第1話 Bランク試験なら合格で

「こんにちはー、郵便局でーす」


 という元気な声と共に、私と愛里ちゃん宛に書留が届いた。送り主は冒険者協会で、Bランク冒険者試験の合格を知らせるものだった。


「ついにBランク冒険者ですよ!」


 ついに、というほど時間はかかってないけどね。今は11月だから、4月に登録してから約7カ月でBランクになったということになる。これは、一般的にはかなり早い方だ。


「わ、私もBランクを、め、目指しますっ」


 目標を新たにしたのは茜ちゃん。すでにCランク冒険者であるので、あとはBランクダンジョンを踏破すれば試験は受けられる。


「ボクは急いでランクを上げるつもりはありませんが、茜ちゃんがBランクダンジョンへ行くなら一緒に行きたいです」


 彩華ちゃんはそれほど冒険者のランクにはこだわっていない。そもそも、冒険者として登録されている身分は女社長の方なので、社長業と冒険者業の兼業になっている。


 一般常識で言えば、そんな状態でポンポン冒険者ランクを上げられるのは、普通ではない。変に目立つのを防ぐために、あえて冒険者ランクを上げていない面もある。


「Bランクダンジョンね。皆が行くなら私もついて行こうかしら」


 今日はどこへも出かけていない明日香さんが話に乗っかってきた。『マヨヒガ』への加入は保留している明日香さんだけど、ダンジョンへ出かけては、ほぼ毎日家に帰ってきている。


 11月に入って寒さも増してきたので、最近は主に南の方のダンジョンへ遠征しているみたい。まあ〈龍体〉スキルを持つ明日香さんには、寒さ暑さなんて効かないけどね。


 ちなみに明日香さんは、私たちと会う前にBランク冒険者になっている。特に自重などせず、登録から4カ月ほどでなったんだとか。早すぎる。


「〈人形ダンジョン〉はちょっと飽きましたし、どこか別のBランクダンジョンへ行きましょう!」


 関東06〈人形ダンジョン〉は生産スキル上げでお世話になりまくったダンジョンだ。明日香さん以外の皆は、愛里ちゃんの言うように飽きるほど通ったので、別の所へ行きたい気持ちも分かる。


「そうなると、関東局エリアだと他は〈水没ダンジョン〉だけだね」


 関東10〈水没ダンジョン〉は、45階からなるBランクダンジョンだ。水没と銘打ってはいるが、身動きが取れないほど水があるわけではなく、水深は5センチほど。


 しかし、どこもかしこも水浸しで攻略難易度はかなり高い。少しの水だとしても、意外に体力を持っていかれるものだ。あと野宿もまともにできない。


 出現するモンスターは、基本的に水の中にいる水棲モンスターで、四方八方から襲ってくる。


「水は愛里ちゃんとの相性はいいですね」


「わ、私の〈雷魔法〉は、相性、さ、最悪ですっ」


「むしろ相性が良すぎる可能性もあります?」


 雷1発で全員感電!、とできれば、茜ちゃんとの相性も良さそうだ。その場合、漏れなく私たちも一緒に感電!、となるのでやっぱり相性は最悪?


「感電しない様に、常に飛び続けるのもちょっとね」


 やってできないことはないし、それで疲れることもないんだけど、もし誰かに見られたら厄介だ。ちょっと勘違いしがちだけど、普通の冒険者は空を飛べない。これ常識ね。


「はっ! いっそのこと、『マヨヒガ』で弾丸攻略するのも手ですね!」


「た、確かにっ」


「それでしたら生配信もしますか?」


「そういえば公式チャンネルがあるのよね。私もちょっと興味があるわ」


 おお、皆乗り気だ。


 最近は『ダンジョンコラプス』が来るよという告知以外では『マヨヒガ』チャンネルの活動はしていなかった。事件の余波も収まってきたし、再開するにはちょうど良いかもね。


「それじゃあ『マヨヒガ』で〈水没ダンジョン〉を弾丸攻略するってことで良い?」


「はい!」


「お、お弁当作りますね」


「ドローンの準備をしてきます」


「私は……、特に準備することもないわね」



 久々の生配信は盛り上がった。


 ココ、リューちゃん、ベアトリクス、雷猫、自前の〈浮遊〉で空を飛びながら、茜ちゃんがバリバリ雷を落としながら疾走するのは、鍛えられた視聴者なら見慣れた光景だ。


 で、お昼になったからご飯休憩にしようとしたんだけど、水没しているから休憩場所を作るのも一苦労――、


「それなら『干天(かんてん)』」


 明日香さんの〈龍魔法〉による『干天』で、〈水没ダンジョン〉を〈ただのダンジョン〉に変えてしまったのには、私たちもちょっとびっくりした。


「これが一番簡単だと思うわ」


 さすが龍だ。

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