第10話 課題なら成功で
翌日。朝から愛里ちゃんと茜ちゃんのテンションは高かった。
「次こそは!」
「にゃ!」
鉄扇と呪符を振り回し、スキル取得のイメージトレーニングに余念がない。2人とも自習を頑張ったから、課題のお願いができなくとも、スキルを取得できるんじゃなかろうか。
「ほら落ち着いて。まずは朝ごはんを食べるよ」
「はい!」
「食べるにゃ!」
「今日のお願いの順番は、昨日と同じで良いですか? できるだけ条件は揃えたいので」
「私は良いわよ」
「ん、良いよ」
「もぐもぐもぐっ、はい!」
「うみゃうみゃ、うにゃ!」
少し騒がしい朝食を終えて、昨日よりも早い時間に試練型ダンジョンへやってきた。それでも冒険者の数は多い。
〈門〉に入る列へと並び、今日挑むのは、昨日の続きの新しい階層だ。
「14階層ですね! しっかりお願いしながら移動します!」
果たして、表示された課題は、
『5分以内に、鉄扇でモンスターを50体倒す。(魔法スキルは使用不可)』
「来ました! 〈鉄扇術〉です!」
やったね愛理ちゃん。でも来たのは〈鉄扇術〉じゃなくて、〈鉄扇術〉が取得できそうな課題だよ。
「にゃあ、5分で50体、頑張るにゃ!」
「練習の成果を見せますよ!」
またしてもモンスターに突撃していく愛理ちゃんは、そのままの勢いでモンスターをぶっ飛ばして……、ない!?
突撃していくところまでは同じだけど、広げた鉄扇でモンスターを切り裂くように倒している。おお、これはこん棒とは違う。
「あら。何か掴んだみたいね」
モンスターの脇をすり抜けながら、続けざまに鉄扇を振るっている。モンスターが風を感じる頃には、そこに愛理ちゃんはいない。まるで疾風だ。
「きっと〈鉄扇術〉にゃ!」
「昨日とは全然違いますね」
「ていやー!」
戦っている愛理ちゃんも、今度こそ手ごたえがあるのか、さらにテンションが上がっている。5分で50体倒せば良いところを、3分くらいで終わる勢いだ。
そしてそのままフィニッシュ。
「終わりましたよー!」
「やったにゃ! スキルはどうにゃ?」
「ふっふっふ。それはもちろん! ゲットです!」
満面の笑みでピースをする愛理ちゃん。無事にスキルを取得できたみたいで良かった。これで取得できないとしたら、他にどうしたら良いか思いつかなかったからね。
愛理ちゃんが取得したのは、〈鉄扇術1〉。私の転生特典スキルとは違って、一般的なスキルと同じくレベルがある。
「これからは、真神のときは鉄扇がメイン武器です!」
今まで真神の姿でいるときに近接武器を持っていなかったのを気にしていたみたい。私は玉藻の前の姿でいるときは鉄扇を持っていたので、これでお揃いだ。
「次は私の番にゃ!」
「茜ちゃんもスキルをゲットですよ!」
「もちろんにゃ!」
愛理ちゃんに続けとばかりに、気炎を上げた茜ちゃんが〈ダンジョンポータル〉に触れた。
『呪符50枚を複写する』
「にゃー! またお習字だにゃ!」
茜ちゃんの大声がダンジョンに響いた。
考えてみれば、茜ちゃんは〈呪符〉スキルを持っていないから、呪符を使った課題はできないよね。それを考慮して、試練型ダンジョンさんは複写の課題を出したんだろう。
逆に考えれば、試練型ダンジョンさんがこの課題を出したということは、お習字を続ければ〈呪符〉スキルが取得できる可能性があるということでもある。
「そうにゃのにゃ?」
「きっとそうね。見ててあげるから、しっかり複写しましょうね」
「やってみるにゃ!」
昨日、ずっと先生役をやっていた明日香さんがサポートについて、茜ちゃんが複写を始めた。なんというか、写経みたいな感じだ。やったことないけど。
課題の見本として用意されている呪符は、私の〈呪符〉で出したものとは少し違って、もっとシンプルだ。なんとなくの予想だけど、模様が複雑であればあるほど効果が高いんじゃないだろうか。
複雑な私の呪符で練習してきた茜ちゃんにとって、課題で提示されたシンプルな呪符なんて簡単すぎるかな?
「うにゃ、なーぅ、にゃ! できたにゃ!」
「良い感じね。次はこの呪符よ」
「ありがとうにゃ!」
パッと見たところ、見本の呪符は5種類あるようだ。課題は各50枚というわけではなく、10枚ずつ合計50枚複写すれば良い。各50枚だったとしたら250枚……。合計50枚で良かったね。
少し目を離していた間に、スカートスーツと眼鏡を着用して女先生スタイルになった明日香さんに添削してもらいながら、順調に複写していく。明日香さんもノリノリだ。
ついでに私たちも、茜ちゃんを見守りながら〈呪符〉の模様について調査をしている。手軽にバフやデバフをできる〈呪符〉は結構便利で、スキルで出した以外の物理的お札でも効果があるなら、冒険者ギルドに教えても良いと思っている。
「この部分がバフかデバフなのかを決めているように見えます」
「確かにそうみたいですね。こっちは、敏捷、素早さですか?」
「うん。それは敏捷アップのバフ」
「ほぇー、明さんのは複雑ですねー」
「今茜ちゃんが複写しているものの方が参考にしやすいです。この中心部分は敏捷との共通点もあります」
「むむっ。そう言われてみれば似ているかも。ということは、これは敏捷アップのバフ?」
「その可能性が高いですね」
私の〈呪符〉にも取り入れられる技法があるかもしれない。今の〈呪符〉によるバフは、だいたい2倍くらいの強化量がある。これを3倍とか4倍とかにできれば単純に強い。他には、複数の効果を持った〈呪符〉とか。
転生特典スキルは強力だけど、使い方の部分で改善の余地があることは、昨日のダンジョン攻略で理解できた。まだまだ私たちは強くなるぞ。
そしてミステリアスになるぞ!
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