第3話 戦うなら拳で

 次の日、龍になった明日香さんの背に乗って、東北局エリアへやってきた。


 目的地は仙台にある東北09〈試練型ダンジョン〉だ。全50階層のダンジョンで、ダンジョンランクは異例の『なし』。この『なし』は、踏破しても〈ステータス〉にダンジョン踏破証の記載が増えないことから『なし』と言われている。


「うわぁ、建物がおっきいですね!」


 見慣れた関東局エリアのダンジョンと比べて、〈門〉を囲う施設の大きさが2倍くらいある。これはひとえに試練型ダンジョンの人気ゆえだ。


「ひ、人も、多いです」


 朝早くに家を出発してきているので、時刻はまだ9時前。それなのに、結構な人数の冒険者が集まっている。


「ほら、試練型ダンジョンって、内部がパーティーごとに別々になっているけど入り口は1つでしょ? だから時間によっては混雑するのよ。テーマパークの入場口みたいなものね」


 そう言って明日香さんは笑った。


 テーマパークとは言い得て妙だ。実際、私たちの感覚としてもそんな感じだし、周りの冒険者たちの装備を見てもそういう空気を感じる。


 なんというか、ダンジョンに来ているにしては、軽いのだ。ちょっとゲームセンターに来ました、と言ってもおかしくないような軽さ。


 いつでも離脱できる試練型ダンジョンならではの空気感だろう。これが良いのか悪いのかは、ちょっと私には判断できない。


「私たちも入りましょう」


 人目があるので、彩華ちゃんは女社長モードになっている。可愛い熊耳も見れないし、早く入るのは賛成。10分ほどの待ち時間の後、無事〈門〉を通過し、2階層への〈ダンジョンポータル〉へと触れた。


「試練型ダンジョンは難易度もパーティーによって異なるわ。油断しないようにね」


「どんな課題が出てくるのか、楽しみですね!」


「ど、どんな敵も、ビリビリ、さ、させますっ」


 我が家の年少組がとても張り切っている。『ダンジョンコラプス』で戦ったフェニックス以外では、あまり全力を出す機会はなかったから、力が有り余ってるのかな。


 そのフェニックス戦にしても、地上への影響を考えて本当の全力ではなかったし、実は私もちょっと楽しみにしている。


「移動するね」


 2階層へ移動すると、移動した先の〈ダンジョンポータル〉に文字が浮かび上がった。


『階層内のモンスターを、5分以内にすべて討伐する』


「5分以内に全滅ですって!」


 階層の広さは、直径500メートルから1kmほど。課題の内容によって増減し、モンスターと戦う系の課題の場合は、たいてい広くなる。


 今いる2階層は、1kmくらいの森林型フィールドだ。


「早い者勝ち! 『水景・激流針【散】(げきりゅうしん【さん】)』!」


 何のためらいもなく、愛里ちゃんの新技が放たれた。頭上に浮かんだ水球から、極めて細い針状の水が発射され、木々を貫き、土を抉り、辺りを荒地へと変えていく。


 30秒後、そこは絨毯爆撃でも受けたようなありさまで、ドロップアイテムから何からぐっちゃぐちゃのドッロドロ。


「やりすぎちゃいました。テヘっ」


 うーん、可愛いから許す。でも次からはちょっとは考えて魔法を使ってね。


 どんなモンスターがいたかすら分からないまま、私たちは次の3階層へと移動した。


「つ、次は私っ」


 意気込む茜ちゃんの前に提示された課題は、『素手でモンスター1体を倒す(魔法スキル使用禁止)』というもの。フィールドは闘技場のような形で、中央に頭が牛の巨人が立っている。


 派手な魔法でモンスターを倒すんだと張り切っていたところへ、魔法スキル使用禁止の課題が出て、落ち込んじゃったかなと茜ちゃんの様子を伺うと――、


「にゃああん!」


 ダッシュの勢いを乗せた右ストレートで、巨人は一発KO。茜ちゃんには、猫時代に鍛えた〈格闘術〉が少しあるからね。ひねりを加えた良いパンチだった。


「ナイスパンチ!」


「ひどいにゃ!」


「茜ちゃん、モンスターはまだ倒せてないよ」


 ぷりぷりと怒る茜ちゃんは可愛いが、モンスター相手に油断するのは良くない。いくらすぐに撤退できるとは試練型ダンジョンとは言え、ダンジョンだから危険はある。


「ごめんなさいにゃ……」


 反省した茜ちゃんは、改めてモンスターへと向き直った。


「モンスターの名前は、エリートミノタウロスです! 物理特化の脳筋です!」


 起き上がったエリートミノタウロスは、脳筋らしく凄まじい上半身の筋肉をしている。一転して下半身が細身なのがちょっとバランスが悪い。


 おそらく、足を止めての打ち合いが得意な、ハードパンチャーなんだろう。


「やるにゃ!」


 一方の茜ちゃんは、猫の素早さを活かしたスピードタイプ。


「当らなければどうということはないにゃ!」


 ミノタウロスの3倍を超えるスピードで、全身を滅多打ち。さらに力が弱いわけでもないので、拳の暴風にさらされたミノタウロスは瞬く間にボロボロになっていった。


「すごい。茜ちゃんの動きがどんどん良くなっています」


「そうね。試練と名が付いているのは伊達じゃないってことかしら」

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