第11話 採取なら鑑定なしで

「終わったにゃー!」


「ふふっ、お疲れ様」


 叫んだ後に机に突っ伏す茜ちゃんは、さながらテストが終わった学生だ。学生なら答案が返ってくるまでしばしの猶予があるが、ここはダンジョンなので、スキルが取得できたかどうかはすぐに分かる。


「スキルはどう? 取れたかしら?」


「きっとあるにゃ! えっと、えっと……、にゃ、にゃいにゃーー!!」


 2度目の叫びは、どこかの有名な絵画の様。頬っぺたに手を当てている姿は可愛いんだけど、課題の結果は良くなかったみたい。


 自分だけスキルが取得できた愛里ちゃんは困り顔。


「にゃぁ……」


 でも心配しないで愛理ちゃん。茜ちゃんならきっと立ち上がれる。


「諦めないにゃ!」


「その意気よ、茜ちゃん」


「ん。茜ちゃんが強い子だもんね」


 やっぱり茜ちゃんは強い子だ。立ち上がった茜ちゃんの姿は勇者だよ!


「そうですよ! 思い返したら、私だって2回目で〈鉄扇術〉をゲットしたんですから、茜ちゃんだって次でゲットできます!」


「そうですよ、茜ちゃん。良かったらボクの番を譲りましょうか? 1日で2回お願いができるかもしれません」


「それはダメにゃ! 彩華ちゃんもちゃんと順番にするにゃ!」


「分かりました。それでは次はボクの番ですね。ボクが欲しいのはアイテム鑑定系のスキルです」


 戦闘系ではなく、生産系の選択だ。


 現在のマヨヒガの生産体制は、主に彩華ちゃんが担っているが、生産に有用なアイテムの判断は、愛理ちゃんの〈鑑定〉頼りになっている。そこにテコ入れする狙いがある。


「鑑定ってことは、昨日の明日香さんの課題みたいなやつですかね?」


「そうですね。もう少し素材寄りの鑑定スキルだと嬉しいです」


 どんな課題になるかあんまり予想できない。素材の鑑定って普通はどうやってやるんだろう。成分調査とかするのかな?


「では移動しますね」


『条件に合う素材を階層内から探し、納品する』


 素材収集の課題だ。こんなのもあるのか。


「今のところはお願い通りの課題ですね。1日にパーティー人数分だけお願いができるということで確定でしょうか」


 しっかりと考察しつつ、課題を確認する彩華ちゃん。今日3階層目になるが、課題はしっかりお願いの通り。


「どんな素材を集めるにゃ?」


「MP回復ポーションに使える草、付与がしやすい木材、金属の靭性(じんせい)を高めるモンスター素材、他にもありますね」


 結構多種多様な素材が求められているようだ。草や木は取ってくればいいが、モンスター素材はドロップを集めないといけない。非戦闘系の課題でも戦闘力が必要になることもあるんだね。


「素材を集めるところは手伝っても大丈夫なんでしょうか?」


「適切な素材を選ぶところが課題のようだから、大丈夫なんじゃないかしら」


「ボクもそう思います」


「それにゃら、一緒に素材を集めるにゃ!」


「まずは植物を集めましょう。モンスターはこちらに来るようなら倒しましょう」


「草むしりにゃ!」


 この階層の半分は森林地帯で、もう半分は草原のようになっている。向かうのは森林地帯の方。森林といっても、木の密度はかなり低く、下草がたくさん生えている。


「これにゃ? それともこれにゃ?」


 プチプチと葉っぱをむしっていく茜ちゃん。


「ああっ、葉っぱだけじゃ! あっ、そっちは根っこも! あっ、違っ!」


「愛理ちゃん、〈鑑定〉を使っちゃダメよ。彩華ちゃんの課題の邪魔になっちゃうわ」


「分かっているんですが、つい使っちゃって……」


 愛理ちゃんは、いつもの癖で〈鑑定〉を使っちゃったみたい。ただ、それをしちゃうと彩華ちゃんがスキルを取得するのに邪魔になる可能性がある。


 無意識に使いそうになる〈鑑定〉を、意識して使わないようにするという、新手のチャレンジが愛理ちゃんに課された。


「〈調合〉スキルで多少は分かりますね。こちらは葉っぱ、こちらは茎、そしてこちらは全体に薬効がありそうです」


「にゃぁ、失敗しちゃったにゃ……」


「大丈夫ですよ茜ちゃん。一緒に覚えましょうね」


「にゃ、頑張るにゃ!」


 私も覚えておこうかな。実際に採取するのは2人にまかせて、私はザルを持って荷物係だ。ザルは彩華ちゃんが一瞬で作ってくれた。


「あっ、ありました。これがMP回復ポーションに使えそうです」


「HP回復ポーションに使うやつとは、形が違うんだね」


「はい。これは葉っぱは使わず、茎と根を使います」


「葉っぱはむしって納品しにゃいとダメにゃ?」


「おそらくそうだと思います」


「うにゃ、いじわるだにゃぁ」


 何も考えずにいたなら、採取した草は、葉っぱも茎も根っこも全部そのまま納品するだろう。ちゃんとした知識がないと、葉っぱを取って納品するという発想に至らない。


 モンスターを倒せばいいだけの戦闘系の課題とは、違った難しさがある。


「ポーション素材はこれで良いですね。次は木材です」


「木こりにゃ? うにゃ!」


 素手で木を切り倒した茜ちゃん。すっぱりだ。


「これで納品できるにゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る