第15話 龍眼ならお見通しで

「改めまして寺井明日香(てらい あすか)と言います。明日香と呼んでくださいね」


 のんびりと自己紹介をする明日香ちゃんはいいんだけど、一体何の目的で近づいてきたんだろうか。どうやって、の方も気になる。


「大丈夫っスよ、玉藻さん! 初めまして、真神っス!」


「よろしくお願いします。『その姿』の時は真神さんと呼べばいいですか?」


「はい!」


 ん? 『その姿』というのは気になる言い方だ。まるで別の姿があると確信しているような。


「疑問はもっともですね。私は構わないので、愛里さん、じゃなかった真神さんの方から私の〈スキル〉を説明してもらえますか?」


「良いっスよ! 明日香さんの〈ステータス〉はこうっス!」


 ――――――――――――――――――――

 名前:寺井明日香(てらい あすか)

 レベル:30

 HP:560/560

 MP:520/520

 所有スキル:〈格闘術6〉、〈軽業3〉

 転生特典スキル:〈龍体〉

 状態異常:なし

 ダンジョン踏破証:F、E、D、C、B、A

 ――――――――――――――――――――


 おお。なんというか、シンプルな〈ステータス〉だ。〈スキル〉の数も、転生特典〈スキル〉を合わせて3つしかない。


「龍なら強いだろうと〈龍体〉を取ったら、見た目がこんなになっちゃったんですよね。それに他の〈スキル〉を取る余裕もなくって、1つだけです」


「この〈龍体〉ってのがチートっス! いろいろな効果があってとにかくチートっスよ!」


 愛里ちゃんがすごく興奮している。転生特典スキルは、その効果の強さによって、容量のようなものが決まっていて、強いスキルばかり取ることはできない。1つでその容量いっぱいってことは相当なものなんだろう。


「まず〈浮遊〉っス!」


 そういえば、明日香さんはふよふよと浮いている。龍って翼もないのに浮いてるもんね。明日香さんが浮いていてもおかしくはない。


「次に〈龍爪〉っス!」


 なんでも切り裂く爪を出現させられるらしい、任意の場所に。死角から襲ってくる防御不能の攻撃ってそんなんチートやん!


「あと身体能力系のスキルは全部詰まってるっス!」


〈身体強化〉とか〈跳躍〉とか〈登攀〉とかは全部こみこみらしい。むしろなんで〈軽業〉は入ってなかったんだ。


「他にも色々あるっスけど、ここに来たのはたぶん〈龍眼〉の効果っスよね?」


「そうなんです。〈龍眼〉は『真実』を見ることができるんですよ」


「『真実』とな」


「はい。だから前田明さんのことも知っていますよ」


 なんだってー!? それはつまり、ミステリアスロールプレイのことも知っているということですか? それはちょっと……、恥ずかしいっ。


 TRPGでノリノリでロールプレイしている最中に、全然知らない人がやってくるくらい恥ずかしいっ。


「あたいの〈鑑定〉みたいなものっス!」


 さっきしれっと本名がバレてた愛里ちゃんは、まったく気にせずロールプレイを続けている。これは見習うべき心臓の強さだ。


「なるほどの。どうやって、の部分の疑問は解消されたが、何の目的で、はどうじゃ?」


「私の目的は1つです。この世界を守る、それだけです」


 なんか主人公みたいなこと言い出した!


 明日香さんの話をまとめるとこうだ。


 まずダンジョンの存在意義について。これは、モンスターのいる世界と地球のある世界、2つの世界を隔てる結界を守るための、一種の安全弁だという。


 結界がモンスター――正確にはモンスターの持つ魔力――を押しとどめているが、魔力の豊富な世界と魔力の全くなかった地球では、魔力の圧力とでもいうべき力が圧倒的に異なる。例えるなら、富士山に持って行ったお菓子の袋だ。


 パンパンに膨れたお菓子の袋は、富士山くらいではどうにもならないだろうが、もっと上空へ行けば、その内パンと弾ける。


 結界がそうならない様に、適度に魔力を抜くための安全弁がダンジョンという存在らしい。


「この世界に転生した後、なんでダンジョンなんてあるんだろう?って気軽に〈龍眼〉で見てみたら、すごい情報量で1ヶ月ほど倒れてましたよ。あははは」


 龍人でなかったらそのまま儚くなっていてもおかしくなかった、なんて軽くいう明日香さんは、ちょっと変わってると思う。


「それで今回の事件なんですけど」


 ダンジョンが安全弁だとすると、その安全弁が無くなったらどうなるか。それもいくつも同時に。


「急に結界が壊れることはないですよ。それほど弱くはありません。だけど、『ダンジョンブレイク』よりも、もっとひどいことが起こります」


「なるほど。それを防ぐためにやってきたと」


「いいえ、違いますよ」


 え?


「もう止めるのは無理です。だから被害を食い止めるためにきました」

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