第14話 再調査なら初期位置からで
「『特別使用許可証』とな」
「はい。主に警察権の執行にあたる冒険者協会職員が持つ許可証になります。例外的ではありますが、持っておいて損はないかと」
「ずいぶん奮発したものじゃ」
冒険者協会とは良い関係を築けているとは思っていたけど、これは予想外だ。
いや、違うか。下手に私たちが暴れると困るから、先に許可証を渡しちゃえってことかな。変な難癖が『マヨヒガ』に来て、私たちとの関係が悪化するのを恐れたとか?
ありえそうだ。許可証を渡して置けば、窓口は冒険者協会になる。それでおかしなクレームを遮断するつもりなのかも。
「うむ。ありがたく貰っておこう。ほれ、皆も受け取るのじゃ」
「わぁ、かっこいいっス!」
「これが許可証ですか。変な機能は付いていないようですね」
「やまにぇ、ありがとうにゃ!」
「これをお渡ししたのは、今回の事件に皆さんのご協力をお願いしたいからです」
まあ当然でしょうね。こちらも元々そのつもりだったから、協力するのは構わない。
でも、ある程度自由にはやらせてほしい。一緒に行動するとなると、移動に関してだけでも、すごく制限されちゃうからね。
「もちろん自由にしていただいて構いません。適宜情報共有していただければ嬉しいですが」
「そこはキムンカムイにまかせよう」
「はい。ボクの方から共有します」
「ありがとうございます。私どもはこちらの犯人を連れて、一度関東局に戻りたいと思います。ダンジョンへは後藤を送っておきます」
「うむ、わかった。妾たちもダンジョン周辺から再調査を始めよう」
「お気をつけて」
「お主たちもな。よし、ダンジョンへ戻るぞ」
「はい!」「はい」「にゃっ!」
飛び立つ私たちを野次馬のカメラがとらえている。……むふ。ああ、ダメダメ集中しないと。ミステリアスなロールプレイで悦に入るのは、ダンジョン審判教の狙いが分かってからだ。どこに危険があるか分からない状態では、周りの人が危ないからね。
ロールプレイは一旦おいておいて、ダンジョンへ戻る間に、調査をどうするのか皆で相談だ。
「何か手掛かりはないものか」
「〈ダンジョンコア〉はそれぞれ固有の魔力を持っているので、直接探すような〈マジックアイテム〉を作るのは難しいです。大きな魔力を探知するのが精いっぱいですね」
「ふむ。それで良いから準備はしておいてくれ」
「分かりました」
彩華ちゃんの〈錬金術〉でも難しいか。
さらっと準備してくれた魔力検知器とも呼ぶべき〈マジックアイテム〉を〈姿見える君4号〉とリンクさせた。これで、装着しているモノクルに、マークされた大きな魔力反応の位置を表示することができる。
「ボクたち4人の反応は除いてあります」
「あれ? でも、キムンカムイちゃん、近くにすごく大きな反応があるっスよ?」
「こっちに近づいてるにゃ!」
「ふむ。あちらの方角か」
レーダーのような表示になっているモノクルに、1つの大きな光点が映し出されている。それは前方からこちらへ近づいてきているようだ。
「ボクたちと同じくらいの大きさです」
「地上には何も見えないっス!」
「どこにゃ? どこにいるにゃ?」
「上じゃ!」
〈気配察知〉の範囲に入ってきたのは、上空から近づく大きな存在。細長く、力強く、空を泳ぐその気配は、尋常のものではない。
「おーい!」
かと思えば、それが発するのは若い女性の声であった。
「あれ、聞こえてないのかしら? おーい!」
近付いてくるのは、真っ白な鱗を波立たせ、黒い鬣(たてがみ)を揺らし、黄天の双角を頂く1匹の龍。西洋竜じゃなくて東洋龍。
かなりの速度で近づいてきた龍は、私たちと向かい合う形で静止した。
「こんばんは!」
「あー、こんばんはじゃ」
「初めまして、あなたたちが『マヨヒガ』、で合ってるかしら?」
「うむ。そうじゃが、お主は龍、なのかえ?」
「いえいえ、私はただの龍人です。名前は寺井明日香(てらい あすか)と言います。よろしくお願いします」
「う、うむ。よろしく頼む」
ただの龍人って何よ。いやなんとなく言いたいことは分かる。私だって、ただの獣人だし。
「あっ、この姿だと話しづらいですよね。ほいっと」
気の抜けた掛け声とともに寺井さんの体が光り、成人女性くらいのサイズに縮んでいった。獣化の時の変化に近い感じだ。
本人の申告通り、現れたのは角と尻尾を生やした龍人の女性。背丈は愛里ちゃんと同じくらいでラフなパンツスタイルだ。肌の色は透明感のある白、腰まで伸びた緑がかった黒髪は先端の方で緩く結ばれている。
そして、それらをおいてひと際特徴的なのは、瞳孔が縦に伸びた龍眼。髪と同く緑がかった黒の虹彩には、煌めく金が散りばめられ、まるで星空のように輝いている。
すべてを見通す龍眼は、それ自体が1つの世界と言ってもいいだろう。
「改めまして寺井明日香(てらい あすか)と言います。明日香と呼んでくださいね」
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