第16話 観光なら終了で
いくつか料理を作って食べてみたところ、しっかり1人前を食べれば、バフが付くことが分かった。
1人前以上食べたり、複数種類の料理を食べてもバフは重複せず、最後に食べた1食分のバフだけが効果を発揮する。
また、調理に使用した食材のバフ効果は、そのまま料理に受け継がれる。そのため、様々な食材を使った、より複雑な料理の方が最終的なバフ効果は高い。
「料理スキルは取れなかったにゃ」
「そうね。でも、バフ食材があれば、スキルなしでもバフ料理が作れることが分かったわね」
「あとは継続的に食材を入手する手段があれば、バフ料理を使えますね」
「毎回ここまで取りに来るのは面倒くさいですもんね!」
5品目の料理を納品し課題をクリアしても、料理スキルを取ることはできなかった。けれど、バフ料理があるということは確かめられたのでオッケー。
しかし、バフ料理を得るには、バフ食材が必要で、今のところ、ここでしか見かけたことが無い。
余った食材はすべて愛理ちゃんのアイテムボックスに保管してあるので、私たちが使う分にはしばらくもつが、他の冒険者にもなると足りない。世間に出すには、まず供給をなんとかしなければ。
「山根ちゃんに報告するのは、試練型ダンジョンの情報と合わせて、まとめてにしましょう。バフ料理はありましたが、まだ料理スキルの有無は分かりませんから」
「またやまにぇの仕事が増えるにゃ」
「そういえば、新しい課を作るとかって言ってましたね」
最近はマヨヒガ担当みたいになっていた山根ちゃんだが、総務課課長から外れて、新しい課の課長に異動となる話が進んでいる。
「生産課だっけ」
「そうですね。いつの間にか山根ちゃんのスキルは完全に生産職になっていますし、適任だと思います」
山根ちゃんは、判明した生産系スキル6つをすべて覚えていて、日本で一番生産系スキルを使える人物になってしまった。私たちマヨヒガよりも覚えている生産系スキルが多い。
完全に山根ちゃんのキャリアプランを無視してしまっているので、おわびにバフ料理でも送っておこうかな。
「それならお菓子がいいにゃ。クッキーを作るにゃ!」
「差し入れなら、私はドーナツが良いと思います!」
「両方作ろうか」
というわけで、突然だけどお菓子作りの開始です。調理スペースには大きなオーブンもあるので、一度に大量のお菓子が作れる。
「これならたまに来てもいいにゃ」
我が家の調理担当である茜ちゃんと私にしてみたら、この調理スペースは魅力的だ。調理器具は一式以上揃っているし、電気・ガス・水道代も不要。あとこれは予想になるんだけど、課題でこのスペースができるたびに新品になるんじゃないだろうか。
維持・管理が不要で、使い放題。ここがダンジョンだってことを忘れそう。
まずはオーブンの特性をつかむために、プレーンなクッキーを焼いてみた。
「どうかな?」
「美味しいにゃ!」
「美味しいです!」
「あら、10枚食べただけでバフ効果が更新されたわ」
「お菓子の1人前は少量ですむんですね。これなら手軽にバフが得られそうです」
たぶんヨシ! 山根ちゃんに渡す用には、ココアパウダー入りと抹茶パウダー入りの2種類も混ぜてあげよう。
次はドーナツ。普段はホットケーキミックスで手抜きをするんだけど、残念ながらホットケーキミックスは置いてなかった。ダンジョンさん、ホットケーキミックスは便利だから次は頼みますね。
ついでなので、白玉粉を混ぜたもちもちドーナツも作った。余った生地はまん丸ドーナツにして味見用。クッキーをいっぱい食べたから、ドーナツを食べるのはまた今度ね。
「また明日も来たいわね」
「こんなに便利な場所が制限なしに使えるでしょうか?」
試練型ダンジョンには、分かっているだけでもいくつかの制限があり、あまり便利になり過ぎないように設定されている感じがしている。
「明日からしばらくは彩華ちゃんがダメなんですよね?」
「はい。ネクター社の方で冒険者協会との打ち合わせがあります」
「それならキッチンが使えるかどうかだけ確認するにゃ」
「それなら私に乗ればすぐね。夕食の後に行きましょうか」
美味しい食事の優先順位は高い。バフ食材が得られれば、それだけで試練型ダンジョンに来る価値がある。その他の検証は、また皆がそろったときにやれば良いね。
「もうすぐ夕方だし、次の階層を確認したら帰ろうか」
「そうですね。順番では私ですし、料理スキルをお願いしてみます!」
昨日と同じように、課題はランダムなものだった。これで、課題のお願いはパーティー人数まで、という可能性がより高くなった。
愛理ちゃんが覚えたての〈鉄扇術〉でモンスターを倒し、試練型ダンジョンへの挑戦は終了。元は観光のつもりで来た試練型ダンジョンだけど、いろいろと新しい発見もあり、かなり楽しめた。
冒険者協会へのおみやげもたくさんだ。お仕事頑張ってください。
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