第21話 不意打ちなら想定内で

「うむ。順調なようじゃな」


 手元のタブレットで各ダンジョンの生中継を確認すると、どこも順調のようだ。1人行動になるため、少しばかり茜ちゃんが心配だったが杞憂で良かった。


「順調なのは良いことだよ。だけど、もう少し私らに活躍の場があっても良いんじゃないかい?」


 愚痴のようにつぶやいた君枝ちゃんの視線の先には、燃え盛る巨大な狐火。〈門〉を囲う鉄骨の林を溶かすほどの熱量で、青白く周囲を染めている。


 作戦では、狐火で焼いて、焼ききれなかったモンスターを理恵さんと君枝ちゃんで倒す、という流れだったのだが、一向に抜け出てくるモンスターがいない。ということは、君枝ちゃんの出番もない。


「あまりの火力に、文字通り瞬殺ですね」


 モンスターが出現する度に、「ジュッ」と軽快な音を立てて、ドロップアイテムが落ちる。


 一度も羽ばたくことも無く崩れ落ちていくので、本来なら反対側で待機する予定の理恵さんもこちらへ来てリラックス中だ。


「楽に抑え込めるならその方が良いじゃろ。無駄に苦労する必要もあるまい」


「ま、そうだね。今のうちに各ダンジョンの情報でもまとめておくかい」


『ダンジョンコラプス』が発生してから、5分が経過した。


 出現したモンスターの数は、1つのダンジョンにつき5千~6千匹。スタンピードの際と同じ程度のモンスター――およそ3万匹――が出現すると考えるなら、このまま処理し続ければ25分から30分で終息するだろう。


「ここまで順調だと抑え込めたも同然だね。私も少し休もうかね」


 あっ、それは。専門家から『フラグ』と呼ばれるものじゃないかな君枝ちゃん。


 そう思った瞬間、私たちの周囲は爆風に包まれた。1日で2回も爆発に巻き込まれるなんてすっごいレアだ。でも嬉しくない。


 爆発は1回では収まらず、2回、3回と続いている。地面の下から爆発し盛大に土を巻き上げているため、おそらく〈門〉を囲う施設の建設過程で爆発物が埋められ、それが今爆発させられたんだと思う。


 爆発が収まり、不自然に土煙が晴れると、私たち3人が倒れているところが見えることだろう。


『やったか?』


『標的3名は倒れています。生死は不明です』


『念のため追加で攻撃を加える』


『了解』


 遠くの建物の屋上から追加でロケットのようなものが発射され、白く尾を引きながら倒れている私たちに着弾した。


『弾着確認。効果は……、うっ』


『がっ……』


 物騒なモノをぶっ放した2人の危険人物を、理恵さんが昏倒させた。ついでに手足の腱もすっぱり切って、後ろ手に拘束もしている。すっごい手慣れてて、特殊部隊の隊員みたいだ。


 さらに猿轡(さるぐつわ)と目隠しと耳栓? ちょっと理恵さんのお仕事に疑問が……。冒険者協会ではこれが普通なんだろうか。


「また私の出番はなかったね。貧乏くじだよ」


 パンパンと服に着いた汚れを叩き落としながら、君枝ちゃんが起き上がった。


 当然だけど、あれくらいの爆発では何のダメージもない。倒れてみせたのはブラフだ。服が汚れるのが嫌だったので、地面は焼き固めてあるし土埃も防いだ。最後のロケット砲のときは、私が離れていたので君枝ちゃんだけちょっと汚れちゃった。


「理恵ちゃん、この者の拘束も頼む」


「分かりました」


 私の方でも爆発前に発せられた電波を逆探知して、1人の男を捕まえてある。


 とりあえず、3人の情報源を手に入れた。十中八九『ダンジョン審判教』だろう。


 6月のスタンピードの経験から、こうして襲撃してくることは予想できていたので、対抗策を彩華ちゃんに準備してもらっていた。電波を逆探知したのがそれだ。


「他の場所はどうだい?」


「今のところ襲撃はないようです」


「ここが主目的ということかの。爆発も手が込んでおる」


「警戒は引き続き必要だろうね。身柄の引き渡しは、全部終わってからで良いだろう。口封じされるのは構わないけど、下手に動かしてこっちに被害が出るのは嫌だからね」


 ここに置いておく方が逆に安全だと言うのは、審判教にとってはありがたくないだろう。この3人の口封じのために、さらに襲撃してくる可能性もある。


 むしろ、そうした方が皆の場所が安全になって良い。どんどん襲撃してきてくれたまえ。


「次のときは私が出るからね」


 君枝ちゃんも暇そうなので、どんどん来てくれたまえ。


『ダンジョンコラプス』から10分。モンスターの制圧は順調に進んでいる。

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