第17話 作戦なら力押しで

 生放送を見ている視聴者の反応は劇的なものだった。


 冒険者協会からの緊急告知や、現場の冒険者からのコメントもあり、何かが起こるであろうことへの信憑性は高い。


 ただ、それを受けて行動できるかどうかは、また別の話だ。


「モンスターの現れる範囲は、〈門〉からどの程度になりそうかの?」


「それほど広い範囲にはならないと思います。『ダンジョンブレイク』と同じか、少し広いくらいでしょう」


「なるほど。それならば既存の施設が役に立ちますね」


 彩華ちゃんの表示するデータによると、〈門〉を中心とした直径10メートルほどがモンスターの出現範囲だ。これを囲うように施設が建てられて防壁の役割を果たしている。


「問題は建設途中のこのダンジョンっスね」


 生配信を始めるまでの間に移動してきた私たちの足元には、建設途中の鉄骨の林が広がっている。


 ――〈門〉が整備されてからのダンジョンブレイク映像を見直してるんだけど、すげーやばそうだぞ

 ――5か所同時とか手が足りるのか?

 ――近くのやつはすぐに逃げろ!

 ――冒険者協会が避難指示を出してるぞ!


「そうじゃな、まずは避難が優先じゃ。幸いまだ余裕はある。野狐の皆も焦るでないぞ」


 ――分かりました!玉藻の前様!

 ――はい!

 ――お隣さんにも声を掛けていきます!

 ――「お・は・し」で避難します!


「うむ、うむ。良い心がけじゃ。頼んだぞ」


 一時はパニック状態にあったコメントも、だいぶん落ち着きを取り戻してきた。冒険者やダンジョンに興味のある視聴者が多いためか、その後のコメントは冷静で、避難行動にも期待できそう。


「にゃ! 私たちはどうするにゃ?」


「とりあえず冒険者協会と協議せねばな。まずはそこからじゃろう」


 情報は一方的に山根ちゃんに投げつけているが、まともな協議はしていない。私たちがちょっと突っ走ってるとも言う。


 そんなことを考えていると、地上からこちらを呼ぶ声が聞こえてて来た。


「玉藻さーん! 後藤ですー! お話しを聞かせていただいてもよろしいでしょうかー!」


 おっと、理恵さんの登場だ。こっちのダンジョンへ送ると山根ちゃんが言っていたが、ようやく着いたみたい。きっと山根ちゃんと同じように時間外労働なんだろうな。


 ――おっ、後藤理恵じゃん!

 ――スタンピードの時のお姉さんか!

 ――すごい人なんでしょ?なんでここにいるの?

 ――冒険者協会の職員だからでしょ


「うむ。ひとまず配信はここまでとするか、周知はすんだようじゃしな」


「SNSで情報はまとめておくから、皆確認するっスよ!」


「リンクは概要欄に貼っておきますね」


「バイバイにゃ! また後でにゃぁ!」


「またね」


 ――お疲れ様ー

 ――おつー

 ――本番の配信はしないの?

 ――おつおつ

 ――お疲れっス!


「よし。後藤理恵の所へ降りるぞ」


 配信を終えて、理恵さんの所へと向かう。いつもの装備を身に付けた理恵さんの表情は真剣だ。


「こんばんは、玉藻さん。それに皆さんも。ミズチさんは初めましてですね。後藤理恵と言います。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。ミズチです」


 明日香ちゃんのロールプレイはまだまだぎこちないが、身元を隠すという意味ではこれで十分だろう。というか、角と尻尾、そして龍眼の気配が強すぎて、他の部分が霞んでいる。おそらく詳細な容姿は印象に残らないんじゃないだろうか。


「キムンカムイさんから頂いた資料には目を通しましたが、今一度詳細を確認させてください。その後、よろしければ、関東局に設置された対策本部とのWeb会議にご参加いただけないでしょうか?」


「うむ。山根ちゃんにも申したが、この件に協力は惜しまん。もちろんWeb会議にも出席しよう」


「ありがとうございます。外にテントを用意しましたので、そちらで」


 この辺りはさすが冒険者協会といったところで、緊急時の対応がしっかりしている。対策本部、緊急連絡、関係省庁との連携、部隊編成、ポーションの配備までもが既にすんでいる。


『ダンジョンコラプス』という現象自体は初めてではあるが、世界中での経験が生きているのだろう。


 そして、Web会議が始まった。会議の焦点は、どうやって5か所ものダンジョンブレイクに対応するのか。


 通常ならまずスタンピードをダンジョン内で削り、残ったモンスターを〈門〉を囲う施設を利用して殲滅する。


 今回は最初からクライマックスで、数が減っていないスタンピードをいきなり地上で相手をするようなもの。さすがに全てのモンスターが一度にポップすることはないが、それでもその圧力は尋常ではない。


 力にはどう対応するのか?


「そこは妾たち『マヨヒガ』が1人ずつ散って対処しよう。1人1カ所の力押しじゃ」


 力には、それを上回る圧倒的な力で対応する。

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