第9話 スキル得るなら自習で
少し休憩した後、ダンジョンに入り直してみても、課題はランダムだった。パーティーを2つに分けてみたり、攻略済みの階層へ行ってみたりしてもダメ。後は日を改めてみようということになり、帰宅することになった。
「明日試してみてもダメなら、望み薄ですね……」
「じゅ、〈呪符〉を、覚えてみたかった、です」
「あら。試練型ダンジョンはダメでも、練習していればいつかは覚えられるかもしれないでしょ。普通のやり方に戻っただけよ」
普通はそれなりの期間練習してスキルを覚えるのだ。試練型ダンジョンはある種のボーナスだと思えば、明日香さんの言う通り、元に戻っただけ。
「ボクの作った鉄扇でいっぱい練習してください」
「そうですね。うん、練習すればいいだけですね!」
帰宅してから新たに作り直した鉄扇は、全てのパーツがダンジョン産の素材で出来ている特別製で、銘は〈鉄扇・狐狗狸(てっせん・こくり)〉。狐と犬と猫が描かれた扇だ。
親骨と中骨は黒鋼とミノタウロスの角の合金、扇面には繊維状にした魔銀と蜘蛛モンスターからドロップする糸素材をより合わせた糸で織った布を使用している。
そして、骨をとめる要(かなめ)は、金色に輝く魔金。この素材は金と付いてはいるが、非常に硬く、耐摩耗性も高い。物理的性質はチタンに近い金属だ。特に重要な部品である要(かなめ)の素材としてこれ以上のものはない。
完成した〈鉄扇・狐狗狸(てっせん・こくり)〉は、愛里ちゃん曰く、魔力の通りが良く扱いやすいとのこと。
「やっ! ほっ! ていっ!」
練習すると言った愛里ちゃんは、私の指導を受けて、鉄扇を振り回している。まだちょっとぎこちないけど、始めたばかりの頃よりはだいぶ良い。関節を柔らかく使うコツを掴めれば、ほとんどできたようなものだ。
「にゃぁ、難しいにゃぁ……」
それで〈呪符〉の取得を目指す茜ちゃんは、机に向かってお習字中。見本となるのは、私が作った呪符。どうやらこの呪符は、分類的には魔法のようで、効果によって微妙に書かれた文言――というか模様に見える――が違う。
彩華ちゃんの考えでは、簡易的なマジックアイテムとしての性質もあるようだ。詳しくは分かんない。
〈呪符〉を習得するには、呪符について知らなければならないと、書き取り練習のようなことになったというわけだ。
ちなみに、茜ちゃんが持っている筆は、本物の龍の髭でできている。彩華ちゃんが鉄扇を作っている間、それなら私もと、明日香さんが自前の龍の髭を筆に加工し、茜ちゃんにプレゼントしたものだ。控えめに言って国宝級では?
「茜ちゃん、頑張って」
呪符の書き取りについて、私が指導できることは何もない。粛々と見本の呪符を出すだけだ。
「ああ、そこはもうちょっと曲げて。そうよ上手ね。さっきよりもずっときれいよ」
「にゃ!」
むしろ明日香さんの〈龍眼〉の方が指導には効力を発揮していて、細かい違いにも良く気付いて筆を修正している。本人も嬉々として先生をしており、私と愛里ちゃん、茜ちゃんと明日香さんの2ペアで、スキル習得のための自習だ。
そして、手が空いた彩華ちゃんは、試練型ダンジョンについての情報収集をしている。特に、日本以外の情報を集めていて、やはり海外でも人気のダンジョンとなっているようだ。
「スキルが取得しやすいということは広く知られているようですね。ですが課題のお願いについては情報がありません。これは愛里ちゃんのような〈鑑定〉スキルがなく、正確なスキルの情報が得られないためでしょう」
〈ステータス〉は自己申告なので、珍しいスキルを持っていてもそれを証明する方法がない。スキルのことを知らなければ、それを取得しようとする人もいない。
結果的に、取得するスキルは一般に知られているものばかりとなり、それならば普通のダンジョンでも十分取得可能だ。よって、試練型ダンジョンはスキルが取得しやすい、くらいの評価に落ち着いている。
「改めて、〈鑑定〉ってチートだね」
「取って良かったです!」
「そういえば、ダンジョン自体を鑑定すれば、試練型ダンジョンがどういうものか分かるんじゃ?」
「ダンジョンの鑑定はやってみたことがあるんですけど、鑑定できなかったんですよね。多分ですけど、ダンジョン全体を『外』から見ないと鑑定できないと思います」
ダンジョン内部から鑑定すると、『壁』とか『床』の鑑定はできても、『ダンジョン』の鑑定はできないみたい。後は〈門〉だけど、これは地球とダンジョンを繋ぐだけの存在で、ダンジョンとは別物。〈門〉を鑑定してもダンジョンの情報は得られない。
「チートと言っても、制限はあるんだね」
いかに転生特典スキルといっても、全部解決!とはいかないらしい。
「できたにゃ!」
「良いわね。記念に飾っておきましょう」
地道な練習が大事だね。
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