第22話 成長するなら自分相手で

「おらぁ!」


 君枝ちゃんとドッペルゲンガーとの戦闘は、時間が経つごとに一層激しさを増している。


 どうやら君枝ちゃんは魔法スキルも使えるようで、〈属性魔法【光】〉で剣をピカピカ光らせている。正直言ってすっごくかっこいい。これが〈属性魔法【光】〉のプロモーションなら大成功だ。


 隣で一緒に観戦している茜ちゃんが、雷で剣をピカピカさせているので、やっぱり大成功だ。


 対するドッペルゲンガーは、剣が漆黒に染まっている。【光】なのにどうして?と疑問に思ったが、光を吸い込むのも【光】というわけだ。君枝ちゃんのピカピカを吸い取って反撃に利用している。


 同じ能力を持っているのに、戦い方が異なるのは見ていて面白いね。


 君枝ちゃんは超攻撃的で、ドッペルゲンガーは守備的。きっと君枝ちゃんも守備的に立ち回ることはできるんだろうけど、そんなことしてるんなら攻撃した方が早い、とか思ってそう。


「ぶっとべ!」


 下からのかち上げで、空中にいる私たちの高さまでドッペルゲンガーが吹っ飛んできた。それを追いかけて、君枝ちゃんも飛び上がる。


 光の帯を跡に残し、天に昇る流星と、それを迎え撃つは漆黒のブラックホール。


「しゃおらぁっ!」


 裂帛(れっぱく)の気合でもってブラックホールを切り裂き、光の奔流が突き抜けた。


「もう訳が分かりません……」


 茉莉さんのつぶやきは無理もない。君枝ちゃんは、突き抜けた勢いのまま弧を描き、さらにブラックホールを蹂躙している。


 人間って空を飛べるんだね。


「すごいっスね~」


 私も正直ここまで君枝ちゃんが常識外れの力を持っているとは思っていなかった。私たちの戦闘力に、結構良いところまで近づいているんじゃないだろうか。上回ってるとは言わないよ。


 何度かブラックホールに突撃した後、2人とも地上へ降りていった。


 攻撃していたはずの君枝ちゃんの方が膝をつき、攻撃されていたはずのドッペルゲンガーが涼しい顔をして立っている。


「はぁ、はぁ、これも吸収したってわけかい……」


 静かにたたずむドッペルゲンガーはそれに答えず、にわかに動き出した。


「ちっ……!」


 漆黒の剣を突き出して、地上を駆ける。今度はドッペルゲンガーが攻め、君枝ちゃんが守る番だ。


「黒い稲妻……、ありだにゃ」


 茜ちゃんが何らかの影響を受けている。黒い稲妻か……、ありだね。


 縦横無尽に地を駆けるドッペルゲンガーではあるが、速度がある分、その動きは単調で直線的だ。それ故に、君枝ちゃんは何とか避けれてはいる。


「じり貧だね」


 避けれてはいるがそれだけだ。空中戦で体力と魔力を使ってしまった君枝ちゃんは、劣勢に追い込まれている。


「にゃ! 君枝ちゃんが攻撃を食らったにゃ!」


 ドッペルゲンガーの攻撃で君枝ちゃんが吹っ飛んだ。ついに避けきれなくなったのか、いや違う。


「ふむ。あれはドッペルゲンガーと同じように、攻撃を吸収しようとしているようじゃ。ドッペルゲンガーができておる、君枝ちゃんにもできるじゃろう」


「今、この瞬間にできるようになるしかないってことっスね!」


「頑張るにゃ! 君枝ちゃん!」


 攻撃を食らうたびに、吹っ飛ばされる距離が短くなっている。あとはHPが尽きる前に、攻撃を吸収できるようになれるかどうか。その戦いだ。


「にゃ! 止まったにゃ!」


 何度も吹き飛ばされ、その度に立ち上がった君枝ちゃんが、ついに成功させた。


 剣をぶつけ合い、激しくつばぜり合いをする2人は、剣の色も同じで、まさに鏡合わせのように瓜二つだ。


「はは、こうか? おらっ!」


 何かコツをつかんだ君枝ちゃんの剣術は、硬さの中に柔らかさが追加されて、ドッペルゲンガーを圧倒している。


 剣に纏う漆黒も、さらに黒さを増して、逆にドッペルゲンガーの剣はただの剣に戻りつつある。


「あれはドッペルゲンガーの魔法も吸収してるっス。綱引きみたいなものっスね」


 愛理ちゃんが言うには、そういうことらしい。空中戦では、その綱引きに負けて君枝ちゃんだけが消耗してしまった。今はそれを巻き返して、君枝ちゃんが優位に立てている。


「このままやっちゃうにゃ!」


「良く分かりませんが、頑張ってください局長!」


 茜ちゃんと茉莉さんの応援を受けてか、君枝ちゃんの動きがより一層洗練されていく。驚くべき成長速度だ。漆黒の剣を使いこなしている。


「もうあの魔法は君枝ちゃんのものっス。これは勝ったっスね」


「これで、終わりだよ!」


 愛理ちゃんのフラグのような発言もあったが、漆黒の剣の周りをピカピカさせた必殺の剣で、君枝ちゃんがドッペルゲンガーを下した。


「やったにゃ!」


 茜ちゃんがいち早く君枝ちゃんのところへ飛んでいく。私たちも行こう。


「黒い稲妻にゃ!」


 さすがに疲れたのか、君枝ちゃんが座り込み、その前で茜ちゃんがドッペルゲンガーからパク……、インスパイアされた黒い稲妻を実演していた。習得が早い。


「お疲れ様じゃの」


「ありがとうね、玉藻ちゃん。少し疲れたけど、成長できたと思うよ」


 うんうん。細かい成長は愛理ちゃんに確認するとして、その変な魔力は何かな?

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