一応鑑定するのを待つくらいの配慮はあったんだけど、鑑定する端からかなりの勢いで食べ始めた。
ドッペルゲンガーとの戦いでお腹が減ってたのかな。
こっそりと自分の分のお稲荷さんを確保した。
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