第14話 スキル消失なら複合スキルで

 ゴールボタンを押したとき、残り時間は2秒を残していた。課題クリアだ!


「すごいです! 壁をくるりんって!」


「かっこよかったにゃあ!」


「むふ。クリアしたよ」


 我ながら完璧で、特に壁越えの〈疾駆〉のタイミングは神懸かっていた。脳内イメージと体の動きがぴったりとリンクしていて、ゾーンに入っている、という状態だったのかも。


「おめでとう、明さん」


「おめでとうございます。新しいスキルは取れましたか?」


「ありがとう、確認するね」


 2秒残しだからね。きっと新しいスキルが取れているはず。


「新しいスキルは……、〈縮地〉があった! ん? でも〈疾駆〉が消えてる?」


〈ステータス〉には念願の〈縮地〉があった。けれど、〈跳躍〉、〈軽業〉、〈疾駆〉が消えている。


「スキルが消えたんですか? 〈鑑定〉で確認してみてもいいですか?」


「うん」


「んー、本当ですね。明さんのステータスからスキルが消えています。どうしてでしょうか?」


〈縮地〉を取れたのは良かったんだけど、スキルが消えるという謎現象が発生してしまった。これじゃあ強化できたのか弱体化してしまったのか分からない。


「大丈夫じゃないかしら。私の〈龍体〉も複数の効果を内包した、いわば複合スキルよ。明さんの〈縮地〉も同じじゃないかしら」


「愛理ちゃんの〈鑑定〉も同じですね。ボクの〈物品鑑定〉は、複合スキルである〈鑑定〉の一部とも考えられます」


 そういえば、明日香さんの〈龍体〉は、〈龍眼〉とか〈浮遊〉とかいろんな効果が含まれているんだった。


 つまり、〈縮地〉にも〈跳躍〉とか〈疾駆〉が含まれているってことかな。


「ちょっと試してみる」


 物は試しで、その場で〈跳躍〉し、〈軽業〉で後方伸身宙返りしつつ、〈疾駆〉で3回ひねりを入れる。


「ちょっと動きが鈍いかも。スキルレベル1の〈縮地〉に合わさったからかな?」


「〈龍眼〉を使わないと差が分からないわ」


 ゾーンに入った経験からか、〈縮地〉を取得したからか、体の動きが良くわかるようになった。自分の体を俯瞰して見ているような不思議な感覚。


 その感覚によると、ちょっとだけ動きが鈍く感じた。これから〈縮地〉のスキルレベルを上げていけば、前と同じように動けるようになるだろう


「肝心の〈縮地〉はどんな感じにゃ?」


「私も気になってました!」


「そうだった。忘れてた」


 スキルが消えたという衝撃で、肝心の〈縮地〉についてノータッチだった。まずは一度使ってみよう。


「やってみるね。〈縮地〉!」


「わっ!? 明さんが消えましたよ!」


「後ろだよ」


「きゃ!?」


 これがミステリアス縮地ムーブの1つである「後ろだ」だ。このとき、後ろに回った相手の耳元で囁くと、ミステリアスさがぐっとアップした「後ろだ(囁きver.)」になる。


 ただし、これは相手にも適正が必要になる。


 今の愛理ちゃんのように、驚いて声を上げてしまうと、囁きを聞き逃してしまう。そうすると、囁いた内容をもう一度伝える必要がでてきて、ミステリアスさがマイナスだ。


 相手の特性を見抜く目がないと、真のミステリアスロールプレイは難しい。私も彩華ちゃんみたいに鑑定系のスキル、特に人物鑑定みたいなスキルを取るべきか。


「すごいにゃ! 一瞬で愛理ちゃんの後ろに現れたにゃ!」


「まさに瞬間移動だったわね。視界範囲内だけの移動で、静止状態からしか使えないのね」


「不思議なスキルですね。誰かを連れて移動できるんでしょうか?」


 うんうん。皆にも〈縮地〉のロマンが分かってきたみたいだ。まだスキルレベルが1で、制限も多く気軽に使えないけど、レベルが上がっていけば戦闘でも使えるはず。そうしたら、ミステリアス近接戦闘も可能だ。


 夢が広がるなぁ。


「私も使ってみたいけど、取るのは大変そうにゃ」


「少なくとも〈疾駆〉を使いこなせないと難しいわね」


「ボクには無理そうです。明さん以外だと茜ちゃんくらいでしょうか」


「にゃぁ、ちょっとやってみるにゃ」


 課題が終わっても迷路はそのまま残っているので、茜ちゃんが〈疾駆〉の練習をするようだ。


 まずは地上で使う練習をして、それから空中〈疾駆〉の練習に移るのがいいだろう。茜ちゃんは〈軽業〉も持っているから、頑張って練習すれば、きっと使いこなせるはず。


「にゃあああ!」


 あっ、茜ちゃんが吹っ飛んだ。〈縮地〉!


「にゃ?」


「危なかったね」


 空中へ飛び出してしまった茜ちゃんを〈縮地〉で追いかけて、お姫様抱っこでキャッチ。これはミステリアス縮地ムーブの1つ、「危なかったな」だ。様々な危険から縮地を使って相手を救うムーブで、主にヒロインを助ける際に使う。


 派生型として、助けるだけ助けて姿を見せない「危なかったな(誰なのver.)」もある。


「ありがとうにゃ! やっぱり明さんはすごいにゃ!」


「練習すれば茜ちゃんもできるようになるよ」


 茜ちゃんには頑張ってほしい。2人で縮地するミステリアスムーブもあるからね。夢が広がるなぁ。

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