第27話 出会いがあるなら別れも
「おお、すごい騒ぎになってるみたいだね」
君枝ちゃんが思わず漏らした言葉に、端末へ目をやってみれば、関東局内の映像が映っていた。
職員さんたちがせわしなく行き交い、電話は立ったまま取り、座る間もなく次の場所へ速足で。どこの戦場かな?
「心苦しいですが、仕様がありません」
「山根課長の言う通りです」
「そうなんだけどね」
「なんじゃ。君枝ちゃんが戻りたいと言うのなら、戻っても良いのじゃぞ。山根ちゃんがおれば『検証』はできるからの」
「私は監督の仕事があるんだ。ここでしっかりと監督しないとね」
関東局がやばい状態にある中、私たちがどこにいるのかというと、関東02〈関東局ダンジョン〉の中にお邪魔している。
君枝ちゃんを探している職員さんもいるみたいだけど、灯台下暗しというやつだ。
「玉藻さん、準備できました」
「おおそうかキムンカムイ。それでは試してみるとするか」
「はい。設置します」
彩華ちゃんが〈マジックアイテム〉を『ダンジョンコア』に設置した。そのアイテムは卵の殻のようにコアを包み込み、丸っとすべてを覆い隠している。
アイテムの名前は〈回収防ぐ君2号〉。その名の通り、『ダンジョンコア』の回収を防ぐためのアイテムだ。
「では回収を試してみます」
「君枝ちゃん、良いか?」
「ああ、やっておくれ」
殻に手を掛けた彩華ちゃんがしばらくじっとしていたが、コアの回収はできなかった。続けて君枝ちゃんや山根ちゃんも試し、〈回収防ぐ君2号〉の検証は終了した。
「はぁ~。これがあれば安心だね」
ところがそううまい話ばかりではない。確かに回収を防ぐことはできるんだけど、この〈マジックアイテム〉そのものを破壊してコアを回収することはできる。
もちろん、破壊されたことを通知するように作ってあるので、本質的には回収を防ぐというより違法回収を検知するためのアイテムだということだ。
「あとは山根ちゃんの〈付与〉スキルのレベルが上がれば、冒険者協会だけでなんとかなるじゃろ」
『ダンジョンコラプス』が終わってから、いやその前から、山根ちゃんには生産系スキルの習得を急がせていた。目的は〈付与〉スキルだ。
彩華ちゃんの感覚のみであった〈付与〉スキルの存在を確認するため、〈ステータス〉を得た時から生産系スキルに浸ってきた山根ちゃんがちょうど良かった。
生贄、もとい実験体として各種生産系スキルを習得し、ついには〈付与〉スキルの実在を確認するに至ったのだ。
そうは言ってもまだ〈付与1〉。複雑な〈マジックアイテム〉などは作れない。ただ、目標とする物をしっかりと見ておくことは、今後のスキルレベル上げに有効だろう。
「漠然とした感覚ですが、回収防止や破壊通知だけなら〈付与2〉。両方を合わせたものは〈付与3〉あれば作製できそうです。」
「ほう。それならあまり時間をかけずに対策できそうだね」
「〈付与3〉に上がるまでは、〈マジックアイテム〉を2重に設置しておけば良いでしょう」
「そりゃ良いアイデアだ。ありがとうキムンカムイちゃん」
作る〈マジックアイテム〉の量は2倍になるけど、そこは山根ちゃんに頑張ってもらおう。スキル上げにもなるしね。
検証を終えた私と彩華ちゃんはそのまま帰宅した。身を隠して帰宅するのにも慣れたもので、まず上空まで飛んで、そこから姿を隠して愛里ちゃんの家まで落下するという超脳筋スタイル。これが一番簡単だと思います。
「ただいま」
「おかえりなさい明さん! 実験はどうでした?」
「バッチリ。ね、彩華ちゃん」
「はい。明日香さんもお手伝いありがとうございました」
「助けになって良かったわ」
明日香さんはまだ一緒にいるが、そろそろ出る予定だ。コアの回収を防ぐ〈マジックアイテム〉の作製完了はその契機になるだろう。
「お、おかえりなさい。今日のご飯は、お、お鍋です」
「ありがとう茜ちゃん」
茜ちゃんは『ダンジョンコラプス』を経て、一皮むけた感じ。勇者猫神として頑張った経験が、自信につながっている。大人な明日香さんとの交流も刺激になって、お買い物に1人で行くのも余裕だ。
「あ、明日香さんは、もう出ていっちゃうんですか?」
「そうね。明後日には出発しようかしら」
「ぅぅー、じゃ、じゃあ今日は一緒に寝てください」
それでもまだ甘えん坊なのは変わらない。
そして別れの日がやってきた。
朝から豪勢なお弁当を茜ちゃんと2人で用意して、明日香さんに持って行ってもらう。発案は茜ちゃんだ。
「こ、これ、お腹がすいたら食べてくださいっ」
「わあ。ありがとう茜ちゃん」
「体に気を付けてくださいね!」
「うん。愛里ちゃんもね」
「何かあればDギアで連絡してください」
「大切にするね彩華ちゃん」
「元気でね」
「明さんも元気でね」
同じ獣人ではあるけれど、その向かう先は人それぞれだ。出会いもあれば、別れもある。
茜ちゃんは顔中ぐちゃぐちゃ、愛里ちゃんは寂しそう、彩華ちゃんの耳はしょんぼりだ。
手を振って、「またね」と言い合って、明日香さんは歩き出した。私たちは立ったまま、明日香さんの背中を見送った。
「今日の晩御飯は何?」
そして夜には帰ってきた。
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