第18話 試練型ダンジョンに行くなら依頼で
「試練型ダンジョンに職員を連れて行って欲しい、ですか?」
「うん。山根ちゃんから連絡があったみたい」
試練型ダンジョンに初めて入ってから3週間がたっている。その間、情報をまとめたレポートを山根ちゃん経由で冒険者協会へ提出してある。
『お願い』によって課題を調整し、スキルを習得することの有用性を分からない冒険者協会ではない。
レポートを提出してから早々に、スキルを習得するために職員を連れて試練型ダンジョンに入ってくれないかとの依頼がきた。
「戦闘職が1人、生産職が1人の計2人です。思ったより早く依頼が来ましたね」
彩華ちゃんが言うように、いつかはそういった依頼がくるとは予想していたが、レポートを出してから3日という早さでくるとは予想してなかった。
「それだけ期待しているということかしら」
「すごく忙しいはずなのに、冒険者協会の人っていつ休んでいるんですかね?」
「少し悪いことをしたわね」
最近の冒険者協会は本当に忙しそう。だいたいの原因が『マヨヒガ』にあるという正論は聞こえない。さらに明日香さんの策略によって、〈調合〉スキルを使った美容品の開発まで始まってしまった。
人魚の伝説を知っているだろうか。いつまでも美しい人魚は、不老長寿の象徴となり、いつしかその肉を食べると長生きできると考えられるようになった。
明日香さんは、この人魚が、私たち獣人に置き換わることを危惧した。本人は言わないけどね。
そこで目を付けたのが魔力だ。
魔力には、相当高レベルにならないと実感できないだけで、実際に全盛期の肉体を保つ効果がある。これを利用して美容品を作れば、お肌の状態を改善するくらいはできるだろう。
そうして雑談を装って山根ちゃんに情報を流し、不老長寿の矛先を私たちではなく魔力に向けさせたというわけ。
「ボクは受けてもいいと思いますけど、どうしますか?」
「私も良いと思う。皆は?」
「わ、私も、良いです」
「もちろんですよ!」
「決まりね。それじゃあ、お留守番になる2人を決めましょうか」
「「!?」」
試練型ダンジョンの課題はパーティーに対して行われる。そしてパーティーの人数は最大5人だ。もしかしたら5人以上でも大丈夫かもしれないが、私たちは5人しかいないので、検証できていない。
したがって、2人の協会職員が加わるなら、2人はお留守番になるのは自明の理だ。
「ボクはお留守番で良いですよ」
さすがマヨヒガの姉、彩華ちゃん。すぐさま辞退を申し出た。
「ふふ、意地悪だったわね。私は移動の足になるだけにするから、愛理ちゃんと茜ちゃんがダンジョンに入るといいわ」
「あ、ありがとうございますっ」
「彩華ちゃんも明日香さんもありがとうございます! 次があれば交代しますね!」
というわけで、私、愛理ちゃん、茜ちゃんの参加が決まった。
◇ ◇ ◇
数日が経って、依頼の日になった。依頼を受けると決めてから、今日までの間に同行者の情報はもらっているが、顔を合わせるのは初めてだ。少なくとも1名は。
「よろしくお願いするよ」
「よろしくっス、君枝ちゃん!」
「よろしくにゃ!」
何を隠そう、戦闘職の同行者とは、関東局の局長である長谷川君枝ちゃんだ。
「今はいろいろと忙しいからね。一番手が空いてるのが私だったってわけだよ」
決して私利私欲ではないと君枝ちゃんは主張しているが、隣に座っている山根ちゃんの顔は渋い。たぶん嘘ではないが本当でもないんだろうな。
「うむ。よろしく頼むぞ、君枝ちゃん。して、もう1名はその方か?」
「はい、紹介します。生産課生産主任の山根茉莉(やまね まり)です。私の妹でもあります」
「初めまして、マヨヒガの皆さん。生産課生産主任の山根茉莉です」
「ほう」
情報を見てはいたが、本当に兄妹なんだね。顔立ちもどことなく似ている。一瞬だけ縁故採用という考えが頭に浮かんだ。
「茉莉は優秀なんだけど、課長が兄だろう? いろいろと状況がやっかいでね。実績としてちょうど良いと思ったのさ」
ああ、やっぱりそういった邪推はされているみたい。茉莉さん自身は不満そうだ。私としては、冒険者協会内の政治に関わるつもりはない。ちゃんと仕事をしてくれるならね。
「それで、習得したいスキルは事前によこしたもので良いのか?」
「ああ、お願いしておいたスキルで特に変更はないよ」
「分かった。それでは茉莉が〈物品鑑定〉、君枝ちゃんが〈呪符〉じゃな」
「〈呪符〉は私が教えてあげるにゃ!」
「おお、そうかい。猫神ちゃんが教えてくれるのかい。これは楽しみだねえ」
最初の挑戦からお習字を練習して、茜ちゃんは〈呪符〉を習得している。君枝ちゃんは楽しみにしているようだけど、果たしてお習字を楽しめるだろうか。
「〈物品鑑定〉はあたいが補助するっスよ!」
「ありがとうございます、真神様」
〈物品鑑定〉習得の補助には、〈鑑定〉を持つ愛理ちゃんが適任だろう。
「それでは早速移動するとしようかの。ミズチが上空で待機しておるから、背中に乗って移動するぞ」
「え、ミズチ様の背中に? 良いんでしょうか?」
「龍に乗った最初の人類じゃないか。楽しむことだよ茉莉」
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