第20話 草なら草で

「ほう、これがバフ料理というやつかい」


「私が作ったにゃ!」


「え!? 猫神様が作ったのですか?」


「そうにゃ! 玉藻さんと一緒に作ったにゃ!」


「玉藻様もですか!?」


「2人とも料理上手っスよ」


「そ、そうなんですか……」


 そんなに料理するのは意外かな。強くてミステリアスな玉藻の前に家庭的な一面が、というギャップにやられたのかも。


 ちなみにメニューは、ゲン担ぎということでカツ丼だ。


「力が湧いてくるようだね」


 1口食べた君枝ちゃんがつぶやいたが、1人前をしっかり食べないとバフ効果は出ない。だからそれは、単にカツ丼が美味しくて元気が出たってだけ。


「美味しいです!」


 茉莉さんは素直に喜んでいる。


 ぺろりと1人前分を食べきって、おかわりもしてしっかりとバフ効果が出た。私たちマヨヒガと君枝ちゃんたち普通の人とでバフ効果に違いはなく、バフ食材があれば冒険者にも使えることが確認できた。


「バフ食材が問題だね。レポートだと、ここで手に入るのは1週間に1度だけだったね。それだけじゃ全国に分けるのは難しいか」


「販売するとなると、食品衛生法の問題などもあります。安全性をどう担保したら良いものか」


「〈物品鑑定〉があれば多少話は進みやすくなるだろうけど、その〈物品鑑定〉自体の検証もあるからねえ」


 試練型ダンジョンでのバフ食材の入手――つまりキッチンへ行けるのは、1週間に1回という制限がある。そこで得られる食材の量は、だいたい50食分。5人パーティーだとすると、各10食分だ。


 さらには、茉莉さんが言ったように安全性の問題もある。個人で使用する分には自己責任だが、販売するとなると、法律に則った扱いが必要になる。


 現在の法律では、1つ1つ個別に安全性を調査してから販売することになっており、生鮮食品でそんなことをやってしまえば、すぐに食品がダメになってしまうし、大量の食品を扱うことなんてできない。


「〈物品鑑定〉も合わせて法律を整えないと無理だね。また仕事が増えるよ」


「もっと職員を増やしてください!」



 食休みを終えて、かなり重要な役割を占める〈物品鑑定〉の取得に茉莉さんが挑む。


「お願いをすれば良いんですね」


「そうっス。戦闘系をお願いしたらダメっスよ。非戦闘系っスよ」


「そう言われると邪念が……。よし、いきます」


 頭を激しく振って邪念を振り払った茉莉さんが〈ダンジョンポータル〉へ触れた。


『素材アイテムの特徴をレポートにまとめる』


 なんか大学の課題みたいなのが出た。


「大学を思い出します」


 茉莉さんも同じ感想を持ったようだ。マヨヒガの中では私だけが大学経験があるので、この感覚が分かるのは私だけ。手書き限定、ボールペン、誤字、うっ頭が。


 ダンジョンさんは寛容なようで、どこから調達したのかパソコンが設置されていた。中にはどこか見覚えのあるような文書作成ソフトもインストールされている。キッチンもあったし、今更か。


 ついでにカメラも用意されているので、これで写真を撮ってレポートに使えということだろうか。


「ずいぶんと、その……、都合が良いですね」


「そうだねえ。でも考えたってしょうがない。便利に使える物は便利に使えばいいのさ」


「うむ。君枝ちゃんの言う通りじゃ。今後、冒険者ギルドで同じことをする場合、人を連れてくるだけで良いのだから、簡単じゃな」


「そうですね。真神様、ご教授お願いします」


「任せるっス!」


 講義、もとい、課題が始まった。用意されていた素材アイテムは、草が5種類、骨が3種類?、爪っぽいのがいっぱい、良く分かんないのがたくさん。これは大変そうだ。


 技能がスキルになるとしたら、鑑定系は知識がスキルになる。この課題は、その知識を得るというのが目的なんだな。


 いつの間にか愛理ちゃんが眼鏡をかけていた。先生=眼鏡、というのがマヨヒガの暗黙の了解になっていそうだ。明日香さんもかけていたし、私も玉藻先生のときはかけていた。だって好きだもん。


「にゃ、また曲がってるにゃ。そこはこうにゃ」


「こうかい?」


「そうにゃ!」


 レポート作成の間、君枝ちゃんはお習字の練習。水で書ける紙というものがあって、それを使って練習している。乾かせば何度も使えるすぐれものだ。


 暇になった私は、茉莉ちゃんと一緒に知識をため込んでいる。ワンチャンここで〈物品鑑定〉が取れないだろうか。1度のお願いで何人もスキルを得られるとしたら、効率化にもつながる。


「まずは葉っぱを見るっス。形、葉脈、色、茎からの生え方、いろいろと違いがあるっスよ」


「地球の植物と似た物もありますね。鑑定スキルがなければ、間違ってしまいそうです」


「キムンカムイちゃんは収れん進化だって言ってたっス」


「ダンジョンが歩んできた時間についても興味が尽きませんが、今はこちらに集中しましょう。茎にも特徴があります」


 だめだ、全く覚えられる気がしない。草は草だ。


 というわけで、お習字をしている君枝ちゃんの方へ行くことにした。こっちはパッと見ただけでどんな効果の呪符か分かる。生産スキルを覚えたときのような、得手不得手があるんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る