第16話 周知させるなら生配信で
「もう止めるのは無理です。だから被害を食い止めるためにきました」
そう言う明日香さんの瞳は、決意に満ちている。
「どうして止めるのは無理なんじゃ?」
「もう始まってるからですよ」
ここで起こったダンジョン消失事件と時を同じくして、日本各地でも〈ダンジョンコア〉の違法回収未遂が起こっていた。それによって、世界を隔てる結界に負荷がかかった。
日本という局地での事件というのも災いした。これが大陸であったなら、安全弁――つまりダンジョンが周囲に満遍なくあるが、日本では集中している。
負荷がかかっていたところに、さらに今回のコアの違法回収が重なり、結界が局所的に崩壊するのも時間の問題だという。
「名付けるとすると、『ダンジョンコラプス(ダンジョン崩壊)』でしょうか。周囲のダンジョンを巻き込んだ『ダンジョンブレイク』が発生します」
「なんと……」
それはやばいなんてものじゃない。1つのダンジョンがダンジョンブレイクしただけで、落ちた国もあるというのに、それが複数?
「明日香さん。その『ダンジョンコラプス』というのは、新たに発生したダンジョンを中心に起こるのですか?」
「そうね。そう考えてもらって良いと思うわ」
「周囲にあるダンジョンは4つです。中心のダンジョンを合わせれば5つ。ちょうどボクたちの人数と一致しますね」
「さすがキムンカムイちゃんね。私もそれが狙いだったの」
「にゃ! そもそも、ダンジョン内でスタンピードを抑えるのじゃダメなのかにゃ?」
確かに。茜ちゃん良い質問だ。6月に起こったスタンピードの感じで言えば、私たちなら1人でスタンピードを抑えることは時間をかければ可能だと思う。そうすれば、地上には被害が出なくて済むだろう。
「残念だけどそれはできないの。『崩壊』というのは文字通りで、モンスターが〈門〉を通ってくるわけじゃないわ」
「つまり、モンスターが地上にリポップするって事っスか!?」
「そんな感じね」
〈門〉にモンスターが到達しなければ良いスタンピードと違って、最初から地上戦を強いられる分、厄介さが何倍も上だ。
「地上戦は確実とな……。キムンカムイよ、とりあえず山根ちゃんに連絡を頼む」
「はい」
「明日香よ。時間はどれほど残されておる?」
「大体8時間から10時間といったところね。〈龍眼〉も万能ではないの。どうしても誤差はあるわ」
「それだけ分かれば十分じゃ」
今の時刻は21時過ぎだから、ちょうど日の出くらいの時刻に『ダンジョンコラプス』が発生することになる。明かりの無い深夜でなくて良かった。
だが余裕はない。スタンピードを地上で迎え撃つ準備が必要だ。それも5か所。
「よし、『マヨヒガ』で生配信を行う。真神、SNSで拡散を頼む。キムンカムイは山根ちゃんに追加で連絡を。猫神は――、明日香のロールプレイ用衣装の準備じゃ」
――配信きたー!
――今度はなんだ?
――こんな時間に珍しいね
――また玉藻先生かな?
――猫神ちゃん様の裁縫講座でもいい!
突然の『マヨヒガ』公式チャンネルでの生配信ではあるが、視聴者の数はとても多い。SNSでは愛里ちゃんが告知してくれているし、山根ちゃんにも一応何をするかの報告は入れてある。……山根ちゃんからの返事は受け取ってないけど。
「野狐の皆よ、こんばんはじゃ」
――玉藻様ー!
――お召し物が変わっている!
――爆発があった現場にいたらしいよ!DXで話題になってる!
――真神様、今日は何をするっスか?
「今日は真面目な話っス。まずはゲストを紹介するっスよ」
「これ? あっちに向かってしゃべればいい? おほん。初めまして、あー、ミズチと言います。よろしくお願いします」
――おえー!後ろの龍って新人さんだったのか!
――真神様のリューちゃんとは違う色だ!
――ミズチ様?
――でっっっっか!画面に入り切ってないやん!
「ミズチよ。一度人型になってくれるか」
「いいですよ。ほっ、と。映っていますか?」
――うわぁ、めっちゃ美人さんだ
――尻尾!尻尾生えてる!すごい!
――チャイナ服エッッッッ!!
――なんという御御足!ありがたやー
「今日はちと真面目な話がある。ミズチから説明させるでの。キムンカムイは補足を頼む」
「はい」
「資料は配信画面に表示しますね」
――なんだ?
――ダンジョンコラプス?
――え?ご近所なんだけど……
――は?まじ?
――冒険者協会から緊急声明が発表されてるぞ!
――ダンジョンに入れなくなってるらしい!
――たまたま現場のダンジョンにいるけどマジだ!急に外にはじき出された!
――え、てことはマジ?
――マジで『ダンジョンブレイク』が起こるの?
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