第21話 スキルレベルなら限界突破で

「あっ、〈物品鑑定〉スキルを取れました」


 じっくり時間をかけて素材アイテムのレポートを作成し、課題をクリアした茉莉さんが、思わずといった感じでつぶやいた。


 あまりに時間をかけるものだから、君枝ちゃんはお習字の練習を切り上げ、茜ちゃんと組手をしだしたほどだ。


「1回で取れたっスか? すごいっス!」


「事前に生産系スキルで使う素材アイテムについて勉強しておいた効果でしょうか。とにかく無事スキルが取れることが確認できました。ありがとうございます」


「君枝ちゃんも頑張るにゃ!」


「耳が痛いねえ」


〈物品鑑定1〉を取得した茉莉さんは、早速先ほどレポートを仕上げたアイテムを鑑定してまわっている。ついでに、鑑定で得た情報を追記して、レポートの完成度を高めることも忘れていない。


 このレポートは、後に続く人の役に立つこと間違いなしだろう。


「お願いはまだ3回あるにゃ。また君枝ちゃんが呪符をお願いするにゃ?」


 1日にパーティー人数までお願いができるが、お願いの回数を残して1日を終えると、残ったお願い回数は消滅してしまう。なので、できるだけ5回すべてを使い切った方が良い。


「習字ばかりで肩がこったから、ちょっと体を動かすような課題が良いね」


 さっきまで、茜ちゃんと一緒にあれだけ動いていたのに、まだ動き足りないのか。君枝ちゃんって、関東局の局長としてちゃんとお仕事できてるのかな? 大人しく机に向かって事務仕事している姿が全然想像できない。


「〈格闘術〉にゃ?」


「いや、私のメインはこっちさ」


 君枝ちゃんがマジックバッグから取り出したのは、片手剣と盾。『ダンジョンコラプス』のときにも見た装備だ。


「ずいぶん前に〈剣術10〉になったんだけど、スキルレベル10のその先に成長できたら、面白いと思わないかい?」


 それは……、すごく面白いと思います! 良い。限界突破とかロマンだ。君枝ちゃんは良く分かってる。


「へー、君枝ちゃんって〈剣術10〉だったんスね。すごいっス!」


「でも、もう10なのにさらに上がるにゃ?」


「試練型ダンジョンならなんとかならないかい?」


「検証したことはないのう。じゃが、面白い試みじゃ」


「ならちょうど良いね。これは立派な検証さ」


「まったく局長は。思いつきで行動するんだから。あとで理恵さんにも報告しておかないと……」


 ううむ。茉莉さんのつぶやきに苦労がにじみ出ている。


「料理のバフも切れておるじゃろ。課題に挑む前に、おやつでバフをかけておこうかの」


 バフ料理は便利だけど、バフの効果時間は1時間くらい。ダンジョン内で常にバフの効果を得ようと思ったら、常に何かを食べていなければならず、ちょっと現実的ではない。


 今日のおやつは、にんじんクッキーだ。効果は、ゲーム的に言えば、器用さと敏捷性の増加。DEXとAGIとも言う。


「ありがとうね、玉藻ちゃん。とっても美味しかったよ。さて、課題といこうかね」


『ボスモンスター1体の討伐』


 シンプルだ。フィールドもシンプルで、直径100メートルほどの円形闘技場になっている。


「相手は、人間にゃ?」


「こいつはドッペルゲンガーだね」


 人型の立体的な影、みたいなモンスターだ。ダンジョンで出会った場合は、パーティーメンバーにそっくりな姿になるため、同士討ちの危険がある。


 そっくりなのは見た目だけで、しゃべることもできないし、強さもそれほどでもないので、冷静に対処すれば危険はない。


「こいつはイレギュラーっスよ! 挑んでくるパーティー『全員』をそっくりそのままコピーしてくるっス!」


「はは。つまりは、この戦いの中で自分より強くなれってことかい。……面白い」


 これ下手に私たちマヨヒガが参加すると、相手がバグレベルに強くなったりしない? 愛理ちゃんの偽物に、『大水獄【滅】』!とかやられたくないよ?


 とりあえず、君枝ちゃん1人を残して、私たちは上空で観戦することにする。茉莉さんを放置しておいたら、危ない。


「始まるにゃ」


 闘技場の中央で向かい合った君枝ちゃんとドッペルゲンガー。ドッペルゲンガーは瞬く間に姿を変えて、君枝ちゃんそっくりになった。ただし、無表情なのですぐに分かる。本物はすっごい笑顔を浮かべている。


「あ、剣圧を飛ばして、相殺っス」


 剣圧って飛ぶんだね。知らなかった。お前も〈鉄扇術〉で風を飛ばしてるって? あれは扇だから。扇は風を飛ばすためのものでしょ。


「何をやっているのか全く分かりません」


 茉莉さんは君枝ちゃんの動きに目がついていってない。激しく移動しながら戦闘を続ける君枝ちゃんたちは、バトル漫画でもそうそうお目にかかれないほどの熱戦を繰り広げている。


 剣を打ち合い、盾で防ぎ、頭突きをかます。頭突き? 見間違いじゃなかった。この課題は、一応〈剣術〉の課題なんだから、頭突きはまずいでしょ。〈頭突き〉スキルを習得しちゃうよ。


 さらにテンションが上がってきたのか、時折君枝ちゃんの笑い声が聞こえてくる。楽しそうで良いと思います。

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