第4話 火力なら2丁で
――グ、グモオォォ……
「にゃっ」
茜ちゃんの拳の前に、エリートミノタウロスはついに倒れた。ドロップアイテムは、ミノタウロスの角と……、睾丸。ばっちいので、以前オークのために用意しておいたトングと袋で回収した。
「茜ちゃんかっこ良かったですよ! シュ、シュ!って!」
エリートミノタウロスとの闘いをへて、茜ちゃんの〈格闘術〉と〈身体強化〉スキルはレベルが上がって、それぞれ〈格闘術3〉、〈身体強化6〉になった。
「試練型ダンジョンというのは、スキルレベルが上がりやすいのかもしれません」
「そうかもしれないわね」
「明日香さんの〈龍眼〉で何か情報は得られないんですか?」
彩華ちゃんは試練型ダンジョンそのものに興味があるようだ。
「〈龍眼〉に慣れてきた今なら分かるんだけど、試練型ダンジョンについては何も見れなさそうなのよね。なんとなくそう感じるの」
なんだか意味深な言い回しだ。〈龍眼〉で見ることができないっていう情報そのものに、意味があるのかも。
「興味深いですね。次の階層に行きましょう」
「ん。次は誰が頑張る?」
「ボクがやります」
「彩華ちゃんファイトですよ!」
「が、がんばって」
試練型ダンジョンのひみつについて、自分で検証するつもりなのか、彩華ちゃんが立候補した。どんな課題になるのか楽しみだ。
「はい。では移動します」
3階層の課題は、
『10秒以内に、全てのターゲットに指定属性の攻撃を当てる(攻撃開始後は移動不可)』
というものだった。
2階層と同じく、闘技場のようなフィールドに、風船っぽいターゲットがふよふよと浮いている。風船には、燃える火のマークや、水滴のマーク、雷のマークなど6種類のマークが描かれていて、これが課題にある指定属性を表しているんだろう。
「ボクにぴったりの課題ですね」
私たちの中で、自分だけで複数属性を扱えるのは彩華ちゃんだけだ。課題には人数制限について書かれていないけど、彩華ちゃんは1人で挑むつもりかな?
ターゲットの数は、ざっと見て30以上はありそうだ。これを1人でやるのは大変そうだよ。
「大丈夫です。〈魔力式回転クロスボウ〉はもう1丁あります」
そう言って、マジックバッグから2丁の武器を取り出して、両手でそれぞれ構えている。なるほど、「1丁で不十分なら、さらなる火力のためにもう1丁帯びよ」、古の戦士もそう言っていた。
「彩華ちゃん、属性を切り替えるにはチェンバーを回さないとダメなんですよね? 両手でクロスボウを持ったら回せなくなりますよ?」
「そこは問題ありません。〈操り人形の糸〉で操作します」
おお。そういえばそんなマジックアイテムがあったね。普段は白熊型騎乗ゴーレムのベアトリクスを操作するのに使っているけど、クロスボウの操作もできるみたい。
さすが彩華ちゃんだ。抜かりない。
「かしこいにゃ!」
「さすが彩華ちゃんね」
「では挑戦しますので、皆さんは見ていてください」
「ん、頑張って」
だらりと両手を下げて静かに集中する彩華ちゃん。しかし熊耳はあちこちへキュルキュル動いている。
そして、ゆっくりと両手が上げられ――、
「はっ!」
いつにもまして気合を入れた彩華ちゃんが〈魔力式回転クロスボウ〉の矢(ビーム)を発射した。
ターゲットを貫通し、後ろにある同じ属性のターゲットにも命中させていく。ふよふよと不規則に動く、風船のようなターゲットの動きを、しっかりと把握している証拠だ。
さらに属性を変更させながら発射される矢(ビーム)が、カラフルな光の筋となって宙を埋めていく。
1秒未満の短い間隔で属性を切り替え、異なるターゲットへ左右のクロスボウを向け、最適のタイミングで矢(ビーム)を放つ。
華麗な射撃に見とれつつも、「○○モード、シュート」という掛け声を言わなかったなぁ、という雑念が頭の隅っこに残り続けた。きっとロールプレイ用に考えた台詞なんだろうな。
「ふぅ、課題終了です」
全てのターゲットを撃ち落とし、熊耳が誇らしげに高速ピコピコ!
「彩華ちゃんもかっこ良かったですよ! シュ、シュ!って!」
「すごいにゃ! にゃ、にゃ!」
「〈射撃術〉という新しいスキルを得ました。やはりスキルが育ちやすいんでしょう」
愛里ちゃんと茜ちゃんが興奮している中、彩華ちゃんは冷静に試練型ダンジョンを考察している。
スキルが育ちやすいなら、試練型ダンジョンはもっと人気になってもいいはずだ。特に高ランク冒険者を目指すような人には、良いトレーニング場所となるだろう。
「ある程度条件があるのかもしれないわね。それか制限か」
1日に1回だけとか、1日1階層分しかスキルレベルアップにボーナスが付かないとか。そう考えるとログインボーナスみたいな気になってくる。
「進めばそれも分かるかもね。次は私が頑張ってみる」
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