第19話 意気込みなら気合で

「それで、どうして3人だけなんじゃ?」


『マヨヒガ』の皆がそれぞれのダンジョンへ移動してからしばらくして、冒険者の移動も始まった。


 時刻は午前2時過ぎではあるが、集まった冒険者の数は多く、1つのダンジョンにつき100人ほどは派遣できそうとのことであった。


 ほーん、それなら500人くらい集まったのかー、と思っていたら、中央の私の位置には冒険者0人。


 もう一度言うが冒険者0人だ。


 ここで対応に当たるのは、私、理恵さん、君枝ちゃん、合計3人。以上。


 おかしいね?


「君枝ちゃんは陣頭指揮にあたると言っておらなんだか?」


「指揮をするなら中心が一番じゃないか」


 君枝ちゃんはニヤリと笑っているが詭弁だ。隣の理恵さんも苦笑い。


「本当のことを言うと、ここはもしものときは放棄することになるだろう? そのときに逃げ出せる実力のあるやつらはそう多くない。それなら周囲を確実に処理してもらった方が良いだろうってことさ」


「わからんでもないな」


 でも3人はねぇ。というか君枝ちゃんはどれくらい戦えるんだろうか。元Aランク冒険者といっても、あくまで『元』が付く。ブランクが長ければまともに戦えないんじゃないかな。


「今でもダンジョン通いは続けているから心配いらないよ」


 ニヤリと君枝ちゃんが笑って、これまた理恵さんが苦笑い。苦労しているんだね。


「さて、3人もいるんだ、どうやって対処するか考えようじゃないか」


 作戦――、と呼べるかは分からないが、対処はこうだ。


 まず、私の〈狐火魔法〉を〈門〉の直上に展開し、出現したモンスターを焼く。倒しきれない場合は、〈門〉の前後に陣取った理恵さんと君枝ちゃんが止めをさす。以上。


 玉藻の前の偽物騒動の時に使った、あの太陽っぽいやつを出すアレ。アレを使います。


 ここのダンジョンに出現するモンスターは、素早い鳥型だけど、耐久力はそれほどでもない。〈狐火魔法〉の範囲を抜けるまでの間に、十分焼き鳥になるだろう。


「一応他の場所の状況も見ておこうかね」


「一応などと、君枝ちゃんは隠す気がないのう」


「すみません玉藻さん。局長が勝手して」


「元々1人で対処するつもりであったからの。理恵ちゃんと君枝ちゃんが来てくれただけでもありがたいか」


 空を飛ぶモンスター相手なので、一度取り逃がすと後が面倒だ。2つ以上の魔法を常時展開するのは疲れるし、手伝ってくれる人が増えるのはありがたい。それがたった2人でも。


「はは、私は何も心配していないが、さすがに玉藻ちゃん1人にまかせるのは冒険者協会としても問題だからね。お、他の場所でも準備が終わったようだよ」


 君枝ちゃんが持つタブレットには、各ダンジョンの映像が映っている。スタンピードの時と同じように、冒険者協会からの生配信の映像だ。


 私の頭上にも1基ドローンが浮かんでいる。


『マヨヒガ』で配信する案もあったんだけど、さすがにそこは遠慮しておいた。変な前例を作るのもなんだし、いくら前面に出るのが『マヨヒガ』だとしても、冒険者協会が責任を持つのは変わらない。


 責任とは、義務や権利とセットだ。しっかり配信という義務を果たしてもらいましょう。


「あと1時間ほどか」


 東の空が段々と明るくなってきた。『ダンジョンコラプス』の発生が近付いてきたおかげか、明日香さんによる予想開始時間の幅が狭くなっている。


 もう間もなくだ。


「忘れぬうちにMP回復ポーションを渡しておこう」


「こいつはありがたいね」


「ありがとうございます。もしかして、これも〈調合〉スキルで作製できるんですか?」


「うむ。スキルレベル3から作製できる。あまり教えすぎもどうかと思うが、君枝ちゃんはどうじゃ?」


「はは、本当に『マヨヒガ』は楽しいね。もちろんうちのに頑張ってもらうさ。むしろ成果があるとわかってるぶん、楽な仕事だよ」


 うんうん。君枝ちゃんならそう言うと思った。ミステリアスな『マヨヒガ』との付き合い方を良く分かってる。ついつい私もロールプレイに熱が入っちゃうよ。


「ふふ。それならば妾も期待して待つとしよう」


「はは、はははは!」


「ふふふふふ」


 楽しい!


「お二人で楽しんでいないで、そろそろ開始時刻ですよ」


「おお、もうそんな時間かの」


「楽しい時間はすぐに過ぎるからね。それじゃあ私から開始の意気込みでもやっておこうかね」


 上空を飛んでいたドローンが君枝ちゃんの正面へと移動した。


「あーあー、聞こえているかい」


 ここ以外の場所では、〈門〉を囲う施設に設置されたディスプレイに各地の映像が中継されている。その1つに君枝ちゃんの映像が映し出されている。


「今日は、歴史上類を見ない日になるだろう。複数ダンジョンの同時『ダンジョンブレイク』。それもいきなり〈門〉のとこに現れるってんだから、普通のよりもよほど危険だ」


 スタンピードをダンジョン内で削ることができず、無傷のモンスター群との地上戦となる。


「だが、頼もしい味方もいる。『マヨヒガ』の力は強大だ。だが、お前たちはその『マヨヒガ』の影に隠れているだけでいいのかい? 全部を『マヨヒガ』にまかせちまっていいのかい?」


 一種の煽りなんだろうが、分かっていても熱気は上がっていく。それは違うと、俺たちもやれるぞと。


「私たちはなんだ! 私たちは冒険者だ! モンスターを斃し、スタンピードを止める! 『マヨヒガ』と共に、この困難を打ち破る!」


『『『おうっ!!』』』


「この街を守る! この国を守る!」


『『『おうっ!!』』』


「あんたたち、気合入れていくよっ!」


『『『おうっ!!』』』

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