第13話 手掛かりならどこに?

 末永兄妹を気絶させた後、なんとなく嫌な感じが続いていた。


 それでどうしたものかと思っていたら、体内――おそらく胃――から爆発するもんだからびっくりした。


 なんとか〈狐火魔法〉を胃まで潜り込ませ、消化器官に影響の無いよう爆風を外に逃がし、ついでに周囲へ爆発の影響が行かないよう上空へ散らしたのだ。ちゃんと2人とも生きてるよ。


 夏の暑さを防ぐために、〈火魔法〉を体に貼り付けるアレ。アレを練習しておいて本当に良かった。そして土壇場でしっかり魔法を制御できて本当に良かった。自分で自分をほめてあげたい。


 もし失敗していたら、目の前で人が爆散していたかと思うと、想像するだけでトラウマものだよ。


「大丈夫っスか! 玉藻さん!」


「うむ。問題ない。他に危険なものを仕込んでおらぬか〈鑑定〉しておいてくれぬか」


「まかせてくださいっス!」


 爆発なんてあったものだから、さすがに皆が寄ってきた。心配かけてごめんね。


「玉藻さん、本当にケガはないですか?」


「〈狐火魔法〉で防御したからの。何も問題ない」


「心配したにゃあ! 良かったにゃあ!」


「猫神よ、落ち着かぬか。これ、抱き着くでない。まったく」


「〈鑑定〉では、もう危険はないっスよ! あとこいつらの本名は末永じゃなかったっス! しかも兄妹でもなくて、ダンジョン審判教のスパイだったっス!」


 あら、それは偽造IDというやつかな。末永でも兄妹でもなかったと。それも愛里ちゃんの〈鑑定〉にかかれば丸裸と言うわけか。あとで山根ちゃんにも知らせておこう。


 で、依然として問題なのは、なんでこんなことを仕出かしたのか、だ。


〈ダンジョンコア〉を盗ったからってダンジョンブレイクは起きない。それとも、何か方法があってダンジョンブレイクが起きるんだろうか?


「危険がないと分かったなら、〈ダンジョンコア〉を回収しておくとするか」


 どれどれ。車の中には……、見当たらないぞ。


「何やら嫌な予感がするのう。皆、コアを探すのじゃ」


 車の中にはない、周囲にもない、末永兄妹(偽造)も持ってない。どこにもない。


「ないっス!」「ないです」「にゃいにゃ!?」


〈ダンジョンコア〉は見当たらなかった。もちろんマジックバッグの類も調べたが無し。そもそも大きさ的に入らない。


「これは、まずいことになったのう」


「陽動だったと言うことでしょうか」


「うむ。他に手掛かりはないか……」


 改めて車内や末永兄妹(偽造)の所持品を調べてみても、手掛かりになりそうなものはない。携帯通信機器やDギアさえなかった。おそらく道中のどこかで処分したのだろう。


「末永兄妹が登録していたDギアのサーバー履歴を調べてみても、怪しいところはありません」


「手詰まりっスか……」


「にゃ! 人が集まって来たにゃ!」


 夜半過ぎとはいえ、大きな音を伴う爆発があったためか、野次馬が続々とやってきている。人が集まると少し面倒だ。


「冒険者協会の動きはどうじゃ?」


「もうすぐこちらに到着するようですが……。あっ、あれでしょうか」


 サイレンは鳴らさずに回転灯だけを付けたパトカーが1台と、それに追従する車が2台こちらへやってきている。


 パトカーは交通整理や規制線は張るためか少し離れた位置へ止まり、それ以外は犯人の車を挟むように止まった。


「あっ、山根ちゃんっス! おーい!」


 ああ。ついに山根ちゃんが現場にまで出張る様になってしまったか。これは『マヨヒガ』担当として確固たる地位を築いてしまっているね。元大人、元社会人として良く分かる。これは相当な無茶ぶりをされている。


「『マヨヒガ』の皆さん、こんばんは。キムンカムイさんからご連絡いただきましたが……、この方たちですか」


「はい。追加のデータも送付しておきます。真神さん、犯人たちの身元の情報をまとめてもらえますか?」


「了解っス! そっちも山根ちゃんに送っておくっス!」


「情報提供、ありがとうございます」


 きっちり折り目正しくお辞儀をする山根ちゃん。こんな時間だと言うのにピシッとしたスーツ姿だ。


「うむ。こちらこそ礼を言う。良く来てくれたの、山根ちゃん。真神が安全を確認しておるが、拘束するならば念を入れておいた方が良かろう。飲み込んだ爆弾を爆発させるようなやからであるからな」


「爆弾ですか。確かに爆発のような音がしていましたが」


「玉藻さんが魔法で防いだんだにゃ! やまにぇも動画を見たらそのすごさが分かるにゃ!」


「後ほど確認させていただきます。ところで、肝心の〈ダンジョンコア〉はどこにあるのでしょうか?」


 それには誰も答えられない。追加のデータや犯人の身元を確認した山根ちゃんの表情は重苦しい。


「審判教に〈ダンジョンコア〉の消失ですか……」


「この2人がダンジョンから出た所から追跡しておるが、我らの力も万能ではない故な」


 監視カメラの死角や、そもそもカメラがない場所だって多い。あらかじめ何かが起こると分かっていなければ完璧な追跡は難しい。


「いえ、こうして早期に情報提供していただけるだけでも助かります。こちらからもお渡ししておくものがあります」


「なんじゃ?」


 山根ちゃんから手渡されたのは、免許証サイズの手帳のようなもの。表紙をめくると、玉藻の前の写真が取り付けられている。その下には『特別使用許可証』の文字と玉藻の前と言う名前が書かれている。


「それはダンジョン外でのスキル使用の許可証になります。局長の長谷川より皆さんにお渡しするようにと預かってまいりました」

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